2017年12月21日

12月21日 福島の放射線教育の今(4)

今週は、福島県で活動する内科医、坪倉正治さんのインタビューをお送りしています。坪倉先生は、相馬市相馬中央病院など福島県内4つの病院で診療を行う一方、地域住民への放射能教育にも積極的に取り組んでいます。

震災直後から福島県に通い、診療や被ばく検査を続けてきた坪倉先生がいま最も懸念している健康の課題が「糖尿病」などの生活習慣病です。坪倉先生も加わった研究チームは、今年9月、ある論文をアメリカのオンライン科学誌「PLOS ONE(プロス ワン)」に発表しました。南相馬市と相馬市の住民の、健康と余命に関する調査研究をまとめたもので、研究チームは「糖尿病の増加によるリスクが、放射線被ばくによる発がんリスクの20倍から30倍」と推定しています。
  
◆7年経過で見えてきた健康被害のリスク
医者の立場としては、糖尿病のリスクとか生活習慣病のリスクがすごく大きくなってきています。福島では今、介護費用がものすごく増えているんです。僕らの健康は人と人とのつながりのなかで守られている部分がすごく大きくて、家族と一緒に住んだり、まわりの地域の人と一緒に住むことで僕らの健康はかなり規定されているし、かなり守られている部分がある。それがばらばらになったことによる健康への影響というのは、全然ばかにならない。ご家族がばらばらになった、地域がばらばらになった、お隣さんご近所さんが変わった、職が変わった。そういったものによる影響はばかにならない。そういうことに対して、医者の立場からは薬を出したりすることはできるが、それだけ簡単になおることではなくて、それに対して僕らができることを一つひとつやっていくことが大事だし、一番難しいことだと思っています。


一方、福島県内の小児甲状腺がんに関する検査と現状に関しては、こう話してくれました。

◆甲状腺の検査、増やすべきではない
放射能被ばくのせいで甲状腺がんがどんどん出てくるというような状況では決してないと考えています。甲状腺がんはもともと我々がもっているもので、性能のいいもので検査をしてしまうと、甲状腺がんは多く見つかってしまいます。そこで数字だけを見ると増えているように見えてしまいますが、それは検査をやっているから増えているとわたしは思っています。根拠は被ばく量が圧倒的に少ないから。今後甲状腺の検査をどのように続けていくかは、いろんな委員会が議論しているところですが、医者の立場としては、検査をやり過ぎるべきではないと思っています。それは検査をやめましょうということではなくて、私も検査で自分の子どもになにもないことがわかって、よかったと安心するお母さんを何人も会ってきたし、検査自体が悪いとは言わないが、検査の規模をどんどん拡大するような考えは明確に間違いだと思っています。


坪倉先生のお話について、あなたからの感想もお待ちしています。『LOVE & HOPE』のブログ、メッセージフォームからお寄せください。抽選で5名の方に、3000円分の図書カードをプレゼントします。

2017年12月20日

12月20日 福島の放射線教育の今(3)

今週は、福島県で活動する内科医、坪倉正治先生のインタビューをお届けします。

坪倉先生は、相馬市相馬中央病院など、福島県内4つの病院で診療を行う一方、地域住民への放射能教育にも積極的に取り組んでいます。

避難指示の解除にともなって、故郷の町や村に戻る皆さんからも、放射性物質の影響や健康リスクについて、問い合わせを受けることがあると言います。

◆数字だけの議論では伝わらない
以前放射能の汚染が強くあって、避難区域という設定がされて、その後放射線量が下がってきて避難指示が解除された区域などで、生活して大丈夫かという不安がある方もいると思う。科学一辺倒で数字だけで言うのであれば「科学的な見地からは、問題とされるレベルより圧倒的に低いし、大丈夫ですよ」ということになる。けれども、そう言ってしまうと、数字だけの議論になってかなりドライな言い方になってしまう。「大丈夫です」と。それは間違ってはいないけれど、医者の立場でやっていくことというのは、例えば小さい子どもを持つお母さんが、放射線の不安と全然関係なく「こういう不安があるんです」と病院を尋ねてきたときに、「それは医学的に全然あり得ないよ!」とぽんと蹴とばすわけには決していかない。どうしてそのお母さんがそんな不安を持ったのか、どういう生活をしているんだろうかとか、そういうことをちゃんと聞いて、コミュニケ―ションの中でアドバイスを見つけていくというのが、やらなければいけないこと。今後もそういうことが必要。

自主避難というのはさらに話が難しくて、多くの場合、自主避難されている方が戻ってきたときに、科学的に考えて子どもたちが放射能被ばくでどうこうなるということはまず考えられない。ただ、そういうことを前面で言ってしまうと、「あなた、放射能のこと理解していませんよね、ちゃんと勉強されたほうがよろしいんじゃないですか」と言っているようにとられてしまったりする。そうすると、伝わることも伝わらなくなってしまう。目標は放射線のことをわかってもらう、というより、その先にある、自分自身が生活をしっかり選んで、前向きに生活を営んでいくという状況をつくることが、われわれがやるべきこと。単に「低いから大丈夫ですよ」ではよくないと思う。実際に家族の中でも放射線に対する考え方がバラバラなのか、震災の前はどういう生活をしていて、いまはどうなのか。そうことを一つひとつお聞きしないと「自主避難の方は不安ですよね、大変ですよね」と簡単にまとめられる話ではない。そういう方々をちゃんと見守りながら、お伝えできることをお伝えしていかなきゃいけない。


放射性物質による健康リスクに関しては、人によって意見やスタンスが異なります。坪倉先生は、それぞれの意見も踏まえたうえで、住民一人ひとりと真剣に対話を重ねています。

★あなたからの感想もお待ちしています。『LOVE & HOPE』のブログ、メッセージフォームからお寄せください。抽選で5名の方に、3000円分の図書カードをプレゼントします。

明日は福島の新たな健康の課題と、小児甲状腺がんに関する所見を伺います。

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パーソナリティ 鈴村健一

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