令和3年8月の豪雨災害から考える、備えと支援
全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。今回のテーマは、
「令和3年8月の豪雨災害から考える、備えと支援」
◆◆
今年8月11日から1週間以上続いた大雨によって、九州、中国地方などの西日本をはじめ、広い範囲で、浸水や土砂災害などの被害が相次ぎました。国土交通省によると89の河川で、氾濫や侵食、内水による浸水が確認されています。(8月27日現在)
佐賀県や福岡県、島根県などでは農地や農業施設などの被害が相次ぎ、復旧にかかる費用の見込み額が一定の基準を上回ったとして、「激甚災害」に指定して自治体の費用を支援することになっています。
多くの被害が、ハザードマップでリスクが懸念される地域でのものだった半面、中にはリスクが低いと言われていた地域での被害もありました。もはやこれまでの予測やデータが役に立たないほどの豪雨が当たり前となっている昨今、今回の「Hand in Hand」では、8月の豪雨に見舞われた地域の現状を伝えつつ、想定を超える災害に、私たちはこれからどう備えればよいのか、専門家のお話を交えお伝えしていきます。
◆◆
防災システム研究所・所長で、防災危機管理アドバイザーの山村武彦さんです。
―――まず8月の豪雨について。これまでの豪雨とは何が違ったのか?
雨の降り方というか、梅雨末期のような気象条件が続いたため長雨が続きました。結果として線状降水帯が次から次へと繰り返し襲ってきて、それが広範囲にわたって降り続きました。いつもだと西日本が多いんですけれども、東日本も、場合によっては北海道まで入れて大きな災害被害が発生しました。従来と気候変動によって雨の降り方が全く変わってきているんですね。
―――認識を改めなきゃいけないんだなと強く感じますが、今回の豪雨災害を受けて山村さんも被災地を色々とご覧になられたとか?
長野県岡谷市で発生した土石流の現場に行ってきました。親子3人の方が亡くなられた大変痛ましい心の痛む災害なんですけれども、その災害現場を見て、私自身、防災に当たっている者も反省しなければいけないと強く思いました。今までは大雨が降った時とか洪水の時というのは、原則的に「2階に垂直避難すれば安全です」という呼びかけを、ラジオもテレビも行っていたんですが、それは一概に言えないと。現場は岡谷市の川岸という場所なんですが、この場所にある家の2階で犠牲になっているんですね。裏地に2階と同じ高さの崖があって、その崖の上から、いわば2階の屋根と同じくらいの高さから、2階の窓から土砂が直撃して、家の中に土砂が流れ込んでいる。ですからその場所の条件によって、地形や家の建っている状況によって、避難の方法とかアドバイス、呼びかけに気をつけないといけないんだと思いました。
―――今回の岡谷市の災害から私たちが学ぶことというのは、やっぱり防災の基本となる“自助”ということになってくるんでしょうか?
そうですね。我が家の危険度、リスクに目を見開いて、きちんと見る。受け止めるということですね。自分の家のリスクはどこにあるのか。浸水想定区域、例えば、自治体が出しているハザードマップで、何メートル以上で浸水する可能性があるのか。この地域は裏山が崩れる可能性がある、土砂災害警戒区域に指定されていないか。そういった具体的に自分の場所の地形や地盤と併せて、なおかつ、自分の家は、鉄筋コンクリートではないとか、斜面が迫っているとか、自分の家の特徴のリスクを確認する、受け入れるということが、今、とても大事だなと。そのためにはまず自分の地域のハザードマップ、これを是非、もう一度家族で一緒に見て欲しいと思います。
―――自分の住んでいる地域のハザードマップを確認することは大切ですが、ただハザードマップでリスクが低いと言われている場所でも災害が起きています。
いま現在ハザードマップで土砂災害警戒区域に指定されていない地域でも、一つの目安としては、斜度30度、要するに裏山の崖の傾き、傾斜度が30度を超えている場合で、その斜面が5メートル以上、高さがある場合、こういったところは大変危険なんですね。そういったところでも実は一定条件では土砂災害警戒区域に指定されていないところもある。また指定が遅れている所もあるんですね。例えば一昨年の台風19号、千葉県では4人犠牲になる土砂災害が3箇所で発生したんですが、その3箇所とも、警戒区域に指定されていなかったところなんです。ですからハザードマップだけではなく、ハザードマップを参考にし、なおかつ自分の家の周辺の地形がどうなっているのか、過去にどんなことが起こっているのか、そういったものを調べてみることも大事かなと思います。実際に危険区域に指定するのには、ものすごい時間がかかるんですね。それが危険区域の指定がなかなか進んでいない理由の一つで、例えばメガソーラーなど山間地の開発が進められていたとしても、それによって生じうるリスクは確実に把握されていないところもあります。
―――地域を問わず今後起こりうるのが想定外の豪雨と感じましたが、今後備えるため、被害に遭わないために、今日、今すぐ始められる備えとは何なのでしょうか?
