南相馬市小高区、人口がゼロになった町で挑戦するゼロからの酒造り
佐藤 「こちらが僕たちが定番で作っている『はなうたホップス』というお酒です。
少しピンク色になっているのは、ホップの成分によって少しずつピンク色がかってくるんです。」
高橋 「かわいい!流行のニュアンスカラー。いただきます!
おいし〜い。日本酒の味の中に、ほのかな苦味も後からきて、すごく爽やかですね」
佐藤 「柑橘系の香りのするホップを使っていて、グレープフルーツなどのフルーツの香りがして、全体として爽やかな軽やかなお酒ですね。」
高橋 「タイ料理とかに合いそう。暑い時にぐっと飲みたい。ギャル酒だよこれ。女子が好きなやつ!」
Hand in Hand。今週は新シリーズ「Live With FUKUSHIMA」。福島で新たな事業やプロジェクトを立ち上げ、その魅力を発信している方々にスポットを当ててお送りします。
今回ご紹介するのは、福島県南相馬市の小高区に去年オープンした、一軒の酒蔵。
「haccoba -Craft Sake Brewery-」です。
haccobaが作っているお酒は、いわゆる日本酒というカテゴリに収まらない、斬新なアイデアで「クラフト・サケ」に挑戦。今ではオンラインストアで販売開始すると数時間で完売するほど人気になっています。この全く新しい酒づくりを提案しているのが、「haccoba -Craft Sake Brewery-」代表の佐藤太亮さん。今回は佐藤さんのインタビューをお届けします。
「もともと民家だったところをリノベーションして、ガラス張りの中が酒蔵スペースになっています。すごく小さいんですけどこの中で日本酒を作る工程はできるようになっていて、普通の酒蔵さんの10分の1の規模で小さくやっています。」
―――ガラス張りの外には机と椅子が並んでいるので、お酒を作っているのを見ながら楽しめる?
「これはクラフトビールとかでよくあるんですけど、ブルワリーとパブが一緒になっているブルーパブというスタイルで、それの日本酒バージョンで酒蔵を眺めながらお酒を楽しんでいただくような空間になっています。」
―――佐藤さんの目指すhaccobaの酒づくりとは?
「まず僕たちはちょっと日本酒とは違うお酒の作り方をしています。日本酒は本来お米と米麹と水を発酵させて作るアルコール飲料なんですけど、僕たちはそこにお米と麹以外の原料を一緒に入れて発酵させています。僕たちはビールの原料のホップを一緒に発酵させて作るということをメインでやっていて、ある意味日本酒とビールの掛け合わせみたいな新しいジャンルのお酒を作ることに挑戦しています。」
―――なぜ米と麹以外にホップとか違うものを取り入れてみようと思ったんですか?
「最初のきっかけは、僕らみたいな新しく酒蔵を始める人たちが日本酒を作りたいと思っても、なかなか日本酒を作るための免許を取れないという制約からスタートしていて、そうなったときに日本酒ではない別の「その他の醸造酒」というお酒の免許だったら新規の参入でも取得ができて、そこから新しい発想として、今作っている新しいジャンルのお酒が出てきたという感じです。でも結果的には、自分たちが思っている以上にお米とホップってすごく相性が良いなと感じて。普段日本酒に親しみのない方々でも、なんか面白そうだな、飲んでみたいなと思ってもらえるきっかけを作りやすいのかなとは思っています。」
「手ぬぐいを巻いているのは、障害のあるアーティストの作品をブランドとして展開しているヘラルボニーとコラボレーションさせていただいて、自閉症を抱えているアーティストにお酒の発酵をイメージして絵を描いていただいて、それを手ぬぐいにして巻いています。僕らは垣根を越えた酒づくりを目指しているので、もはやお酒を作ってないような人たちと一緒にお酒を作ることができると、また新しい視点が入って、お酒を飲む体験全体を新しい価値として届けられるかと思っています。」
福島第一原発事故の影響で避難指示が出ていた南相馬市小高区は一度は人口がゼロとなりましたが、2016年に避難指示が解除され、今では移住者も増えて活気が出てきています。
haccoba代表の佐藤太亮さんもその移住者の一人。大学卒業後は、ずっとIT関連企業で働いていたという佐藤さんが、なぜ縁もゆかりもない南相馬市の「小高」という町で、酒作りをされているのでしょうか?
