いわき市の老舗中華「華正樓」〜災害をきっかけに誕生したオール福島の豚まん物語〜
全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。今回のテーマは、
「いわき市の老舗中華『華正樓』〜災害をきっかけに誕生したオール福島の豚まん物語〜」
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福島県いわき市の中華料理店「華正樓」は、2011年の東日本大震災、そして2019年の台風19号で被災。さらにいま新型コロナウイルスの影響が店の経営を圧迫しています。度重なる災害をなんとか乗り越えてきた「華正樓」ですが、昨年あることで注目を集めました。それが医療従事者への「豚まん」の無償提供。そこに2代目店主である吉野康平さんが添えたメッセージ、「コロナはにくんでも、豚まんはにくまん」という言葉がSNSで拡散され、各メディアでも取り上げられました。
“「豚まん」は災害時の非常食としても最適”ということで、吉野さんはいま新たな挑戦を始めています。
福島県の浜通り地方の拠点都市、いわき市。震災と原発事故の際は、仮設団地に避難住民を受け入れたり、仮設の役場が置かれたりして、最前線の拠点となった地域です。また、2019年10月の台風19号では、豪雨で夏井川などが氾濫。町の中心部が浸水被害を受けました。
1984年創業の中華料理店「華正樓」は、その夏井川のすぐそばにあって、台風19号のときは2メートル近い浸水被害を受けました。大きな災害に遭いながらもその都度、店を建て直してきた吉野康平さん。10年前。東日本大震災のときは、店で大きな揺れを感じました。
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「震災のときはちょうど店で“まかない”(昼食)を食べる時でした。いきなり揺れ始めて、“逃げろ”と外に出ましたが、なにがなんだかわからなかった。ぜんぶ皿から冷蔵庫の中からがちゃがちゃ。周りもあちこち崩れてるし。建物は大丈夫でした。ひびは入ったけど営業できないほどではなかった。津波の影響もありませんでした。親父の実家は海沿いにあるので流されましたが、犠牲になった人はいませんでした。そして翌日、原発が爆発する様子をニュースで見て、両親とじいちゃんをつれて避難しました。北海道に。まるまる1か月くらい。で、4月10日に戻ってきて、4月中旬には営業を再開しましたね。僕が思ったのは、いわきに帰ったときにあちこち崩れていて、道路も水が吹き出していたりするのを見て、“あ、これから忙しくなるな”ということ。業者や大工さんたちが町に入ってくるだろうから。案の定、忙しくなりましたね。風評被害はありました。地元ではないけど、県外の人とか水道水を嫌がる人がいたりして、だからうちもしばらく水道水は使わず買ってきたりしてましたね。あとは生産者さん。地元の生産者さんたちが、野菜が売れずに、“泣きながら野菜を捨てたんだ”という話を聞いたりして、うちでもなんかできないかなと、地元の野菜を使うようにしました。使うときは勇気がいりましたけど、そんな生産者さんたちの想いを聞いて、勝手に“ファーム白石のブロッコリーのあんかけ”とか黒板に書いて。お米も地元の米屋から調達しました。お客さんが離れちゃうんじゃないかという不安もありましたけど、それがむしろ“もっともっと頑張って”と、応援してくれる人のほうが多くて、ありがたかったですね。」
“風評被害に苦しむ地元の生産者を支えたい”という強い想いが、あの震災と原発事故のとき、吉野さんの心に深く刻まれたといいます。
そしてそれから8年後の2019年に全国各地に被害をもたらした台風19号。いわき市も各所で河川の氾濫が発生し、夏井川のほとりにある「華正樓」も、大きな被害を受けました。
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「尋常じゃない雨でしたからね。夏井川が決壊して、店は2メートル近く浸水しました。実家も浸水して、ダブルでやられました。もう絶望でしたね、こんなことあるのかと。流れてきた車が店につっこみ、冷蔵庫もひっくりかえり、ラーメン醤油も継ぎ足しの味噌も流された。ひどかったです、めちゃくちゃで。そのとき僕の第一子の出産予定日が近かったので、「神様、こんな酷なことあるんですか」と泣き崩れました。でもそこからいろんな人の力を借りて片付けをして、県外からもたくさんの人が来てくれました。みんなで泥かきして、そして妻に陣痛が来た、となったら、みんなが“行ってこい”と言ってくれて。でも泥だらけで病院にも入れない。旅館の友達に風呂を借りて、きれいして病院にいって、で、子どもが生まれたのを見て、そこで腹が決まりましたね。震災のときもそうだったけど、早く仕事したい、しなきゃというあせりがあった。ただ震災のときは流されてなかったけど、水害のときは流されてなにもない状態だったので、“あ、おれ今まで甘えてたんだな”とも思いましたね。あれでだいぶ強くなったのかな。だからコロナがきても“絶対なんとかなる”という気持ちでいます。」
