豪雨災害を乗り越えて〜熊本県球磨村のいま
全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。今回のテーマは、
「豪雨災害を乗り越えて〜熊本県球磨村のいま」。
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2020年、今年も全国各地で自然災害が発生し、大きな被害を受けましたが、なかでも今年の7月はじめ、梅雨前線が停滞した影響で、九州をはじめ西日本各地で記録的な大雨となり、球磨村では球磨川などが氾濫。浸水や土砂災害によって25人が犠牲となり、住宅約400棟が全半壊するという甚大な被害を受けました。あれから半年近くが経ちましたが、落ちた鉄橋や崩れた家屋など、私たちが球磨村で見た光景は、“被災直後”そのもの。広範囲にわたる被災、そしてコロナ禍の影響もあってボランティアの数も激減するなど、様々な要因から復旧が思うように進んでいない現状。そしてスマホのGPSを使った調査では、全住民の約4割が避難生活を続け、村からの転居、人口流出も歯止めがかからない状況だということです。そんな中、荒れ果てた村をもとの自然豊かな魅力あふれる姿に戻そうと、懸命に奔走している方の姿もありました。
7月に発生した「令和2年7月豪雨」、球磨村では特別養護老人ホーム「千寿園」の入所者14人が犠牲となり、大きく報道されましたが、あの時、ボートを使って入所者を救助したラフティング会社があったのを覚えていますでしょうか。
この地域を流れる球磨川は、日本三大急流の一つに数えられ、雄大な自然を船上から楽しむ球磨川くだりや、ラフティングが観光の名物になっています。そのラフティング用のボートを使って救助活動を行なったのが、「ランドアース」代表の、迫田重光さん。
まずは球磨川が氾濫した7月4日早朝の出来事について伺いました。
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迫田 当日はあり得ない光景だった。とくにこの辺りは流れが速くて、もう家がひっきりなしに流れてくる。前日はこの水位から1メートル上がってるくらい。俺もこの職業だから“これくらいなら大丈夫”って思ってたけど、夜中に雨脚が強すぎて、これはマズいなって思って、で朝方になったらどんどん水が上がってきて、で8時くらいに見たらこの辺り巨大な大河になってた。
高橋 この辺りも今は倒れたりしてますけど、民家があった場所ですよね。
迫田 そう。取り残された人たちも居ただろうし、流された人も。世紀末みたいな光景だった。
高橋 その時に“これはボートで助けなきゃ”って思ったんですか?
迫田 高台の方に避難して上から見てたら、うちのボートが一台ずつ流れていくのが見えて、“あ、これは終わったな”と思ってたら、流れて行ったボートが、人が屋根の上で“助けてくれ!”って言ってる方に流れて行ったんです。で、近所の人がそのボートを持っててくれて、そのボートを使って俺たち救助に行ったんだけど、ボートがあってもパドルが無い。だからスコップとか箒とか竹竿を借りて、こっちで15人、少し先で2人、千寿園で2人、19人を助けました。
高橋 三大急流っていう球磨川で長くお仕事されている迫田さんでも、あの日の状況は想像が出来ないものでしたか。
迫田 出来るわけないよね。初めてだから。
高橋 川に落ちているこの赤いのは・・・
迫田 鉄橋です。ここは2本の鉄橋がかかってたんですけど、両方落ちています。JRとかも全部直すのに100億かかるとか聞いてるし、これどうなるのかなと。
高橋 いま半年くらいたって私たち来てますけど、ちょっと前に起きました感じるくらい、何も変わってないんですね。それで今は穏やかな球磨川の流れのギャップをすごく感じます。
迫田 やっぱりここの球磨人吉のいちばんの観光の目玉は球磨川だと思うから、ここが汚くなってぐちゃぐちゃになってたら観光に来る人は何を目的に来るのかって思うし、今年はすごい電話かかってきたんだけど、受け入れるどころか下ったら危ないからできないし、ホントにつらかったですね。ここで28年ラフティングの会社やってるから、こんなに傷ついた球磨川を見るのはつらいです。この落ちてる鉄橋、肥薩線って言って、観光ルートで車窓から球磨川の景色を見ながら、SLとか「やませみ」「かわせみ」とか観光列車が走ってたり。
高橋 SLも走るんですね。「ランドアース」のラフティングもここからスタートするんですか?
