栄養豊富なスーパー野菜『カリーノケール』を南三陸の新名物に! 星農場レポート
今回のテーマは、「栄養豊富なスーパー野菜『カリーノケール』を南三陸の新名物に! 星農場レポート」。
ちぢれた肉厚の葉が特徴のイタリア野菜「カリーノケール」。スーパーなどでもたまに見かけるようになりましたが、青汁の原料として使われる「ケール」と違ってまだ日本では大規模な生産地が無く、なじみは薄いかもしれません。ですが“野菜の王様”と言われるほど、ビタミンやミネラル、カルシウムなどの栄養価が高く、味も苦みが無く食べやすい! と、いま人気上昇中の葉物野菜なんです。
その「カリーノケール」を、いま南三陸町の新名物にしようと挑んでいるのが星農場。海産物のパラダイス・南三陸ですが、今日は野菜のお話です。
南三陸町は、三方を山に囲まれ、一方が海に面するという山と海に囲まれた地形で、しかも町境は全て分水嶺となっていて、町外から川の水が流れて来ない、独立した循環があるのが特徴です。
町の南側、戸倉の西戸地区にある星農場は、小松菜を主力に営農していますが、去年、新たな挑戦として、カリーノケールの栽培を始めました。代表は星達哉さん。
現在、小松菜を9ヘクタールで育て、年間約160トンを出荷。カリーノケールは、去年試験的に3アールに作付けし、今季は50アールに拡大。このカリーノケールを担当しているのが、星さんの奥さまでもある中島綾子さんです。
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中島)農業自体を本格的に始めたのは2008年ごろ。主人のおじいちゃんが仕事をリタイアした後に菊を作っていたことが最初です。もともと南三陸は菊が有名なんですが、そこに主人と主人の弟も加わって、3人でスタートしたのが始まりでした。
高橋)その頃はお花がメインだったんですか?
中島)最初の頃はチャレンジだったのでいろんな野菜を試してみては、“あれでもない、これでもない”と、少量で色んなものを作っていたようです。大きく転換したのはやっぱり震災後です。
高橋)震災の時、被害はどうだったんですか?
中島)私は去年結婚してここに来て、当時はここにいなかったので主人から聞いた話ですが、この西戸の集落は、もともと80軒ほど家があったんですが、ほとんどが流されてしまって、うちも自宅、農業用のハウス、機械、全て流出しまして、残念ながら、おじいちゃん、おばあちゃん、おっぴさんの3人が亡くなりました。ちょうどその時おじいちゃんは、“孫と一緒に農業をやるぞ!”と機械を揃えたばかりで、ハウスも建てたばかりだったんですが、流されてしまって、ほとんど何も残らなかったそうなので、大変な想いをしたんだそうです。
高橋)農業を始めて3年しか経っていなかったですもんね。そこからどのような歩みを?
中島)私も聞いて驚いたんですが、2011年にはハウスを建て始めて。そのとき地元の方々や行政の方、補助金なども活用させて頂きながら、まず施設を、ハウスをたくさん建てると決めて、翌年、2012年の7月には初めての出荷をしたと聞いています。
高橋)すごいスピードですね!
中島)全部なくなって家も流されているんですが、作物の出荷は翌年の7月だったというのはすごいですよね。
高橋)最初、お花(菊)を出荷していたとおっしゃってましたが、2011年の時にはもう野菜だったんですか?
中島)そうですね。そこから主軸である小松菜に切り替えました。小松菜は全くの初めてだったので最初は相当に苦労したと聞いています。農家さんは売り先を見つけるのにいちばん苦労すると言われていますが、幸いなことにご縁あって、“小松菜なら震災後の復興と頑張る生産者を応援してくれる取引先があるよ”とご紹介頂いて、そこが決まったのは良かったんですが、契約出荷なので決まった数を必ず出荷しないと、というプレッシャーがありました。たくさん応援いただいているので、「絶対に欠品はしないぞ!」という、心持ちでやっているんです。今もそうですが。でももちろん天候には左右される、病気や害虫、この辺だと人より動物の方が多いので、いろんなものに被害を受けたり七転八倒しながら、うちの主人は“小松菜に関しては全ての失敗をしたと言い切れる”というくらいたくさんの失敗をしたと言っていました。
高橋)綾子さんご自身は昨年こちらにいらっしゃったということですが、ご出身は? どんなご縁があって南三陸へ?
