「富岡漁港8年ぶりの船出〜釣り船「長栄丸」で“常磐もの”を釣る!」!
全国各地の災害被災地の「今」と、その土地に暮らす人たちの取り組みや、地域の魅力をお伝えしていくプログラム、「Hand in Hand」。
今週のテーマは・・・
「富岡漁港8年ぶりの船出〜釣り船「長栄丸」で“常磐もの”を釣る!」!
福島県の浜通りに位置する富岡町は、東日本大震災の時には20メートルを超える津波に襲われました。
そして東京電力福島第一原発の事故・・・。町全体が福島第一原発の20キロ圏内に入る富岡町は、一時全域が警戒区域に指定されていましたが、除染作業が進み、2017年春に一部の区域を除いて避難指示が解除。少しずつですが住民の帰還も進んでいます。
そんな中、この夏8年ぶりに、母港である富岡漁港に戻ってきたのが、遊漁船の「長栄丸」。船長の石井宏和さんにとってのこの8年、現在の海の状況、そして故郷の海への想いを伺いながら、「長栄丸」に乗って、釣りも体験させて頂きました。
朝6時、夜明けの富岡駅に立ち寄ると、駅のホームの向こうには、海を照らす朝陽が上り始めました。
魚種が豊富で、震災前は高値で取引されていた、“常磐もの”と呼ばれる、福島沖で獲れる魚たち。いま「長栄丸」では、連日、形の良い“常磐もの”が揚がっているということで、昔からのお馴染みさんや、噂を聞きつけた遠方からの釣りファンが、ぞくぞくやってくるといいます。
現在、相馬双葉漁協富熊地区副代表も務める、富岡の漁師の3代目、「長栄丸」の石井宏和船長。遊漁船は石井さんの代からはじめたそうで、今はこれ一本に絞ってやっているということ。
今年7月の帰港式に先がけて、6月に富岡港に戻ってきたということですが、その時の感慨とは・・・
(石井)そうですね、ようやく戻ってきたな・・・という感じですね。地震と原発事故後は富岡に戻ることが出来なくて、いわきの久之浜漁港に船は置かせてもらってました。
(高橋)当時の状況というのはどういったものだったのですか?
(石井)あの日はお客さんを見送って船の片づけをしている時に地震が来ました。大きな地震だったので一度家に帰って家族の安否を確認して、津波が来るのは分かっていたので、妻に車で港まで送ってもらって、僕は船を沖に出しました。
(高橋)そのあとご家族はどうなった・・・?
(石井)あまり言いにくいですけど、妻と娘と祖父が津波にのまれてしまって、妻は奇跡的に助かったんですけど、祖父は津波で亡くなって、娘は今もまだ行方不明です。
(高橋)でもやはり漁業を続けなきゃいけないって思えるまで、時間はかかりました?
(石井)かかりましたね。
ただ我々海の恵みを頂いて仕事をしてるので、津波でたくさんのものを失いましたけど、海に生かされてきたっていう事実もあるので、そこで海を恨んではいけないですよね。
ほんとはじめは船の仕事、海の仕事を辞めてしまおうというか、何もかもが嫌になった自分もあったんですが、どうだろう・・・1年くらいかかりましたかね。8年も経ってるので覚えてないですけど。
(高橋)震災後はいわきに戻って来られてどういった活動をされていたんですか?
(石井)わかりやすいのでは「海ラボ」ですね。一般の人たちを船に乗せて、第一原発沖まで行って、じっさいに海底土を採取したり、海水を採取したり、魚を釣ってもらって、それを「アクアマリンふくしま」に持って行って検査をする、それを体験してもらうということをやっていました。
(高橋)その活動をして石井さんたとえば、安心安全というものには自信を持っている?
