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24.09.13
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復興の火をともす〜石川県珠洲市の伝統工芸品、珠洲焼の「伏見窯」を訪ねて


先週に続き、今回も石川県珠洲市からのレポート。先週お届けした築180年の古民家を活用したレストラン、「典座」に隣接する「珠洲焼」の窯、「伏見窯」を訪ねました。

窯主の坂本市郎さんは、「典座」の坂本信子さんのご主人でもあります。

平安時代にさかのぼる歴史を持つという伝統工芸品「珠洲焼」。現在は「伏見窯」を含めて19の窯があり、窯を持たず「珠洲市陶芸センター」の工房を使っている作家を含めると、20人以上の作家が活動しています。しかし今回の地震ではそのほぼすべての窯が被害を受けたということ。

まずはそんな珠洲焼の歴史について、坂本市郎さんに伺いました。

◆◆◆

「もともと平安の末ぐらいから鎌倉、室町にかけて、この能登半島の先端の珠洲の地で作られて、その当時は水瓶とかすり鉢とか、そういう日常生活に使う器、かなりいっぱい作っていて、船で日本海側を運んでいたそうです。当時のものが北海道あたりからでも出土するということで、産地だったんですけれども、戦国時代に突然途絶えてしまいまして、長い間ずっと眠ったままになっていたのを、40年ぐらい前ですかね、復興することになりました。で、うちに関して言えば、うちの父が瓦屋をやっていたんですけれども、その復興珠洲焼の方に乗り換えて、というか携わるようになって。私は東京でサラリーマンをしていたんですけど、呼び戻されて、珠洲焼の制作に関わることになりました。今年で33年になります。

特徴は、黒い焼き締めという、上薬を使わずにそのまま窯の中で焼いて、薪の灰がかかってツヤが出たりするということと、あと黒いというのは、この辺の粘土に鉄分が多く含まれてまして、で、薪を使ってちょっと酸素が少ない状態で燻すような焼き方をする。“燻べ焼き”と言いますけど、それによって黒い色が出るということで、ちょっと他にはあんまりない特徴を持った焼き物です。

焼き物っていうのはやっぱり使う道具なので、使い心地が良いものとか、それを使う人が楽しいというか使いやすいというか、そういうことを心がけてやって。あとは自分で楽しみながらということで、あんまりちょっと、アートに思考される方もいらっしゃるかもしれないですけれど、どっちかというと私は、日常に根付いたような焼き物の方が楽しいかなと思っております。」


じつはいちど歴史が途絶えたものを復興させた工芸品だったという「珠洲焼」。市郎さんの作った器から伝わるのは、土の風合いがにじみ出た素朴な風合い。触れるとじつに手になじむ感触がありました。

そんな坂本市郎さんの「伏見窯」ですが、1月にスタッフが伺った時は、建物が崩れ、中がどうなっているかもわからないボロボロの状態でした。


そこから約半年経った、今の状況とは・・・

◆◆◆

「そうですね。窯を入れていた建物はかろうじて立っていたんですけど、やっぱ窯が地震で半分ぐらい崩れた状態になっておりましたね。そして昨年、蔵を改装してギャラリーを作ったんですけれども、オープンして3ヶ月(経った時の地震)で壁が抜け落ちてしまいまして。飾っていた珠洲焼もほぼほぼ割れてしまいまして。ちょっとショックでしたね。ギャラリーの方は今でもちょっと手つかずで何もやってないんですけども、窯の方はまだ形が残っているので、組み直して何とかしようと、それはすぐに思ったんですけれども、なんかまあやっていると、2月後半ぐらいからですか。ボランティアの方がいろんなところから来て頂いて。こっちから“来てください”って言ったわけじゃないんですけど“なんかすることない”みたいな風に来てくださる方がいっぱいいらっしゃって、“じゃあちょっとそのレンガを並べてみてください、また組み直すから”って。どんどんどんどんやってくれるんで、私の方が追い立てられるような感じで(笑)。で、ゴールデンウィーク前ぐらいに窯がようやく組み上がったんで、あとはちょっと壊れた機材、炙り用のバーナーとかがレンガに埋まって壊れちゃって、それを(買い)求めようと思ったら、同級生が募金をしてくれて、バーナーもこの間届いたんです。で、中に入れる品物を作って、今、窯に火が入っております。ちょっと窯焚きの合間にお話をしとるわけなんですけれどもね。半年かけてようやく今年1回目の窯焚きができるようになりました。

職人なんで、そんな“人の手を借りる”のはなんか“恥だ”みたいな思いもあったんですけれども、なんかみんながどんどんやってきて、どんどん手伝ってくれたり、いろいろ助けてくれたりするんで、本当に流れに押されるようにしてここまで来て、本当に感謝しかないですね。」



まさに取材に訪ねたその時、震災後はじめてとなる火入れの最中でした。火入れは丸二日間、薪を入れながら寝ずに見守るのだそうです。

直したての窯で、火の入り方とか不安もあったそうですが、後日お話を伺ったら、やはりこまかい隙間があったのか、焼き具合に満足いかず、商品として出すものは出来なかったそうです。さらに修繕を重ねて、もとの「伏見窯」のクオリティを取り戻していくべく、今月ふたたび火入れをする予定ということ。ひょうひょうとお話しされる市郎さんでしたが、こと伏見窯の生み出す作品に関しては妥協を許さない強い信念を感じました。納得のいく市郎さんの珠洲焼、出来上がりが楽しみです。

とはいえ珠洲焼に関してはまだ多くの窯が再開できずにいるそうで、「伏見窯」の火入れはとりわけ早い方だったとか。市内の「珠洲焼館」など、“買う場所”も再開できていなくて、欲しいという方は、いまは「伏見窯」をはじめ、現地を訪ねるしかないのが実情です。まだまだ復興には至っていない「珠洲焼」の現状ですが、震災を免れた珠洲焼は個々の窯で販売していたり、「珠洲市陶芸センター」では2基の窯の修復が終わって利用が再開されていたり、その歩みは一歩ずつ進んでいます。

ぜひ珠洲市に足を運んで、そんな状況も感じながら、「珠洲焼」を探して、手に取って欲しいと思います。

ちなみに「伏見窯」なら、隣に市郎さんの奥さま・信子さんが手掛ける古民家レストラン「典座」があって、土日限定ですが美味しいランチも味わえます♪

「珠洲焼」オフィシャルホームページ
「典座」オフィシャルホームページ

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