はやり「家族の防災会議」。我が家のリスクは、どういうところにあるのか、どうやったら安全に避難できるのか、避難場所はどこにあるのか、そういう具体的なことを話し合ったり、家具の固定とか、備蓄の内容とか、家族同士で情報を共有したり、いざという時の連絡方法などを確認しておく。実際に電気・ガス・水道を切って、“避難生活訓練”をすることもおすすめです。自分だけではなく、家族の命、大切な人の命を守るためにも、今やって欲しい。明日ではなくて、今です!」
(西日本豪雨および九州北部豪雨での被災の様子)
今まで氾濫したことがない川でもこれまでにない大雨によって溢れる可能性があり、斜度30度・高さ5メートルの崖であれば、いままで崩れたことは無くても崩れる可能性が現代はあるということ。ハザードマップで居住エリアのリスクを把握することはもちろんですが、それだけでなく住む地域や行動するエリアにどんな危険が潜むのか、一人一人の生活圏にあるリスクについて考えることが重要です。
◆◆
8月の豪雨による被災地では、すでに様々な支援活動も始まっています。そのうちの一つに、「自動車」に関する支援を続けている団体があります。日本カーシェアリング協会という団体です。
東日本大震災をきっかけに宮城県石巻市で立ち上がった団体で、水害では「自動車を失う」という被害で困る方が数多く出るのですが、そうした人に寄付で集めた車を貸し出すという活動を続けています。
日本カーシェアリング協会・吉澤武彦さんのお話です。
「7月の熱海から災害の対応をやっています。雨と土砂が熱海を襲い車が埋まってしまった。自身は無事でも車を取りにいけない人もいたので熱海の支援から始めた。そのさなかに8月に水害があり、佐賀の武雄では2年前に起こったものとほぼ同じエリア、それ以上の広い範囲で起きた。武雄には支部を設置していたのですぐ対応しようと思って、発災3日後、車を貸し出せるような点検だけやって17日から車の貸し出しをやっていきました。すると武雄での貸し出しの予約受付をやってたら久留米から申し込みがありました。支援団体の仲間からも久留米で浸水被害が大きいという話もありましたので、久留米でも27日から車の貸し出しをはじめました。今回、久留米と武雄で90件の申し込み。武雄も久留米も4年連続の被災。みなさんこれまでの経験から車の被災を知っていて、当時、車を安全な場所に逃したが、それでも車を逃した先で浸水したり、逃しきれない方もいました。」
豪雨で浸水や冠水している道を走って立ち往生している車の映像、災害の度に報道で目にしますが、車は水に弱い乗り物です。いくつか注意点をあげると・・・
●壊れて動かなくなるだけでなく、車から脱出できなくなる場合もある。60cmほどの水没で人の力でドアは開かなくなると言われている。
●エンジン部分のエアクリーナーボックス、あるいはマフラーが水に浸かると、エンジンが止まり、二度とかからなくなってしまう恐れもある。
●自分の車のマフラーやエアクリーナーボックスが地表からどのくらいの高さなのか、事前に確認しておく。マフラーは車にもよるが概ね20cm位。浸水や冠水の深さは、走行中は判断がつかないので、道路の縁石を見る。縁石はだいたい15cmなので、縁石が浸かるほど水が溜まっている所は避ける。
●水に浸かったあと、たとえ水がひいた後に普通に走れたとしても、電気系統のショートなどが原因で、発火や爆発を起こすという危険性もある。
また、もし車が水に浸かってしまった場合の対応として、国土交通省で以下のような注意を呼びかけています。
●水がひいても自分でエンジンをかけない。車両の措置については、速やかにJAFや自動車保険のロードサービス、自動車販売店、整備工場などに連絡する。特にハイブリッド車や電気自動車は高電圧のバッテリーを搭載しているので、むやみに触らない。
●使用するまでの間、発火するおそれがあるので、バッテリーのマイナス側のターミナルを外し、外したターミナルがバッテリーと接触しないようにテープなどで覆う。
地域によっては国土交通省のウェブサイトに「道路冠水注意箇所マップ」が公表されているので、アンダーパスなど、豪雨時に冠水する可能性がある箇所について、事前にチェックしておくことも大切です。
水害で自動車を失った人たちのために、寄付で集めた車を貸し出す活動を続けている、日本カーシェアリング協会。被災のあとの復旧作業など、被災地での車のニーズは高く、佐賀県・武雄市と福岡県・久留米市で、のべ30件、熱海はのべ40件の貸し出しを行なっています。
また日本カーシェアリング協会では、使わなくなった車の「寄付」を受け付けています。そしてこの「車に関する支援」を広げるために、自治体や企業にも呼びかけを続けています。
「起こってから対応するのは時間がかかる。僕らの場合貸し出す場所、集める場所、現地自治体と連携しながら場所を確保して被災者に情報を伝えていますが、それをできれば事前に協定を結んだりして、いざ起きたときは対応するという、話し合いの機会、協定を結ぶというのをしっかりやっていけたらと思っています。もひとつ自治体だけでなく企業との連携も。オートバックスセブンが車を5台寄付、そして運搬をサポートしてくれました。兵庫県のエーモン工業も車を10台手配してくれた。車両だけじゃなくタイヤ、オイル、整備など、日本には自動車関連の企業がたくさんありますから、ぜひ自治体さん企業さん一丸となって賛同して頂きたいと思っています。」
日本カーシェアリング協会は佐賀県はじめ九州での活動を続けるために、ふるさと納税による支援も呼びかけています。佐賀県のふるさと納税で、日本カーシェアリング協会を指定して寄付すると、9割が協会の活動費になる。また被災した事業者の産品が返礼品としてもらえて、それによって事業者の応援にもつながる、ということになっています。
日本カーシェアリング協会
◆◆
来週の「Hand in Hand」は、宮城県石巻を中心に行われるアート・音楽・食の総合芸術祭、「リボーンアート・フェスティバル」についてお伝えします。来週もぜひ聴いてください。