珠洲市の古民家レストラン「典座」店主、坂本信子さんの新たな取り組み
今回は「令和6年能登半島地震」の被災地、石川県珠洲市からのレポート。1月に取材で訪れた珠洲市の古民家レストラン「典座」を再訪しました。
築180年という江戸時代末期の古民家を活用、地元の焼き物「珠洲焼き」の器と、地産食材をつかったお料理を求めて遠方からの来客も多かった人気のお店ですが、取材当時は建物の所々が破損するなど、営業再開の目途が立っていない状況でした。
ご主人の坂本市郎さんは珠洲焼きの職人で、敷地内に「伏見窯」という窯をかまえていましたが、こちらも被災。窯もレストランも、先が見えないという当時の状況でした。
市郎さんの窯は修繕が進み、今すでに窯に火が入っていますが、そのお話しは次週ご紹介。今回は、あれから8か月あまりの信子さんのここまでの歩みと今の状況を伺いました。
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「ぜんぜん何もしてなかった時期からすぐ始められてっていうか、私がスタートできた事っていうのが何個かはあるんですけれども、その中で一番良かったなぁと思ってることが、3月14日から珠洲市内の避難所に避難されている方、もしくは自宅に帰ったとしても水が全くその頃は出ていなかったので、その方たちに届ける“お弁当作り”の組織作りというのができまして、その時で2グループでのお弁当作りを分担してやったんです。珠洲市内の被災した飲食店の方のグループなんですけれども、“店が壊れて仕事ができない”っていう人たちを集めて、6店舗おられたんですが、私も含めてその6店舗で、国の予算を頂いて保証していこうという。
これは何のためにやったかというと、飲食店の人たちに珠洲から出てって欲しくなかったんですね。私はやっぱり復興とか復旧とかになった時に必ず(飲食というのは)必要になってくるポイントだと思って、この人たちを今、変な言い方すると市外に出してはいけないと思って、それは何があれば居れるかなと思うと、店はダメになってるけれど、でも仕事ができる場所ができればこの土地に居れるんじゃないか?っていうことで、一軒一軒お邪魔して、“ああそうかそうか”ということでご協力して頂いて、珠洲市のほうと掛け合いをして場所を提供してもらって、3月14日から、私たちグループは夕食のお弁当、1回1400食っていうのを作ったんですね。
避難所に搬入している時は子供たちが取りに来てくれて、“あ、ご飯来たっ!”ていう時に、すごく真っ当なことができてるなっていう、自分たちで配達行く度にみんなもう泣いて帰ってきて、なんかこうみんなで喜べるものができて良かったなぁと。今でもなんか子供たちの遠くから廊下を走ってくる足音とかがちょっと聞こえてくる感じではありますね。
で、「典座」の方も、建物は残っていてくれたので、あとは井戸水と水道がわりと早い時期に来てくれたので、土日だけ、お任せランチしかできないんですけども、始めたという感じです。
(ある日伺った時のランチ。ほろほろの角煮が美味しかったです)
で、南三陸のかた、発災後に出会った方なんですけれども、その方が、“ぜひ見に来た方がいい”、“私たちが経験したことを話せる人たくさんいるから、その人に会いに行こう、会いに来て”って言ってくださって、行ってきたんですね。“見てみたい”、“聞いてみたい”というのももちろんあったんですけれども、まあちょっとこう心の底では、“この今の場所から現実逃避したい”っていう気持ちももちろんあったんです。
行った時にはなんか、13年前は今の能登の状況で13年経ったらこういう状況になれるんだなっていうのは思いました。そして皆さん優しくて、すれ違う人たち、“私、能登から来たんです”って言うと、“大丈夫あなたたち。13年わたしたちかかったけど、きっとここまで来れるよ”って。「さんさん商店街」に行くとお店のレジに能登半島地震の募金がブワーッとあって、もう全部満タンで、すごいなと思って、気にかけてくれてるっていうか、分かってくれるっていうのかな。それ共有ができてるっていうのがすごくその時嬉しくて、来れて良かったなと思ったのと、“こういう土地に私もなりたいな”と思ったんです。南三陸の人たちみたいに。
で、話を聞いて、もうすぐ“帰りたいな”と思ったんです。“この思いのまま帰りたいな”とか、“何かできるんじゃないかな?また”、とかと思いながら、本当に元気もらった感じで、はい、帰ってきました。」
地域に生業と「人」を繋ぎとめるためのお弁当作り。飲食店の人だけでなく、その他の仕事をなくした人たちも参加されていたということです。そして被災後に生まれたという宮城県南三陸町の方とのご縁。じつは能登半島地震のあと、東北からの炊き出しや支援活動は、珠洲市に限らず各所で行われていました。被災の痛みを誰よりも知る方たちの励ましと支援は、きっと大きな支えになったのではないでしょうか。
そして珠洲市に帰った信子さんは、いろんな方と協力しあって、珠洲市の「道の駅すずなり」の敷地内に、珠洲市で初めてとなる仮設店舗、「すずなり食堂」を、9月6日金曜日11時にオープンさせます!
被災した市内4カ所の飲食店で設立。海鮮丼の「福幸丼」が食べられる「すずなり食堂」と、お弁当屋さんの「すずキッチン」。※お弁当は先行して今週から販売がスタートしています。
たとえば南三陸町では、東日本大震災の時、仮設商店街の「さんさん商店街」が、県外から来る人と地元の人を繋ぐ拠点となって、今なお続く長い縁を育んだといいます。
「すずなり食堂」もきっとそんな場所になっていくのではないでしょうか。ぜひ珠洲市に足を運んだ際には、そんな「すずなり食堂」、「すずキッチン」に足を運んで下さい。