あなたならどうする? 考える防災施設 「南三陸311メモリアル」
今週お届けするのは、宮城県南三陸町に今年10月オープンした震災伝承施設、「南三陸311メモリアル」です。
この伝承館は、“過去にあった悲惨な光景を残す”だけでなく、次の災害を“自分ごと”として捉え、“考えるきっかけを持ち帰ってもらう”そんなコンテンツがメインとなっています。
そのために集められた住民の声は、90名以上。今回はその中から、当時小学校の校長先生だった方の証言をもとに、「もしこの災害が、自分の地域で、自分の身に起きたらどうするか?」を一緒に考えていきます。
『南三陸311メモリアル』は、JR志津川駅、南三陸ポータルセンターと併設する形で建築家の隈研吾さんがグランドデザインを担当。この10月に誕生しました。
目の前には、震災遺構の旧防災対策庁舎があり、津波で失われた命に手を合わす場所としても多くの方が訪れています。
南三陸311メモリアル 高橋一清さんにご案内いただきました。
「ここはエントランスです。被災の数値的なデータをまとめています。私たちが立っているこの下、10m以下が私たちがかつて住んでいた町なんです。ですから元の町から10m以上高い場所に今いますが、ここの津波の到達地点は15m。すでに私たちは津波の中に沈んでいる状態に立っていることが想像できると思います。」
「最高到達点は浜によって違うのですが、高いところだと23.9m。私たちはハード面でも津波を防ぐ努力もしていましたし、町民も避難訓練を毎年やりながら津波に対して命を守る術をつくして生活してきたはずなんですけど、安全としていた避難場所に避難したがために逆にそこが命を落とす場所になってしまった箇所がたくさんあるんです。想定することがむしろ危険を招くんじゃないかとすら思ってしまいますよね。想定すると、そこまで逃げれば安心だと思ってしまう。ですので私たちの出した答えは、一人一人が自分でその瞬間判断してできる限り安全な方法を選んで逃げる、ということが絶対に必要だなと。自然災害が起きた時は行政の避難指示とかはできませんので、住民一人一人が一番安全な行動を選んで避難するしかないんですね。そのことをこの施設に来た人に知ってもらいたい。この施設は答えを教える場所ではないので、自分で考えて答えを出す。自分の答えを持ち帰る、考えるきっかけを提供する場所として建てられた施設です。」
「ここには住民の声を収録した映像を見ながら、何が起きたんだろうと肌で感じてもらうゾーンになります。命を守るための叫びの声とかもあって、感覚で感じながら、心の準備をしたうえでラーニングプログラムを受けてもらいたいと思います。」
「ここがラーニングプログラムのシアタールームになります。津波を体験した方の経験談を証言映像として見ていただくのですが自分事として考えられないと何も効果がありませんので、それがラーニングルームになります。」
この施設のメインとなる《ラーニングシアター》では、住民たちの証言映像をもとに「あなたならどうする?」と自分自身に問いかけ、周りの人と語り合う時間が設けられています。
今回視聴したのは、当時、戸倉小学校の校長先生だった、麻生川敦さんの証言です。
海のそばにあった戸倉小学校は3階建て。麻生川さんは2009年に赴任してから津波避難のマニュアルについて先生たちと何度も話し合っていたといいます。
麻生川さん「津波の時はどうやって逃げるかは小さい頃からじいちゃんばあちゃんに言われてきて。「地震の時は津波の用心 津波の時は何も持たずに高台へ」というフレーズがあってそれを聞かされてきたんです。屋上に上がっちゃうと周りを海に取り囲まれてそれ以上逃げられない。津波は何回も来る。後から来る方が高くなることもある。高台は陸続きだから3次避難、4次避難ができる。だから高台なんだ、高台を外しちゃダメだよ校長先生、という話をしていました。」
この話し合いは2年に渡り続けられました。当時の戸倉小は海から250mほどのところにありました。屋上は11mほどの高さ。最も近い海抜17mほどの高台までは約200mの距離がありました。しかも信号機付きの横断歩道を渡らなければなりません。110人ほどの全校児童が避難完了するまで少なくとも10分かかります。
