「洪水は悪いことばかりじゃない」もとやスーパーの未来予想図
元日の能登半島地震、そして9月の豪雨でたいへんな被害を受けた、石川県輪島市・町野町からのリポートです。
取材したのは町内で唯一の「もとやスーパー」。9月の豪雨で氾濫した鈴屋川からほんの数十mの場所にあります。もとやスーパー代表・本谷一知さんに伺いました。
「我々のお店は、地震で5割が倒壊して、商品も5割捨てたが、まだ商売ができる状態でした。でも今回の水害で全て流され、レジから通帳から全て、完全にゼロになって。浸水の高さは背の高さよりはるか上。地面から測ると2m30cmは来ています。僕らは最初、商品を上に上げていたんです、まさかこんな風になるとは思っていなかったから。じわっと水が入ってきてから2mになるのに20分ですね。早いですよ。やっぱり逃げたほうがいいですよ。ただでさえ地震で倒壊した家屋ばかりだから、家のきしむ音、雨の音、濁流がぶつかる音、木材がぶつかる音で、すごい音でした。僕らは車を9台流されていますし、自動販売機も流されて木っ端微塵です。」
「中途半端に残らず全部流されたでしょう。だからゼロからのスタートということになって、新しくこの街をデザインする方向に今は向かっているんですよね。私は地震の後、夏場の7月8月はちょっと鬱状態だったんですよ。それを全部水が流してくれた。鬱状態で病院に行ったら「薬をあげてもいいけど、11月まで予約がいっぱいなんですよ」と。みんなそうなんです。それを聞いたら治っちゃったんですね。僕が落ち込んでいる場合じゃないと思って。そう思った次の日に洪水が来たんです。だから大きいことはできないけど、元気だけなら僕1人でも出せると思って、表情も言葉も全部変えて、コーヒーも出すし、音楽もかけるし、新聞も持っていっていいし。(それこそお金にならないけど大丈夫ですか?)全然大丈夫。お金じゃないです。もちろん今から事業を展開して、いろんな未来予想図が僕の中にあります、それはそれでちゃんと計画を立てていますので。今は住民を助けたいよね。」
もとやスーパーは11月11日に仮オープンという形で商売を再開。本谷さんはお店の復活の「先」に、こんな将来像を描いていると言います。
「11月30日は「復活オープンロッキー祭」というのをやるんですよ。所狭しと商品を並べて、電気も通して、みんなに楽しんでもらう空間。その次がこれ。これが来年の将来図。『もとやBASE』。元々スーパーのスペースが大きくて、300坪位あるんですけど、住民の数が減るのが確実にわかっているので、これをぎゅっとコンビニ位のスペースにして、とにかく安くて、新鮮なものがあって、能登牛があって、朝獲れの刺身があって、パンチ力のあるスーパーをここに作って。ここは全部、宿泊施設でネットカフェ50席を用意するんです。ここで移住者や作業員、観光客や帰省客が田舎をスタイリッシュに楽しめる空間をしっかり作って、作業員で「ビールが飲みたいけど、運転がある」なんてこともなく、おつまみで刺身が食べたいと思えば横にスーパーがあるという。」
「僕は地震の前は今で言う意識高い系で、努力すればできない事はないと思っているタイプで、もとやスーパーを100店舗作るという野望が20代の頃はあって、休みの時は20キロ走って、1年間に本を1000冊読むと言うような人間だった。でも何をやってもうまくいかなかったんです。でも、何一つうまくいかなかったのが、水害でゼロになって、全国からいろんな人が集まっていろんな発想で「ここはこうすればいいんじゃないか」「ここはピカピカに成城石井風にしようか」と思い描いていた通りにしてくれた。だから人生には流れが必ずある。種まきの部分と刈り取る時期が必ずある。それがわかる。今の僕の仕事は流れを止めないこと。選別して求められていることをやること。それにはやっぱり、世のため、社会貢献、日本の福祉のために、と気持ちが変わったというのがあるし。父親の思い「俺は今幸せだよな」と言うわけ親子の会話で。「お店をお前に引き継ぐまでが俺の仕事だ」と泥の中で言うわけ。そういう思いや、この町野の人たちの想い。街を作ってくださった先輩たちで亡くなった人たちの想いがあるのでね、そういう人たちの想いに対する責任の取り方が、この場所でもう一度明かりをともして、人が集まるかどうかわからないですけど、とりあえずここで明かりを灯すことが僕の責任の取り方だと思うんだよね。それが意識の超高い系の僕が出した答え。だから、洪水は悪いことばかりじゃないと気づかせてくれた。そういう意味で。」
もとやスーパー2代目 父の一郎さんと
もとやスーパーでは町野の復興に貢献し「もとやBASE」を開設する目標を現実にするため、Tシャツとパーカーの販売を開始しています。
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