8年ぶりに南三陸町で再開したダイビングショップ『グラントスカルピン』
全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。
今週のテーマは・・・
「8年ぶりに南三陸町で再開したダイビングショップ『グラントスカルピン』」!
宮城県の北東部、リアス式海岸の美しい景色に恵まれた町、南三陸町。
写真は町の新しいランドマークである「さんさん商店街」からの風景です。
商店街には多くの観光客や地元の方が訪れ、賑わいを見せていますが、ふと周囲に目をやると、まだまだ造成が続く情景が広がります。そして目の前には遺構としての保存が検討されている防災対策庁舎が。
そんな復興途上にある南三陸町に、今年7月、8年ぶりにダイビングショップ、「グラントスカルピン」を開いたのが、代表で水中写真家の佐藤長明さんです。
なぜ8年以上が経過した今、ショップ再開を決めたのか?そこにどんな思いやストーリーがあったのか?お話を伺いました。
タコや牡蠣、アワビなどの豊かな漁場でもある“志津川湾”に面した南三陸町。
佐藤さんは、水中写真家として、25年以上前から、この志津川湾の海中を見てきた人物です。その志津川湾での“海中散歩”をメインコンテンツにしていたダイビングショップが、「グラントスカルピン」。
まず気になるのが、耳慣れないこのショップの名前。どんな意味なんでしょうか?
佐藤 「下噛みそうな名前なんですけど、グラントスカルピンというのは、ある魚の英名なんです。それはどんな魚かというと、大人でも7センチ程度にしかならない魚で、2頭身のずんぐりとした魚なんです。」
高橋 「お魚の写真ありますが、あれですか?」
佐藤 「そうです。」
高橋 「あれ魚なんですか?イノシシかと思った・・・(笑)」
佐藤 「するどいですね。よくウリ坊に似てると言われます。個体差があって色は白からオレンジ色までの色のバリエーションが観察できます。」
高橋 「初めて見ましたけど、なぜこの魚の名前を付けたんですか?」
佐藤 「この魚を見つけた時は、まだ僕はお店を持ってなくて、ダイビングのプロライセンスを取るか取らないかくらいの時期でした。で、この魚との出会いが、自分がお店をやっていくきっかけになったんです。この魚って国内では非常に珍しい魚で、太平洋沿岸でも東北の一部でしか観察できていない魚で、この魚見たさに全国からダイバーがやってくるようになった魚なんです。僕はダイビングガイドといって水の中とか、水中の写真を撮ったり映像を撮ったりっていう仕事も行っているんですが、この魚をきっかけに、世にいろんな写真というのを提供し始めるようになりました。」
「グラントスカルピン」
http://www.gruntsculpin.com/%E5%8D%97%E4%B8%89%E9%99%B8%E5%BA%97open
(オフィシャルページの中に写真が載っています)
水中写真家でダイビングショップを経営する佐藤さんの“生き方”を決めた魚、それが「グラントスカルピン」。
震災前、佐藤さんは志津川湾のそばに店を構えていましたが、南三陸町を襲った20メートル以上の津波によって流出。当時の経過について、あらためてお話しを伺いました。
佐藤 「震災が起きた時には日本にいなくてカナダでロケをしていたんです。ネットで現地のカメラマンがニュースを見てたら、そういった情報が入ってきて、映像を見ていたら、ウチのもともとあった店の近所の病院の上、ほぼ屋上付近まで波が到達しているのを見た時には、やはり何とも言えない気持ちになりましたね。カナダにいる場合じゃない、一刻も早く戻らないといけないと。で、ロケが終了して帰国予定が3月14日だったんですけど、運よくぼく成田まで車で行ってたんです。ですぐに現地に向かいました。現状はその通りだったんですが、ウチは家族や従業員に被害に遭った人間がいなかったので、とにかく被災地から外に出すことを考えました。そこで生活をしていくというよりも、再建の途っていうのはそれぞれの選び方だと思うんですけど、僕の中の考えは、その土地に残るというよりは、そこをいったん離れて状況を確認しながら生活を再建していくことに取り組んでいこうと考えたんです。」
