油断しないで! 海でカヌーを安全に楽しむ方法
少しずつ暖かくなり、これからアウトドアスポーツを楽しもうという方も多いと思います。でも、自然が相手だからこそ、安全に楽しむために知識と技術を身につけることが重要です。
今回は「油断しないで。海でカヌーを安全に楽しむ方法」というテーマでお話しました。
秋元 オリンピックが開催されると、私たちがあまり経験したことのないスポーツにも注目が集まるものですが、JOYくんはオリンピック・パラリンピック競技の中で興味があって挑戦してみたいと思っているスポーツはありますか。
JOY 精神力、集中力のいるアーチェリーや、スポーツクライミングとか、挑戦してみたいかな。
秋元 色々ありますけど、暖かくなってくるこれからの季節、カヌーにも挑戦したいと思っている方もいるのではないでしょうか。
今日は早速スペシャリストをお呼びしましょう。
日本レクリエーショナルカヌー協会理事で、海上保安庁 海の安全推進アドバイザーを務める内田正洋さんと海上保安庁 交通部安全対策課 海難防止対策官の杉山勝彦さんです。
内田さんは台湾から東京湾までの海域を、シーカヤックというカヌーで2度も漕破した経験があるそうですね。
内田 91年には台湾から九州、翌年92年には西表島から東京湾まで漕ぎました。西表島から東京湾までは大体2,400キロぐらいで、島に沿って行くので、漕いでいる期間は2週間ほどです。
JOY そんなに長い期間漕いでいて、腕がパンパンにならないんですか。
内田 技術を身につけていれば、パンパンにはなりません。
秋元 シーカヤックは、道具もそんなに必要ないし、初心者でも簡単かなというイメージがありますが、その辺り、いかがですか。
内田 シーカヤックは、手軽に思われるけど、ちょっとでも海の事を知っている方は、怖いと言いますね。
JOY シーカヤックは、カヌーの一種と言うことですが、カヌーにはどんな種類があるんですか。
内田 カヌーには、海のほか、川や湖といった楽しむ場所によって違いがあります。
また、カヌー自体の種類として、競技用のカヌー、ツーリング(旅)をするためのカヌー、釣りをするためのカヌー、折り畳み式のカヤックなど、色々な種類があります。
JOY そんなに種類があるなんで知りませんでした。
秋元 海でのカヌーと言うことで伺っていきますが、杉山さん、事故の状況について教えて下さい。
杉山 はい。海でのカヌーによる事故は例年3月から増加傾向にあってゴールデンウィークのある5月に最も多く発生しています。
カヌーの事故により、平成30年は、4名の方が、亡くなられたり、行方不明になったりました。
JOY どのような事故が多いんですか。
杉山 最も多いのは、転覆したカヌーを元に戻すことができず、カヌーにつかまったまま漂流するという事故で全体の4割を占めています。主な事故原因は、天気や海の状態への不注意と、初心者による技能不足です。
実際、事故にあった方のおよそ7割はカヌー経験が3年未満というデータもあります。
JOY カヌーは天気が穏やかで波がない時なら安心して乗れそうだけど、ひとたび風や波が出てきたら怖さも倍増しますよね。
杉山 昨年4月に発生した事故ですが、シーカヤックの経験が2年ある方が海上強風警報発令中にシーカヤックで海に出たら、強風と高波の影響で転覆してしまいました。この方は、幸い、海上保安庁から連絡を受けた付近の貨物船に救助されました。
JOY どうして、海上強風警報発令が出ている中海に出ちゃうんですかね。
内田 判断がすごく難しいんです。海に出ている時に、警報が発令される場合もあります。
JOY 内田さんからみて、自分の技術を過信している方は多いですか。
内田 海を含め、自然全てに対して、自分の技術を過信していたら生き残れません。自然は容赦してくれませんからね。
海が穏やかな時でも、途中で風が吹いてきたら慌てて帰ることもあります。
JOY 海は容赦してくれませんもんね。
秋元 たまたま付近に貨物船がいたからすぐに救助できましたけど、最悪の事態を招いていたかもしれませんよね。
