- 2015.08.09
最強生物?クマムシの秘密
先週までは「コケ」の専門家のお話をお届けしてきましたが、今回は私たちの足元にある小さな森、「コケ」のなかで暮らしている不思議な生き物のお話です。
それは「クマムシ」です。
“地球で最強の生物”として紹介されるこの生き物の、恐るべき能力、
そして自由研究にもピッタリな、クマムシ観察のコツなど、クマムシ博士 慶応大学の上席所員で生物学者の堀川大樹さんにうかがいました。

◆不思議な生き物「クマムシ」
熊みたいにノシノシと歩いているところからクマムシという名前になりました。英語ではWater Bearといいます。クマムシは水の中でしか動かないんですが、水の中で熊みたいに動いているのでwater Bearと名付けられました。
大きさは種類によって異なるのですが、0.05mmから大きくて1mmくらいです。世界中どこにでもいて、深海から山の上まで、色々なところに分布しています。1000以上の種類があります。
私たちの身近なところでは、道路の脇にある乾いたコケにも住んでいます。そういうカラカラのコケのなかにいるクマムシは、水があるときは動きまわっているんですが、水が周囲からなくなると、自分の体の中の水もなくなって、カラカラになってしまうんですね。それでも仮死状態で生き延びられる。水をかけるとまた復活します。これがとても不思議だということで研究しています。
名前に「ムシ」とつきますが、、虫ではありません。無脊椎動物の一種で緩歩動物とも呼ばれています。
顕微鏡で見ないと分かりませんが、足が8本あって、この足を使って移動します。地球上のあらゆるところに存在し、その種類は1000種類以上と言われています。
そして、この生き物がよく“地球最強”と言われる理由は、過酷な環境下でも生きられるすごい能力があるからなんです。
◆最強の生物「クマムシ」
クマムシは元々海にいました。そこから陸に上がってきたと考えられています。海のクマムシは乾燥すると死んでしまいますが、陸に上がってきた時点で、乾燥に耐えられるようになり陸に進出してきたというふうに考えられます。
たとえば我々のように陸上に住んでいる生き物は乾燥にさらされているわけですが、人間なんかは皮膚が非常に発達していて、体内の水分を逃さないように進化しています。
クマムシの場合はこれと全く逆の方向で進化しています。水が体からなくなっても生きていればいいやという、カラカラになっても死ななければいいだろうというふうな適応をして、陸に進出してきたと思われます。
たとえばカラカラに乾燥すると、普通は細胞が壊れてしまうのですが、クマムシは何らかの方法で細胞を保護するような特別な秘密があります。もしカラカラになっても死なない理由がわかれば、それを応用して移植用の臓器を乾燥させて保存することができるようになるかもしれません。あるいは新鮮な肉、刺身なんかもカラカラにして保存しておいて、また水をかけると新鮮なものに戻って食べられるようになるというような、そういう食品保存の技術にも応用できるかと思います。
最終的には人間まるごとミイラになっても生き延びられるというようなものができれば、宇宙旅行にいくとき、何十年、何百年、あるいは何千年もの時間、乾燥した状態で、コールドスリープならぬドライスリープという状態で宇宙空間を移動、なんていうことも夢じゃなくなるのかなと思っています。
ヨーロッパ宇宙機構というところが、乾燥したクマムシを宇宙に持って行って、10日間くらい宇宙の真空にさらしたのですが、地球に返ってきてから水をかけたら復活したという記録があります。私はNASAにいたのですが、その時は宇宙生物学という分野でクマムシを研究していました。
というわけで、宇宙空間でも生き延びるクマムシ。彼らは水分がなくなると、「乾眠」という状態になり、仮死状態になります。この状態のクマムシは、人間が耐えられないような強い放射線はもちろん、空気の無い状態、そして摂氏百数十度や、マイナス百数十度の気温、さらに電子レンジでチンしても水をかけると復活するといいます。
そんなすごい能力をもったクマムシ。私たちの身近だと道端の乾燥したコケの中を好むそう。実はこれ、クマムシさんがこの地球で生き残ってきたしたたかな戦略があるんです。
◆クマムシの生き残り戦略
クマムシを探すとき、カラカラのしょぼいコケを見つけるとクマムシが出てくる確率が高まります。乾燥しているときはずっと眠っているんですが、雨が降ったりすると復活して、活動を始めます。
その逆に、水分を多く含んだコケには意外とクマムシはいないんです。なぜクマムシはカラカラのコケを好んで住むのかというと、水を含んだ環境というのは、住みやすいのでいろいろな生き物が入ってきます。そうすると資源を巡って競争が起きたり、カビやバクテリアのような天敵に攻撃されやすい。
ところがカラカラのコケのように生き物が住みにくい環境ですと競争相手が少ないですし、天敵が住むこともできなくなるということで、そういうニッチな環境、他の生き物が住みづらい場所を選んでいるんです。まあ結果的にそうなっていると思うんですが。
これは我々、人間にもなんらかの示唆を与えている。競争が激しいところでがんばるよりも、周りに他者があまり入ってこれない場所をつくって、そこでがんばると、競争を避けながら、ニッチなところで生きていけるのかもしれません。
クマムシの強さの秘密というのは、乾燥には抵抗せずに受け入れているところです。ストレスに対して抗わず、受け入れる。ですからすごく寛容なんです。ストレスに対していちいち過敏に反応せず、ある程度は受け入れて、「これでいいじゃん」ということをやっていくとだいぶ楽になるのではないかと思います。寛容さと鈍感さというのが強さの秘密ですね。
夏の炎天下、カラカラに乾いたコケの中でクマムシは息をひそめているんですね。
最後に、夏休みにクマムシ観察をしてみたい!というお子さんにアドバイスを頂きました。
◆クマムシ観察のコツ
肉眼ではクマムシは見えませんので、実体顕微鏡を買ってクマムシを見つけようというのが自由研究の定番になったらいいなと思いますね。まず街なかに出てみて、駐車場のようなコンクリートやアスファルトがあるところにカラカラのコケがあったら、それをフードの中に入れて持ち帰ります。持ち帰ったら、シャーレという、ガラスやプラスチックでできた皿に入れて、そこに水をいれてやります。それで一晩くらい置いておくと、なかから乾燥していたクマムシが水を吸って復活して出てきます。それで一晩たったら、コケを取り除いて、シャーレの中の水を実体顕微鏡で観察します。二十倍くらいの倍率があれば観察できます。これでノシノシと歩いているクマムシを見つけられたらすごく感動すると思いますので、ぜひ探してみてください。
もし観察するだけでは飽きたらず、さらに何かしたいという方は、クマムシをろ紙の上に移して乾燥させます。そして水をかけて復活するかどうかということを観察したり、もっと上級者は、寒天培地をつくって飼育にチャレンジしてみましょう。これはちょっとハードルが高いのですが、もしクマムシ飼育キットみたいなものがつくれれば面白いですね。
クマムシのお話しいかがだったでしょうか。堀川さんのお話しにあったクマムシ観察キットですが、学研から発売されていました。
http://kids.gakken.co.jp/kagaku/mag_kagaku/kg_presents/18_zoommicroscope/
あとクマムシさんというぬいぐるみもかわいくてオススメです。

