瀧からはじまる物語 垂玉温泉『瀧日和』
熊本県南阿蘇村。阿蘇五岳の1つ、烏帽子岳の中腹に流れ落ちる落差60mの「金龍の滝」。
明治19年、その滝壺に沸く温泉を利用して湯治場としてはじまったのが「垂玉温泉」です。
2016年の熊本地震で瀧周辺の山が崩れ、滝壺にあった温泉をはじめ旅館は甚大な被害をうけて休館に。そこから5年の歳月を経て、2021年4月16日、ついに垂玉温泉が復活!日帰り温泉『垂玉温泉 瀧日和』として再スタートしました。
「垂玉温泉」の8代目、山口雄也さんは、地震当時は土砂に埋もれた滝壺のお風呂や崩れた旅館を見て何度も廃業を考えたといいます。それでもお客さんからの声やボランティアの方々の力もあって「形を変えてでも、未来につないでいく必要がある」と、旅館としてではなく日帰り温泉として素晴らしいリニューアルを遂げました。
―――前回来たときは「垂玉温泉 山口旅館」という看板がまだ残っていて、新たな名前を付けるのに悩んでいらっしゃいましたが、決まりましたね!
「新しい名前が『垂玉温泉 瀧日和』でこの春からスタートさせていただきます。まさに垂玉温泉のシンボルでもある「金龍の瀧」は何千年か何万年かの長い時間かけて谷が生まれて、そこに沸く泉源も滝壺にあるので、長い時間滝が流れ落ちる力で自然の掘削で徐々に今の温泉が出てくる地層までたどり着いて、今の温泉が出ている。垂玉温泉イコール“金龍の瀧からはじまる物語”が今に続いているのではないか、ということでこの名前に決めさせていただきました。」
―――めっちゃ湯煙が上がっていますけど。
「地熱の蒸気ですね。玄関のところに新たに『蒸窯』を作ったんですが、蒸釜で使うぐらいでは吐ききれなくて意図せず逆噴射が起こってしまっています。それだけ地熱の力が強いですね。」
玄関前には地熱を使った「蒸し窯」が完成しています。お客さんに南阿蘇の美味しい野菜を使って「蒸し野菜」などを体験してもらうことができます。
「石垣もきれいに見せられるようになりました。この石垣はうちで残っている建造物の最古のもので、100年以上前に3代目が築いた石垣です。そのほかの建物は全て今回の地震と水害でリセットされているので、このように創業当時の建造物と温泉が残って今の『瀧日和』に引き継がれています。」
取材当日、熊本地震から5年ではじめてお湯をためたという記念すべき日にお邪魔しました。
「大浴場・・・ここまでお湯がたまっているのは地震の日以来はじめてです。この温泉の匂いや流れてくる音で、地震の前にいっきにフィードバックしました。お客様が入られている風景が一瞬で戻ってきた」
―――いい温度ですね、あ〜気持ちいい〜!
「美肌の効果があります。保湿成分のメタケイ酸が豊富にありますのでお肌がしっとりします」
新たに生まれた貸し切りの湯が3つ。ここからは、垂玉温泉のシンボルでもある「金龍の滝」を眺めることができます。
「地震の影響で、以前のように滝の真下に露天風呂をつくることは叶いませんでしたが、しっかりここから滝が見えます。夕方は谷全体が西陽に照らされて、滝と硫黄分でキラキラ黄金色に輝いて見えます。それが金龍の瀧の語源です。まさに龍が昇っていく姿が夕方見られるかなと思います」
こうして「滝見の湯」はしっかりと受け継がれています。
再スタートした垂玉温泉・瀧日和について、改めて山口さんに伺いました。
「この5年間やり続けたことは、辞めると言わなかったことぐらいで。垂玉温泉は私個人のものでもないし、先祖のものでもないし、ここを大事にしてくださる皆さんや過去の災害でも同じように命がけで再建工事にあたってくれた職人の方々、そのどれか1つが欠けてもここまで続いてこなかったと思います。なのでまず私が立ち続けることが最低条件でした。ここからしっかり歩き始めるようにしなきゃいけないという責任感をひしひしと感じています。」
―――ハード面は整いました。ソフト面で先代の意志を残していきたいものはありますか?
「今はまだ父が代表で7代目。地震前はなかなか意見の対立もあって関係は良好であったとは言えず、理解できないこともあったというのが正直なところです。過去にも災害があった場所だから過度な設備投資はできないとはずっと言われていましたが、当時の私はお客さんが減っていく中で設備投資をしたり時代に合わせて施設を作っていかなきゃいけないのでは、と意見が合いませんでした。でも実際に被災してみて先代たちがやってきたことがやっとわかって。この環境は一歩表情を変えると一気に脅威にもなってくるので、美しい部分と怖い部分のギリギリのところを見極めないといけないのが我々の役目。安心安全を大事にしていきたいなと思っています。」
―――利用する方は自然の強さやダイナミックさをすごく近くでエネルギーを感じながら過ごすことができますね
「まさに温泉は地球の恵みですし。今回新たに作った蒸窯も大地のエネルギーを直に感じていただける場所。またこの風景もたしかに崩れているところもあるけどうっすら緑が芽吹いているところもありますし。そういった自然の再生力も含めて、そういったところをしっかり守っていきたいと思います。」
自体災害が多い場所で治水工事をずっとやってきた歴史があるという垂玉温泉。「先代たちがやってきたことがやっとわかった」と話す山口雄也さん、今回の再建では以前のような宿泊施設はつくらず、旅館ではなく湯治場として「温泉そのものを復活させようと決めた」ということです。
瀧を見ながら温泉、サウナ、天然水の水風呂、蒸し野菜にスムージー。
「垂玉温泉 瀧日和」 あなたも一度足を運んでみませんか?
垂玉温泉『瀧日和』 公式サイト
https://tarutama.jp/