(氾濫した夏井川)
(この土手を超えて「華正樓」のある住宅地に水が流れ込んだ)
台風19号のとき、深夜0時ごろに雨が止んだものの、そのあとさらに夏井川の水かさが増して、堤防が決壊するなど、地域に大きな被害をもたらしたといいます。雨が上がっても上流からの水が流れ込むという水害の恐ろしさを、吉野さんは経験しました。
そしてその台風災害の4日後、長男・榛馬(はるま)くんが誕生。“腹が決まった”という吉野さんは、再建へ向け奔走。約2か月後の12月28日に、店を再開しました。
そんな「華正樓」がいちやく注目を集めることになった“オール福島の豚まん”は、2017年に誕生したメニューです。福島県産の豚肩ロースとバラ肉を大きくカットしてタレに漬け込み、そこに炒めた玉ねぎを合わせたシンプルなタネ。味付けも醤油とオイスターソースでシンプルに。「とにかく、素材の豚肉のうまさで勝負」というのが、「華正樓」の「豚饅」です。
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「肉まんはもともと店に昔からあるメニューで、ずっと春雨とかタケノコとか入れて出していました。台風が来る前、震災をきっかけに東京のシェフと知り合って、彼に“全然いわきのものを使ってないじゃん”と言われて、“そうだよな”と。そこから“オールいわき”の豚まんを作りたいなと思って、でもいわきに唯一あった養豚場が廃業してしまったので、いまは“オール福島産”でやっています。
だんだん人気が出てきて、で、台風19号の被害があったりコロナがあったりする中、いろんな人にお世話になったのに、その恩返しが全然できてなかったので、“コロナの医療従事者に豚まんを送ろう、それが恩返しにつながるんじゃないか”と思って、それでいわき市の4つの病院に、『豚饅』を提供しました。その時、ただ贈るだけじゃ俺らしくないなと思って、召し上がり方の紙の裏に、勇気を振り絞って書いたんですよ。『コロナはにくんでも、豚まんはにくまん』(笑)。すごい迷いました。書いては引っ込め書いては引っ込め。でも少しでもほわっとしてくれればと思って。
で、あとからお客さんとして医療従事者の人たちが来てくれて、“どこどこの病院のものです。やっとお礼ができた”と言ってくれたり、むちゃくちゃ嬉しかったですね。これがいろんなメディアで取り上げられて電話が殺到したんです。爆発的に売れて、去年は1万個くらい作りましたかね。でも作る体制が整ってなくて、注文にじゅうぶん応えられなかった。そこで『豚まん専用の加工場をつくりたい』とクラウドファンディングをやって、目標金額を達成したので、それを頭金として、加工場をつくる予定です。年末くらいには稼働させたいと思っています。
自分も何回も災害にあってきたし、災害はこれからも間違いなく起こると思う。そのとき、食べることは元気がでるし、すごく大事だということがよくわかっているから、被災地にこの加工場から、『豚饅』を届けたいんです。パックごと電子レンジに入れて温められる豚まんをいま研究中です。」
「うちの『豚饅』、最初は、“医療従事者に提供したということに感動した”と言って、買ってくれた人が多かったんですけど、そのとき買ってくれた人がリピーターとなって、“ほんとにおいしかった”、“誰かに贈りたいから”と言って買ってくれるのが、ものすごく嬉しかったし、自信にもつながりました。
作りはいたってシンプルです。豚のバラと肩ロースを使って食感と旨味を出し、炒めたタマネギを特製のタレで混ぜ込んで合わせる。肉とタマネギだけ。添加物を使わず、砂糖もキビ砂糖を使い、蒸しパンの生地はいっさい水は使わず牛乳だけでふっくら仕上げています。」
お話しのとおり、まずほんのり甘みのあるふわふわもっちりの生地がバツグンに美味しいです。そして中にはゴロっとした食感がある豚肉がこれでもかというくらいに入っていて、しみだす肉汁の旨味が口いっぱいに広がる、そんな「豚饅」です。1個380円。
万里恵さんのところに届いた「豚饅」にはこんなメッセージもw
今日の主人公は、福島県いわき市の中華料理店「華正樓」の2代目店主、吉野康平さんでした。「オール福島」の食材で、地域に勇気を。災害が起きたときには、被災地に元気を。度重なる災害を経験し、乗り越えてきた吉野さんの、新たなチャレンジについてお伝えしました。
「豚饅」はお取り寄せも出来ますので、気になった方、ぜひ味わってみてください。
「華正樓」Facebookページ
ちなみに、この“オール福島の豚まん”も大人気商品ですが、じつは「華正樓」の看板メニューは、「スタミナ定食(回鍋肉定食)」です。初代店主のお父さんが考案した“味噌”が絶品なんだそうで、写真からも濃厚な旨味が伝わってきます。これは食べにいかなきゃ・・・
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「Hand in Hand」、来週は、活動7年を迎えた、東北の漁師集団、「フィッシャーマン・ジャパン」のこれまでの歩みとこれからについてお伝えします。来週もぜひ聴いてください。