さぁ、あなたならどうするでしょう? 屋上に逃げるのか、高台に逃げるのか。
麻生川さん「物凄い揺れだったので、とにかくクラスごとに高台へ走れ、と指示を出して直接高台に行きました」
戸倉小はひとたまりもなく、屋上まで津波に飲み込まれてしまいました。高台にいた子供たちはさらに高い五十鈴神社へ必死で駆け上がったのです。幸運にも神社の境内に津波が到達することはありませんでした。しかし、もしもっと高い津波がきていたら次の逃げ道はありませんでした。
さて、ご自身の避難計画について考えてみてください。地震や大雨などの自然災害のときあなたが避難しようとしている避難経路や避難場所は安全でしょうか? いざ避難しようとしたときもし火事が発生してしまったらいつもの避難経路は使えないかもしれません。そんな想像を膨らませてみましょう。
―――このシアターで対話をして考えさせられると、じゃ自分は? と持ち帰ることができますね。
「そうですね。逃げること1つ考えてみても私たち日常生活で自分の命だけ一番優先にって行動はとれませんよね。そういう様々な事情が亡くなった人たちにあって、そういったことが逃げることの難しさ、一番高いハードルになるってことを知っておくことが、いざ災害が起きた時に自分のとるべき行動を冷静に導き出す大切な視点だと思いますね。
10年経って思うことは、震災をわからない子供たちがどんどん成長してきていて、ですから思っているよりも避難するってことは人間にとって難しいことがいろいろある、っていうのを知ってもらって、その時だけは自分の命を守らなければいけない、一番に大切にしなきゃいけないってことを伝えてあげたいと思います。生きなくちゃいけない。命は守るべきだと思います。」
―――高橋さんは311の時はどちらで被災されたのですか?
「津波が来た瞬間は志津川中学校でしたが、出発点は防災庁舎を行ったり来たりしていて。防災庁舎の中には職員が入りきれないほどいて、これだけいてもしょうがないので外へ出て町民の安全、避難誘導に行きなさいと言われた中で、志津川中に向かいました。だから誰が残ってもおかしくない中で、他の仲間たちのことを思うと本当に辛いです。津波が辛いのは、津波が到達した高さから1m上は助かるんです。1mでその先の運命が全く変わる出来事。残酷ですよね。あまりに結果が不公平な出来事ですから、そんな不幸な思いは一人でもしてほしくない。そのためにこの施設がお役に立てればいいなと思っています。」
来場者の声
「埼玉県狭山市からです。知れば知るほどすごい状況。経験者が語っていることの切実さ、リアリティがすごいなと。私も入間川のそばに住んでいるのでハザードマップを見ても真っ黄色だし、他人ごとじゃないんです。今日も問いかけがいっぱいありましたけど、うっ…と答えに詰まっちゃうことがいっぱいあります。やっぱり自然には勝てないので、情報を早く得て早く行動するしかないのかなって思います」
「愛知県から来ました。避難経路は全然想定していませんが今回この映像を見てその辺は改めなきゃいかんなと思いました。先ほどの映像で、瞬間の判断で生死に関わってくるということなので、その辺は帰ってから話し合おうかなと思っています。」
今日ご紹介した、屋上避難か高台避難かを問いかけるラーニングプログラムは、どちらが正解かということではありません。自然災害は想像を超えて起こるものなので、事前に決めた通りにはいかない。その瞬間に一番安全と思われる行動をとってほしい というメッセージです。
そして、これは事前に想定することがダメなのではなく、想定した上で、いざという時起こり得る想定外の事態をなるべく周りの人とたくさん出し合う。そんな想像を膨らませることが大切です。この施設はそれを考えるきっかけを与えてくれます。さんさん商店街の隣ということもあって、ふらっと立ち寄れる場所ではありますが、時間をかけてゆっくり訪れたい場所です。
ラーニングプログラムは証言者が何人かいて、時間が決まっていますので詳しくは公式サイトでご確認ください。
◆南三陸311メモリアル 公式サイト
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