高橋 「そのあとどちらへ」
佐藤 「従業員はそれぞれ県内の人間が多かったので、山形だったり仙台だったり。でウチの家族に関しては、僕が車に乗せて、縁があった札幌ですね。北海道へ渡りました。」
カナダから帰国後、すべてが押し流された、街の絶望的な光景を目の当たりにして、佐藤さんは家族とともに北海道へ。そしてその後、行き着いたのは、“函館の海”でした。
佐藤 「ここ三陸の海っていうのは、寒流の親潮、魚をはぐくむ親となる潮、と、南からの黒潮、それがぶつかることで沖合で好漁場になるということが知られているんですが、じつはもう一つ、津軽海峡を渡って南下してくる温かい潮もあるんですね。その潮がこの沿内域の生き物には非常に大きな影響を与えているんですが、そこから考えていくと、そのふたつの潮が海の中で展開される場所っていうのは、南三陸から南はあまりないんです。北は?というと、じつは北海道でも、一部、噴火湾と呼ばれる函館市内の太平洋側が、そのふたつの潮の影響を受けている場所だったんです。で、その場所っていうのは、じつは友人がいて、海の中を調査する仕事もやってる方だったんですけど、その方を頼って何度か海の中を確認したんですが、やはり南三陸の海と、“いとこ、親戚”みたいな海だったんです。生き物そのものも半分くらいは一緒。同じ生き物が観察できるんですね。外洋に面しているのでいい意味では透明度がいい。悪い意味では時化やすい。荒れやすいということですね。そういう環境なんですが、南三陸の海と比べてもいずれも潜った感想としては“非常に楽しい”というものでした。ただ一つ、残念なこともあるんです。『クチバシカジカ』がいないんです。」
高橋 「そうなんですね!『グラントスカルピン』くんは居ないんですね・・・」
南三陸の海と“いとこ、親戚”のような函館の海で、佐藤さんはダイビングショップ「グラントスカルピン」を開きましたが、でもそこにはグラントスカルピンはいない・・・。寂しさを埋めるわけではありませんが、佐藤さんは函館に拠点を移しながらも、折に触れて、南三陸の海を見続けてきたといいます。
佐藤 「震災後、最初にこの海にアプローチできたのは、3か月後の6月でした。その時は、海の色そのものが、通常の自然から感じられた透明度の悪さではなくて、埃っぽいというか、“水が埃っぽい”感じがするんです。生き物の気配がしないというか。そういった何とも言えない気持ちになったのは覚えているんですが、2年目、入ってみたら、今度は岩の表面に海藻類がたくさん生えていたり。で、3年目になると水底が見えないほど海藻類に覆われていて、その変化の大きさに、もしかしたらこれは海の中の生き物も相当数戻ってくるんじゃないかと期待をしたのを覚えてるんですね。ところが4年目に入ってみると、海藻の数がどんどん減って、ウニが目立ち始めたんですね。ウニというのは、適量いる分には全く問題ないんですが、度を越えた量になってしまうと、すべてのものを食べちゃうんです。俗にいう“磯焼け”という現象に近いものになってくるんですね。一方で小さい生き物たちっていうのは個体数や種類も多くみられるようになってきたんです。そういった形で毎年毎年その変化を感じたり、継続的に観察はしてきました」
高橋 「で、今回、8年ぶりに南三陸でお店を復活したのは、何か大きなきっかけがあったんですか?」