杉山 はい。カヌーは手軽に楽しめる一方で、特に海においては、きちんと自分自身で安全管理をしないと、命を落としかねない大きな事故を招くおそれがあるんです。
秋元 怖いですよね。
内田さん、海でカヌーを安全に楽しむために、何が大切か、カヌーのスペシャリストの立場から教えてください。
内田 まず、自分で自分を助けるセルフレスキュー術などの技術を身につけることが大切です。
基本的にカヌーは一人乗りが多いです。これはつまり、初心者の方がいきなり船長になるということになります。すると、そこには責任が生まれます。目の前の海の状況が、今、どんな状況なのか、これまではどうだったのか、明日はどうなるか、気象の変化を日ごろからチェックしておくことが大事です。
JOY その時だけではなく、常に見て、確認しておくことが大切なんですね。
カヌーによる事故が起きていますが、シーカヤックの事故はどこで起きているんですか。
内田 海で起きています。
また、事故はカヤックの種類によっても変わってきます。
シーカヤックと呼ばれるものは、ツーリング(航海)に耐えられるカヤックの事です。
先ほどお話した、釣り用のカヤックは元々ダイビング用に開発されたもので、安定性はありますが、風には弱く、一度転覆すると起こすのが大変など、その目的に合わせたメリット、デメリットがあります。
なので、そのカヤックの目的やタイプをしっかり理解することが大切です。
JOY それぞれのカヌーの特徴や違いをしっかり理解しておくことが大事ですね。
内田 初心者の方は、ガイドがついているエコツーリズム、エコツアーへの参加もお勧めです。カヌーやカヤックのツーリングができます。
JOY ガイドさんと一緒に海へ出ることで、知識や技術が学べるし、事故のリスクも軽減できるわけですね。
秋元 海でカヌーを安全に楽しむために必要な装備品について教えていただけますか。
内田 基本的には、ライフジャケットの着用です。
頭が浮くくらいの浮力があるので、ライフジャケットは絶対に着用してください。
最近では、ファッション性を考えたライフジャケットも出てきています。
JOY 海で安全にカヌーを楽しむために必要なことは他にもありますか。
内田 環境を学ぶことが大事です。
環境を学ぶことで地球の動きが分かり、自然災害に対応する知識や技術が身につきます。例えば嵐の日の海でどのように対応し、陸地までどうやって戻ってくるかといった時に、役立ちます。
実は、この知識というのは、アウトドアスポーツだけでなく、防災時にも役立てられます。
JOY 日本は自然災害が多いですが、海で学んだ経験は陸にいても、生きてくるというわけですね。
内田 はい。その技術と知識は、アウトドアスポーツの一つの役割りになってきていると思います。
秋元 カヌーをやってみたいなという気持ちと、知識と技術がどれだけ大切か実感しました。
内田さんには事故防止のポイントを簡潔にお話ししていただきましたけど、海上保安庁ではサイトで紹介しているんですよね、杉山さん。
杉山 はい。
海上保安庁の総合安全情報サイト「ウォーターセーフティガイド」ではカヌーをはじめ海の事故防止のための情報をまとめてご紹介しています。講習会の一覧や安全啓発動画などのリンク先も、こちらに掲載されています。
是非、海でカヌーなどを楽しまれる時は事前にこちらをご覧になってください。
秋元 内田さんの一言一言が深かったですね。
アウトドアって、防災という概念もあるなと思いましたね。
海を楽しんでいる方って、海の怖さを知って、理解している方なんだとも思いました。
JOY 今日の話を聞いていて、すごく勉強になったな。
テーマとしては、カヌーの事故防止についてだったけど、色々と考えさせられたよ。自然環境を知って学ぶことがいかに大切か。海に出ていれば色んな知識が身につき、陸で何か起きた時にも対応できるし、すごく大きなテーマだったと思ったな。
きっと大丈夫!とノリで海に出ていかずに、しっかり知識と技術を身につけて海を楽しんでほしいですね。
参考:ウォーターセーフティガイド(海上保安庁)