中島)出身は埼玉県です。そう、私にとっては人生が変わる出会いでした。それまでは東京で会社員をしていたんですが、震災後3年目の3月に、“何かできることをしたい”と思い、こちらに来ました。ある程度中期的なことを考えてきたんですが、その時は“どこでもよかった”というと何ですが、被災地だったらどこでもよくて、“自分でもできることがあるならば”と探していて、たまたま出会ったのが南三陸でした。それまでは宮城は仙台くらいにしか降り立ったことがなかったんですが、来てみたら、いろんなことがあっていろんな人と出会って、私の人生がすごく良いように変わっていったんです。今はこの土地がすごく好きで、ここに骨を埋めたいなと思っていて、そんな中、主人と出会い、結婚して、今はやりたい農業をしながら。はい、幸せ満載です(笑)
地域が津波で大きな被害を受けるなか、星農場代表の達哉さんはすぐに立ち上がり、家族や地域の住民、ボランティアの協力も得ながら、石だらけの土地を新たに開拓。その年にハウスを建て翌年には小松菜を出荷。しかも菊の栽培から転換して。
そんな星農場の歩みの中にある日から加わった綾子さんは、2014年に埼玉から移住して、最初は“3年くらい”というつもりで、まず「復興応援バイト」という企画で地元のホテルで働き、その後“農業がやりたい!”と菊の花を手掛ける農業法人へ。そのほか地域を応援するNPO法人にも勤めたりしながら、気がつけば達哉さんと結婚し、いま移住9年目を迎えているということ。
そんな綾子さんがそもそも南三陸町への移住を決意した一番の理由とは何だったのか? そしてカリーノケールを手掛けるようになったいきさつについても伺いました。
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中島)一番というのは難しいですけど、やっぱりこの豊かな自然と、ここで自然と共に暮らす人々の強さであったり優しさであったり、そこに魅力を感じて。あと私と同じように全国各地から色んな人が集まってきているので、そういう人たちとの出会いもすごく刺激になりましたね。
高橋)小松菜を主軸にやられていますが、今はカリーノケールもやっているということ。
中島)ケールというと一般的にイメージするのは、苦い、マズイ、という青汁かと思います。でもそのケールとは違ってちょっと食べやすく品種改良されたもので、うちは土作りにもこだわって、この土地ならではの土づくりをしています。海、山、里すべての資源を入れていて、たとえば海からだと、ふつう農業をするときは石灰を入れるんですが、南三陸町、魚介類がとても豊富なので、牡蛎殻の石灰、ホタテ殻の石灰を使っています。殻を焼いたあと3年雨ざらしにして砕いたものを混ぜ込んで。あと里からは環境保全米=お米を栽培している農家さんから“もみ殻”を頂いて燻炭と言って炭にしたものを混ぜ込んだり、山からは林業も盛んなので南三陸杉の皮、杉皮の樹皮堆肥を入れています。そのほか春になると南三陸はワカメの水揚げがたくさんあるんですが、漁師さんは削いだあとの芯の部分を捨ててしまうんです。その捨ててしまう部分を頂いて雨ざらしにし、塩を抜いて乾燥させたものを堆肥にしたりと。そういったもののお陰でフカフカの土でミネラル分も多く、山の恵み、海の恵みがたくさん入っているおかげで野菜が健康に育つんです。そういったところがうちの土づくりのこだわりです。その甲斐もあって、えぐみや臭味もほとんどないといっても過言ではないくらい食べやすいお野菜で、炒めてよし、茹でてもよし、煮てもよし、生でもよし、なんでも合う万能野菜です!
高橋)今、どのくらいの規模でやってらっしゃいます?
中島)面積でいうと50アール。うちの農場全体ではほんの一部ですが、今までは99%小松菜でそれ以外の作物はちょこっとやっているくらいだったんですけど、今年から本格的に、カリーノケールを小松菜に続くうちの主軸にしたいなぁと思って拡大を始めたところです。
高橋)カリーノケールを導入しようと思ったきっかけはなんですか?
中島)カリーノケールは小松菜と同じアブラナ科なんです。なので主人が培ってきた栽培の技術が生かせることと、土作りもそのまま応用できること、あと私自身がこの野菜に並々ならぬ思いがあって。実はこの数年、私自身、病気がちで、何度も入退院を繰り返したり、大きな手術も何度か受けたりしたんですが、そこで健康を、健やかを大事にすることに気づいて、それこそ巷の民間療法や健康法を色々と試してみたんですが、やっぱり行きついたのは“食べる、寝る、動く”の3つ。基本的なことが大事だと気づいて、中でも“食べる”に注目したとき、“カリーノケール”がピンときたのは、このお野菜、すごく栄養価が高いんです。元々カリーノケールは“緑黄色野菜の王様”と言われているくらいとても栄養価の高いことで知られているんですが、キャベツに比べると、ビタミンAは128倍入っていたり、ミネラル類、カルシウム、鉄であったり、皆さんが気にされるような栄養素も2〜3倍以上は入っていますし、食物繊維も豊富なのでお腹の調子を整えることにも一役かってくれますし。しかも今までのケールだったら不味くて食べられなかったかもしれないけど、なんと食べやすい! なので、おじいちゃんおばあちゃんからお子さんまで、幅広い人に食卓の日常野菜として取り入れてもらえたら、何か皆さんの健やかにお役に立てるんじゃないかなという想いがあって、自分の経験からもこのお野菜にピンときて、今すごくケール愛が溢れ出ているところです(笑)
「栄養豊富なスーパー野菜『カリーノケール』を南三陸の新名物に! 星農場レポート」。
南三陸町の海・山・里の恵みを生かした土づくりによって、ほかにはない旨味いっぱいのカリーノケールであり小松菜が育つ星農場。取材のあと、もぎたてのカリーケールを頂いたのですが、しゃぐしゃぐした独特の食感と爽やかな葉物野菜の風味、その中に出汁をとったような旨味があって、それはそれは美味しかったです。
この星農場のカリーノケール、宮城県や東京、神奈川の一部のスーパーで取り扱いが始まっているほか、星農場のFBページでも購入できます。定期購入も可。詳しくはFBページをご覧ください。
(飲食店での取り扱いも始まっていて、東京の「ジンギスカン慶彦」では同じ南三陸産のラムと共に提供されている)