台風が直撃した二十世紀梨の名産地、鳥取県湯梨浜町を訪ねて
8月15日の台風7号は、鳥取県に平年の8月の3倍近くという記録的な大雨をもたらしました。鳥取県によれば、農業関係の被害額は、28億円に上り、特に農地、農道への被害が多かったということ。
その一方、大きな被害を免れたのが、鳥取の名産品、「梨」です。「二十世紀(にじっせいき)梨」の生産量・日本一を誇る、東伯郡湯梨浜町では被害は一部に留まっており、8月21日には梨の初出荷式も無事に行われ、すでに全国に届けられています。
JA鳥取中央東郷梨選果場の場長であり、ご自身も梨農家である寺地政明さんに、農園を案内して頂きながらお話を伺いました。
◆◆
「台風が2個、6号と7号が来て、若干は落ちました。本当はもっと大きな風が吹いて、もっと実が落ちるのかなと思ったんだけど、ここの地域は最小限度で済みました。また雨も、梅雨が開けてから干ばつ気味だったので、ある意味“めぐみの雨”。梅雨明け以降まったく雨がふらず猛暑が続いて、実を大きくするための灌水作業も必要でしたが、台風である程度のまとまった雨が降って安心しました。それで実がまた大きく太って、美味しい梨になったと思っています。市場関係者、お客様からもお見舞いの電話を頂きましたが、いまのようなことを説明申し上げて、“大丈夫です、元気でやっていますよ”とお伝えしています。またそれ以降雨が降らないので、いまでも灌水作業はしています。
(今年の梨の)出来は平年並みよりちょっと大きめ。デカくて食べごたえがあり、糖と酸のバランスがうまくとれた梨に仕上がったと思っています。いま消費者の好みが“甘いもの”を美味しいと言うでしょ。残念ながら『二十世紀梨』は、糖度は若干落ちるんです。ただそれをカバーする適度な酸味がある。甘味比があるので、美味しく、シャリ感もあっていくらでも食べられるので、そこはちょっと頭の中に入れて頂いて購入してもらえたらと思っています」
(100歳を超える二十世紀梨の古木。いまもしっかりと実をつけている)
「この木はうちのシンボルの梨の木。鳥取県に梨が入ってきたのは明治時代。千葉県から10本入ってきて、それが梨農家にそれぞれ穂木として配られて、『二十世紀梨』の栽培が広まった。その中のひとつがこの木。鳥取でも一番古い木です。いまだに元気よく実をつけてくれていますね。
どの果樹産業も後継者不足と言われて久しい。湯梨浜も後継者不足。辞められる方も多く、減少傾向にはあります。が、僕も父のあとを継いだが僕は梨づくりを“家業”ではなく“職業”として捉えていて、自分ができなくなったら誰でもいいから引き継いでくれたらいいなという想いで、それならばちゃんとした圃場にしなきゃダメでしょ? 誰でも迎えられる圃場づくりが大事だなと、いまの現役にも言って、そういう取り組みをして、いまでは新規就農で後継者も育っています。
異常気象、大雨、大型台風、それが通常の気象になってしまっているので、それに対応するにはどうするのか。果樹園全体を防風網で覆うとか、それから新しい栽培方法で“ジョイント”というのがあります。たくさんの木を接ぎ木していって、1本の木に根っこがたくさんあるイメージ。風には強い。これは神奈川県が発明して特許を取っている方法です。これから主流になるんじゃないかな。環境に対応するものが生き残る。環境に対応する梨作りが必要だと思っています」
(ジョイント農法の梨園。接ぎ木を何本も何本も重ね、1本の木から複数の根を張るような形に。風に強く育ちが早くなるという)
異常気象に対応していく方法として、「ジョイント」という梨の木の育て方の話もありました。農業に関わる方こそ、最前線で異常気象の影響を受けながら、知恵を絞って、自然と向き合うやり方を模索しているのが印象的でした。
ほどよい甘みと酸味のバランスが特徴の「二十世紀梨」。栽培にはことのほか手がかかるそうで、その課題を克服して県を代表する名産品に育て上げたのが、寺地さんをはじめとする鳥取の梨農家の皆さんです。今では原産地である千葉県に栽培法を教えに行くほど。
「二十世紀梨」はシーズン最終盤となりましたが、ぜひ見かけたら手に取って味わってください。「二十世紀梨」のあとは、「あきづき」、「新興」、「王秋」、「あたご」など、晩成品種が出回るようになり、鳥取産の梨は12月頃まで楽しめるという事です。東郷梨選果場のオンラインショップでも購入いただけます。