佐藤 「やはり函館でやってていちばん困ったのは、グラントスカルピンがいないということ、だったんです。定期的にこっちの海に潜ってて、必ずクチバシカジカ=グラントスカルピンだったり、ダンゴウオっていう魚を探してはいたんですね。はじめの頃っていうのはなかなか出会うことも出来なくて、観察できる個体数も少ない。で、ここ最近ですね。去年くらいにダイビングした際に、久しぶりにグラントスカルピンが卵を持ってる、繁殖をしてる姿というのを観察できたんです。それで去年、1月から2月にかけて、“プレオープン”でお客さんを入れてみようということを漁協と話して、その1か月間に限ってオープンさせました。じつはその季節はクチバシカジカの繁殖期のど真ん中に当たるんです。その中で、繁殖してる様子だったり、あとは震災後はじめてそういった“レジャー”という形でお客さんをこの海に入れることで、お客さんの反応であったりとか、僕が感じたみたいなその“直後の絶望感”的なものっていうのが海の中にレジャーの目線で入って見て取れるものなかどうか、お伺いをしながら1か月間を過ごしたんですが、感触としては、そうとう肯定的な反応だったんですね。やはり想像してたよりも海のなかっていうのはぜんぜんそういう震災を感じさせない状況になってると。そういった感想も頂けたんですよ。ですからオープンしようと決断したきっかけは、そういった“お客さんの反応”にもありました。
高橋 「その時は見られたんですか?グラントスカルピン」
佐藤 「もちろんです。人によっては卵から生まれるふ化、“ハッチアウト”っていうんですけど、そのハッチアウトを観察した人もいました。」
そんな志津川湾の“定点観測”を重ね、いよいよ今年7月、8年と4か月ぶりに、「グラントスカルピン」は南三陸町に帰ってきました。この日を待ちかねていたファンの方も多かったのではないでしょうか?
佐藤 「そうですね。震災前から来てくれてた人たちも感慨深げに潜ってくれたし、じっさい潜ったことで、この8年間の時間の空白というか、そういったものを払しょくしたかのように涙を流す方もいらっしゃいました。」
高橋 「いま私は南三陸町でこうしてお話を伺っていますが、函館のお店も、一緒にやってらっしゃるんですよね?
佐藤 「はい。まあ身体一つなんで、どっちかやってるときはどっちかお休みになるんですけど、両方いちおう、なんていうんでしょう、函館のお店をたたむというのではなくて、留守にするというか(笑)。そんな感じで行ったり来たりしています。僕の業界でもそういった働き方はあまり例が無いので、ホントにコケるかもしれません。」
ショップから志津川湾を望むビーチ、「サンオーレ袖浜」へ場所を移し、波音を聞きながら、佐藤さんが愛する南三陸の海について、お話を聞きました。
佐藤 「小さい時はこの袖浜の近くに住んでたので、もう毎日毎日、ホントに3回くらい身体の皮がむけるくらい遊んでました。ぜんぜん勉強した記憶がないくらい(笑)。海ってすごく広いんですけど、自分の気に入った場所とか、昔あった街並みじゃないですけど、海の中にも、僕がよく使う『道』みたいなものがあるんです。そういった『道』の中に住んでる住人が、四季折々いろいろな、繁殖の行動だったり景色だったりを見せてくれるんですよね。そういったことを反復しながら、変化を見たり新しいことを見つけたりっていう潜り方が僕は好きです。」
高橋 「佐藤さんだけの途があるんですね。」
佐藤 「ありますよ。」
高橋 「後ろついていきたいな〜」
8年ぶりにホームの海に戻り、営業を再開したダイビングショップ『グラントスカルピン』」。
現在は、南三陸町と函館と、2拠点で営業しています。7対3で南三陸が多め。海にも環境だったり生体だったり、違いがあるので、互いの“良い季節”を規準にバランスをとっているとのことでした。
ただし、何度もお話に出てきたように、“グラントスカルピンが見られる”のは、志津川湾だけです。
詳しくは「グラントスカルピン」オフィシャルページをチェックしてください。
http://www.gruntsculpin.com/%E5%8D%97%E4%B8%89%E9%99%B8%E5%BA%97open
今回も番組からの“お土産プレゼント”があります。
南三陸町の名品の一つでもある海苔!「千葉のり店」の高級焼き海苔を、
3名の方にプレゼントします。ごはんのお供にぜひどうぞ!
ご希望の方は、番組ホームページのメッセージフォームから、「南三陸町の海苔希望」と書いて、ご応募ください。番組への感想など、メッセージもお待ちしています。