(石井)今はもう安全だということは分かっています。安心は人それぞれ価値観が違うので、安心の押しつけはしちゃいけないって思ってます。ただ8年以上、県のモニタリング検査や我々がこうした調査活動にたずさわってきた中で、魚の安全性、海の安全というものは、我々は分かっています。
(高橋)いま私たちがいるのは富岡漁港ですが、富岡に戻ってくることを決めたきっかけはありますか?
(石井)“ここでやらない”という選択も出来なくはないですよね。でも“ここでやらない”ということは、ある意味、“ここではできないんだ”って世間の人には思われてしまうんじゃないかっていうことはあります。先ほど言いましたとおり福島の海の安全は自分の中ではわかっているんですから、ここでやらない意味がないっていうか、ここでやることが風評払しょくにつながるし、出来るんだからシンプルに“やる”。いままでここで海の仕事にたずさわってきた我々なんだから、そこでやるのが、うん、普通ですよね。
津波でたいせつな家族を亡くされた石井さんですが、海を見つめる目はどこまでも優しく、福島の海、福島の魚の安全を伝えていくという「覚悟」を感じました。
富岡町を含む福島沖の漁業は、原発事故の影響で、まだ「試験操業」が続いています。福島県庁水産課主幹の山廼邉昭文さんにお聞きしました。
(山廼邉主幹)
「福島県では、現在、試験操業で水揚げされる、年間8000検体に及ぶ魚を、毎週検査して、県のホームページで公開しています。その結果、安全が確認された魚種が、試験操業の対象魚種として選定されます。しかも県漁連は、国が定めた食品中の放射性物質の基準値100ベクレルよりもさらに厳しい50ベクレルという検査基準を設け、自主的に検査をしています。県漁連の自主検査で基準値を超えた魚を検出したことがありましたが、検査と流通体制がしっかりと機能していたことで、市場での流通を停止しました。今後も県漁連の自主検査を含めて安全性を発信していきます。
2012年に試験操業を始めた当初は、わずか3魚種だけだった対象魚種は、現在、出荷制限魚種2種を除くすべての魚介類まで、対象が広がっています。また現在は、風評被害をなくすのを目的に、福島の魚の安全・安心をPRしながら販売する、イオンリテールの「福島鮮魚便」など、さまざまな取り組みを続けています。首都圏の飲食店25店舗 で福島県産水産物が食べられる「ふくしま常磐ものフェア」も11月1日から15日まで開催する予定です。今はまだ地元消費が中心ですが、いつかは全国へ流通を広げたいと思っています。」
試験操業から本操業再開へ向けて、県、そして漁業者たちの歩みが、一歩ずつ進められているのが伝わってきます。
そんな試験操業が続く福島沖の“海の中”。乱獲のリスクが無いぶん、いま震災前よりも遥かに、豊かさが増しているんだそうです。震災前よりも形も魚の数が“格段に良くなっている”とか。
石井さんはそんな豊かな海の恵みを守るため、[ヒラメの持ち帰りは1人5枚まで]。そして[50センチ以下のヒラメはリリース]など、ほかの地域の釣り船では聞かれないような独自のルールを設けて、船を出しています。
釣りをなさる方ならお分かりだと思いますが、大物のヒラメなんてそうそう釣れるものではありません。ましてやほぼビギナーの万里恵さんがそうそう釣れるとは、釣り好きな番組スタッフも心の中で思っていました。さて、その結果やいかに・・・
「富岡港から船を出し沖へ」
「レクチャーを受けながら、餌のイワシをつけて、仕掛けを海へ」
「海底から少しリールを巻いたところでアタリを待ちます。するとすぐにアタリが・・・そして」
「ごらんくださいこの満面の笑顔!アタリが何かも分からないうちに釣れちゃいました!」
「その後もヒラメ、アイナメ、マゾイなど、かかるかかる」
「ちょっと竿を借りてスタッフもやってみたら、一発でこれです(笑)」
「持参したクーラーボックスに入りきらないのでこのサイズを泣く泣くリリース。まだ午前中だというのに!」
まさに“豊饒の海”を体感しました。すでに日によっては満員御礼で船に乗れない日も多いという「長栄丸」ですが、ビギナーの万里恵さんでも70センチオーバーのヒラメが釣れるくらいですから、ぜひこれは多くの方に体験して欲しいと思います。
「長栄丸」http://choeimaru.sakura.ne.jp/index.html
ちなみに写真はスタッフが持ち帰ったヒラメを食べた時の一例です。
「刺身は塩とスダチで」
「甘めの醤油漬けは、ネギ、ミョウガ、卵で」
「それをごはんにのっけるとまた旨い旨い」
「肉厚でプリプリな香草焼き」
「昆布じめ」
釣って楽しく食べておいしい富岡の海。8年ぶりにこの港から船を出し、待ちかねていたお客さんもいたのではないでしょうか?