「この町でまちづくりをずっとやってらっしゃる小高ワーカーズベースという会社の和田さんのことをネット上で知って、お会いして話をしたのが一番大きなきっかけですね。小高という町は原発事故の影響で避難指示区域になって、一時は人が住めない場所になって人口がゼロになってしまった時期がある町なんですけど、普通だったらネガティブに捉えてしまって立て直すのは大変難しいんじゃないかなと思ってしまうと思うんですが、和田さんはむしろそこに「ワクワクする」というような感覚で表現してらっしゃって。現代で人が住まなくなって、ある意味ゼロからみんなで作っていける町なんて世界中探してもないよね、という話をしていて、だから世界でも本当に稀に見るある意味フロンティアな町だとおっしゃっていて。めっちゃかっこいいなと思ったのと、あとは僕らの酒蔵も、日本酒というカテゴリーにおいて新しくフロンティアを開拓していくような、そういう開拓精神を持った酒蔵をやっていく感覚があったので、この町でそういった地域の文化を表現しながらずっと寄り添っていく酒蔵って考えると、本当にぴったりだなと、自分の中ではこの町でやるというのがピンと来すぎて(笑)。単純にワクワクして楽しみできたという気持ちが強いですね。」
―――小高でやるとなって風評被害に対してはいかがでしたか?
「それは、正直にお話しすると移住してくるタイミングで、そもそも自分自身が東京でずっと暮らしていたので、最新情報をちゃんとキャッチアップできてなかったというか、知らなかったというのがあって。自分自身もちょっと不安があったんですね。ここで食べ物に関わる事業をやって本当に大丈夫なのかというのがわからなかったので、移住する前にちゃんと知ろうと思って調べて、科学的に大丈夫なこともなんとなくわかってきて、そうなったときにむしろここで酒蔵をやることに逆に価値があるんじゃないかなと思って。世代的にというか、福島の風評被害だけではなく、いろんな課題があったときにそこに誠実に向き合って取り組んでいるブランドに対して、高いお金を払ってでもある意味投資したいというのが自分自身あるなと思ったので、逆にここで酒蔵をやることが、好きなブランドがある場所、地域って自然と当事者意識が生まれてくるのかなと思っていて、そういう風になれると、知らずになんとなく避けられてしまうというよりは、知って自分なりに判断してもらうきっかけになれたらいいなと思っています。」
―――いまhaccobaのお酒はオンラインで販売すると数時間で完売してしまうこともあるというほどの人気だということなんですが、佐藤さんの描いたビジョンに近づいてきていますか?
「そうですね。小さなというか具体的な日常の話でいうと、小高に住んでいる人たちがどこかに出かけたり、誰かに会うときのお土産として買って持っていってくれることが時々あるんですけど、それってすごい誇らしいし嬉しいことだと思っていて、おじいちゃんおばあちゃんの世代からすると、ちょっとよくわからない酒を作っていると思うんですけど、よくわからないなと思いながらも応援してくれている。住んでいる方々が誇りに思ってくれていたりするのは結構嬉しいなといつも思いながら。あとは例えば、今まで南相馬や福島浜通りの原発の被害があったエリアって、復興という真面目な理由がないと来る場所じゃない、みたいな感覚もどこかあるなと思っていて、でもそうじゃなくて、普通におもろい酒蔵があるとか、僕らだけじゃなく面白いスポットやおいしい食べ物を作っているところがあって、ただただ楽しみに来る場所を作っていくことはすごく大事だと思っているので、そういう景色を小高の町でちょっとずつ作れているというのは、実感としてもジーンとくるものがありますね。」
『南相馬市小高区、人口がゼロになった町で挑戦するゼロからの酒造り』
と題して、南相馬市小高区の酒蔵、haccobaからのレポートをお届けしました。
【今回のダイジェスト動画はこちら】
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