豪雨とコロナ、熊本県球磨村・人吉市からのレポート
7月上旬、熊本県を中心に九州や中部地方といった広い地域で発生した集中豪雨からまもなく1か月となりますが、被災地では懸命な復旧作業が続いています。
熊本県では一級河川の球磨川がおよそ60キロメートルにわたって氾濫。川の長さのほぼ半分の範囲で水があふれ、地域に甚大な被害をもたらしました。また、その後も大雨と長引く梅雨の影響で被害が広がり、熊本県を中心にすでに80人以上の命が失われ、災害はいまも続いています。想定を超える豪雨災害、今回はそこに新型コロナウイルス感染のリスクも重なりました。
球磨川流域を襲った豪災害について今回話を伺ったのは、防災システム研究所所長 防災アドバイザーの山村武彦さんです。およそ50年に渡り災害の現場に丹念に足を運び、被害や実態を調査。そして7月9日から3日間、熊本県球磨村と人吉市を中心に現地を調査しました。
「現地へ行って驚いたのは、地上7mの電線の上にガスボンベがぶら下がっていた。また2階建ての家が屋根まで浸水していて、その浸水の深さに大変驚きました。これほど深い浸水というのはかつてないかもしれないです。」
球磨川はもともと「暴れ川」と呼ばれて水害に何度もあった川。流域の方も警戒も準備もしていたそうですが、今回はその想定を大幅に超えた水害だったと言います。
「雨の降り方が今回はちがった。球磨川は一か所堤防が決壊し、あとは高さ2mほど堤防をオーバーして越水し街中に大量に水が流れました。しかも未明から朝にかけて、避難できない時間帯で大量の水が短時間に押し寄せたので、悪い条件が重なったんです。流域の方も、たぶん浸水するだろうけど、2階に上がっていれば助かるだろうと2階に逃げた人が、多く犠牲になっていると思います」
河川の流域にいる人は、2階に垂直避難するのではなく、早い段階で安全な場所へ水平避難しなければならないと山村さんは話します。
球磨川浸水想定区域図/出典:国交省
特別養護老人ホーム千寿園は10m以上の浸水想定区域にあった
「ほとんどハザードマップ通りに浸水しています。人吉市の場合だと5〜10m浸水想定のところでやはり5m以上浸水しているし、球磨村の場合10〜20m浸水想定のところに特別養護老人ホーム「千寿苑」があって1階が完全に浸水してしまうという状態でした。熊本だけじゃなく全国でもう一度ハザードマップで、自分の地域、自分の家の危険度、リスクを確認してほしいと思います。」
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防災システム研究所所長で、防災アドバイザーの山村武彦さんによる、豪雨とコロナの複合災害にみまわれた熊本県球磨村・人吉市のレポート。
球磨村や人吉市は、気象災害に備えて自治体が事前に取るべき防災行動を時系列に定める「タイムライン」を先行導入した防災先進地でした。
「球磨川流域の市町村が国土交通省や県の指導をあおいで、自治体が『球磨川水害タイムライン』を作っていたんです。これは事前にタイムラインを作って、例えば洪水になる時間をゼロアワーとして、その72時間前に何をするか。48時間前に何をするか決めておくものなんです。このタイムラインをかなり早い段階から球磨村も人吉市もつくっていた。4日に水害が発生しましたが3日にその球磨川流域の自治体で連絡協議会を開き、適切に避難情報を出していたと思います。ところが多くの被災者に話を聞いてみると、ほとんどタイムラインなんて知らなかったという人が多かったんです。自治体の方としては、例えば避難準備情報、避難勧告・指示を出せば、このタイムライン通りにいくと洪水になる前に全員が避難完了する想定だったんですが、人吉市では本来なら全員が避難していないといけない時点で150人〜190人くらいしか避難所に避難していなかったんです。つまりタイムラインというものが確実に住民に理解されていなかったのではないかと。どれほど自治体が避難情報を出してもそれを受け止める側がその重要性や危機意識を共有できなければ適切な行動はとれないだろうと思う。いかに防災リテラシーの向上が重要かということを今回も思い知らされたような気がします。」
出典:西日本新聞
「特別養護老人ホームが設置されている球磨村は、そのタイムラインをもとに、氾濫が発生した4日の前日、3日の夕方5時に避難準備・高齢者等避難開始情報を発令しています。この時点で避難するか、建物の2回に移動していれば全員助かったと思います。千寿苑では法律に基づいて避難確保計画を村に提出していて、昨年の11月以降防災訓練も2回行われていました。さらに夜間は人手が足りないので住民の応援を求めるという訓練も行われたいたんです。実際には洪水がはじまる直前に15人の周辺住民がかけつけて、多くの人が1階に寝ていたのでエレベーターがないので車いすに乗せて4人がかりで2階へ引き上げていくということをしていたそうです。その際中に1階のガラスが割れて濁流が流れ込んできた。すぐそばを小川という球磨川の支流が流れていますが、その支流は球磨川の水位が上がればバックウォーター現象で逆流してきます。そこの地域はハザードマップでは10m以上浸水する場所だったんですが、ハザードマップ通りに浸水してしまったというわけなんです。私はそのタイムライン通りに動ければと思ったのと、もう1つは、このような自力避難できない方を収容する施設を浸水想定区域に置いといていいのか。しかも1階に寝かせておいていいのか。そういった根本的な安全対策や危機管理を法律の部分含めて今問われているのかなと思います。そして今の法律は、はじめから「逃げる計画」なんですが、これからは「逃げなくて良い計画」にしなければいけないのではないか。基本的な危機管理の姿勢が国家にも地域にも問われていると思います。」
山村さんのレポートにあったように、タイムラインで避難行動の情報が発信され、もしこの情報が住民にも周知徹底されていたら守れた命があったのかもしれません。私たちはどうこの教訓を活かしていけばよいのでしょうか。
例えば、防災無線は豪雨の中、夜間、窓も閉めた中では聞こえません。地域によっては地元のFM局と連携して災害情報を伝える仕組みや、また大分県日立市では今年4月から、防災ラジオを全戸に無料で配布、今回の豪雨でもその防災ラジオが功を奏して早めに避難できた例があったと山村さん話してくださいました。こうした災害危険エリアにいる地域では、家ごとに情報が届くような体制の見直しが必要なのではないでしょうか。
「Hand in Hand」、来週も防災アドバイザー、山村武彦さんのお話をお届けします。来週は豪雨とコロナ対策、「複合災害のリスク」について。わたしたちが「命を守るために、いまするべきこと」も伺います。
防災システム研究所所長 防災アドバイザー 山村武彦さんによる「令和2年7月豪雨/現地調査」詳しいレポートはコチラをご覧ください。