(高橋)6月から船を再開して、お客さんの入りは正直どうですか?
(石井)正直、最初は富岡というこの場所、第一原発と第二原発に挟まれてる漁港なので、お客さんにとってはちょっと抵抗があるのかなって感じてはいたんですけど、でも思ってたほどそうでも無くて、意外とお客さん、喜ばしいことに来て頂いてます。
(高橋)いやだってこんなにたくさん連れて、釣りしててあっちこっちで、“きゃっ上がった”とか、“うわっ大きい!”とか聞こえるくらいだから、一回来たら、ちょっと教えたくないくらいクセになるなって感じがします。でもそんな海の恵みを、次の世代につないでいきたいなって思いも強いですか?
(石井)そうですね。やっぱここで仕事をやるっていうことが、第一原発が廃炉になるまで30年、40年って言われてる中で、やっぱりそういうものが解決するまで、なかなかそういう風評的なものっていうのは、払しょくって難しいんじゃないかって思うんです。だから我々がここでやらないっていう選択をしたら、次の世代、もしかしたら次の次の世代かもしれないですけど、その子たちが、“海の仕事をしたいんだ”って言った時に、そっからまた風評みたいなものが始まるんじゃないかって自分は考えちゃうんですよね。だったら我々の世代でそういうものだけでも無くしておきたいなっていう。ここで続けることによって、“土台作り”が出来たらいいなってことは考えてます。
8年ぶりに港が再開した富岡漁港。港が開いたとはいえ水揚げしてここから出荷するにはほど遠く、所属している漁船の多くは戻ってきていません。そんな中、帰港式に先駆けて富岡漁港へ戻って釣り船を再開した「長栄丸」の船長、石井宏和さん。再興の思いがいつか大きく広がって、かつてのにぎわいを港にもたらす日を願ってやみません。
今回、福島県庁水産課主幹の山廼邉さんからお話がありました、福島の魚の安全・安心をPRしながら販売する、イオンリテールの「福島鮮魚便」や、首都圏の飲食店25店舗で福島県産水産物が食べられる「ふくしま常磐ものフェア」も、ぜひお近くの方は足を運んでください。
福島鮮魚便https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/36035e/sengyobin2.html
ふくしま常磐ものフェアhttps://tabelog.com/tieup/main/fukushima_fish_fair
また復興庁のホームページでも、今回の番組の「長栄丸」に関するレポートが掲載されています。ぜひこちらもチェックをお願いします。
復興庁 http://www.fukko-pr.reconstruction.go.jp/2018/fukushimanoima2/
●番組からの“お土産プレゼント”、
今回の番組からの“お土産プレゼント”は、富岡町のお国言葉がいろいろデザインされた、「富岡の方言手ぬぐい」を、3名の方にプレゼントします。何の意味なのか分からないけど可愛らしい富岡弁がたくさん載っています(笑)。
ご希望の方は、番組ホームページのメッセージフォームから、「富岡町の方言手ぬぐい希望」と書いて、ご応募ください。番組への感想など、メッセージもお待ちしています。ご希望の方は、番組ホームページのメッセージフォームからご応募ください。
今日の感想や番組へのメッセージもお待ちしています。