迫田 そうここからスタートして。面白い球磨川をもっと面白く楽しんでもらえるよう演出しながら下っていきます。
高橋 経験した親戚が言ってました。“球磨川のラフティングはほかと違う!”って。
迫田 来年にはどうにかしてやっていこうって思ってる。5月には橋を上げるって言ってるし。
球磨村観光の主力であるラフティングの会社「ランドアース」の代表、迫田重光さん。今回大きな被害をもたらしましたが、それでも川と生きてきた、生きていくという思いが伝わってきます。
一方で、球磨村の復興には道路や鉄道などの大規模復興事業のほか、人手不足も大きな課題だと迫田さんはいいます。
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迫田 最初、災害が起きた頃は連日報道されてましたけど、1か月も過ぎるともうパタッと止まって、報道が止まると、もう復興は終わったんだなと思ってしまうと思うんですよ。ところがまだこの状況。だからまず人手が足りないです。圧倒的に足りないです。復旧復興するにも家の中の荷物を片づけたり泥を出したりっていうのは、人手じゃないとできないんですよね。コロナ禍でいろいろ大変ですけど、いまこの地に必要なのは人手です。あと人吉の人たち、気持ちが沈んでいるから、出来ればいろんなところから来てもらって励まして貰えれば、みんな嬉しいんじゃないですかね。この景色をみんなに見てもらいたいし、キレイな球磨川、川辺川に戻していくのに力を貸して欲しい。あとこうした状況になったらどうしたらいいか、そんなヒントもここにあります。
高橋 夏にラフティングが再開したらそれを楽しんで、夜は人吉温泉に入って、美味しいものを食べて、そんなことも支援に繋がりますか?
迫田 間違いないです。周りからも、“お前たちが再開しないと地域が盛り上がらないんだぞ”って言われてますから、一日でも早くここでラフティングが出来るようしていきたいって思ってます。
今はコロナ禍で移動を自粛せざるを得ない状況ではありますが、迫田さんが代弁する被災地の思いを気に留め、そして状況が許せば足を運んで欲しいと思います。
災害の爪痕が残る球磨村にあって、「ランドアース」には悲壮感はありません。若い方たちが集う川辺の野趣あふれるオフィスには、ドラム缶風呂があったり、なんだかこれからキャンプファイヤーでも始まりそうな雰囲気でした。ガイドを務めるスタッフの皆さんは、いまラフティングが出来ない分、地域の家々を回ってボランティア活動に汗を流しています。そして迫田さんは、寄せられた義援金やクラウドファンディングで集めた資金で、彼らに給料を渡しているといいます。
転居による人口流出が課題となるなか、こうした村内での若い世代の活動は、住民の皆さんを勇気づけるのではないでしょうか。じつは被災前は村の住民との交流はそれほどなく、“問題児の集団と思われてたかも”と迫田さんは言います。今は感謝の言葉に支えられ、スタッフ総出で日々ボランティア活動に励んでいます。
まだ被災の爪痕が残る球磨村、復興には長い時間がかかる状況にあります。ただこうして頑張っている人がいて、そして忘れてしまいがちな、災害への意識や備えなどの学びがある。状況が許せば、足を運んでそうした教訓を受け取ることも、大切なことかもしれません。
“夏にはラフティングを再開したい”と迫田さん、お話しされていましたが、
「ランドアース」のオフィシャルサイト、ぜひ最新の情報をチェックしてください。
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「Hand in Hand」、次回は熊本ロケの後編、「豪雨災害を乗り越えて〜熊本県人吉市のいま」。2021年に再起を目指す人吉の人たちの取り組みをお伝えします。