今回のお話はポッドキャストでも詳しくご紹介しています。
こちらもぜひお聞きください!
【今週の番組内でのオンエア曲】
・I Really Like You / Carly Rae Jepsen
・まなざし☆デイドリーム / さかいゆう
それは「クマムシ」です。
“地球で最強の生物”として紹介されるこの生き物の、恐るべき能力、
そして自由研究にもピッタリな、クマムシ観察のコツなど、クマムシ博士 慶応大学の上席所員で生物学者の堀川大樹さんにうかがいました。

◆不思議な生き物「クマムシ」
熊みたいにノシノシと歩いているところからクマムシという名前になりました。英語ではWater Bearといいます。クマムシは水の中でしか動かないんですが、水の中で熊みたいに動いているのでwater Bearと名付けられました。
大きさは種類によって異なるのですが、0.05mmから大きくて1mmくらいです。世界中どこにでもいて、深海から山の上まで、色々なところに分布しています。1000以上の種類があります。
私たちの身近なところでは、道路の脇にある乾いたコケにも住んでいます。そういうカラカラのコケのなかにいるクマムシは、水があるときは動きまわっているんですが、水が周囲からなくなると、自分の体の中の水もなくなって、カラカラになってしまうんですね。それでも仮死状態で生き延びられる。水をかけるとまた復活します。これがとても不思議だということで研究しています。
名前に「ムシ」とつきますが、、虫ではありません。無脊椎動物の一種で緩歩動物とも呼ばれています。
顕微鏡で見ないと分かりませんが、足が8本あって、この足を使って移動します。地球上のあらゆるところに存在し、その種類は1000種類以上と言われています。
そして、この生き物がよく“地球最強”と言われる理由は、過酷な環境下でも生きられるすごい能力があるからなんです。
◆最強の生物「クマムシ」
クマムシは元々海にいました。そこから陸に上がってきたと考えられています。海のクマムシは乾燥すると死んでしまいますが、陸に上がってきた時点で、乾燥に耐えられるようになり陸に進出してきたというふうに考えられます。
たとえば我々のように陸上に住んでいる生き物は乾燥にさらされているわけですが、人間なんかは皮膚が非常に発達していて、体内の水分を逃さないように進化しています。
クマムシの場合はこれと全く逆の方向で進化しています。水が体からなくなっても生きていればいいやという、カラカラになっても死ななければいいだろうというふうな適応をして、陸に進出してきたと思われます。
たとえばカラカラに乾燥すると、普通は細胞が壊れてしまうのですが、クマムシは何らかの方法で細胞を保護するような特別な秘密があります。もしカラカラになっても死なない理由がわかれば、それを応用して移植用の臓器を乾燥させて保存することができるようになるかもしれません。あるいは新鮮な肉、刺身なんかもカラカラにして保存しておいて、また水をかけると新鮮なものに戻って食べられるようになるというような、そういう食品保存の技術にも応用できるかと思います。
最終的には人間まるごとミイラになっても生き延びられるというようなものができれば、宇宙旅行にいくとき、何十年、何百年、あるいは何千年もの時間、乾燥した状態で、コールドスリープならぬドライスリープという状態で宇宙空間を移動、なんていうことも夢じゃなくなるのかなと思っています。
ヨーロッパ宇宙機構というところが、乾燥したクマムシを宇宙に持って行って、10日間くらい宇宙の真空にさらしたのですが、地球に返ってきてから水をかけたら復活したという記録があります。私はNASAにいたのですが、その時は宇宙生物学という分野でクマムシを研究していました。
というわけで、宇宙空間でも生き延びるクマムシ。彼らは水分がなくなると、「乾眠」という状態になり、仮死状態になります。この状態のクマムシは、人間が耐えられないような強い放射線はもちろん、空気の無い状態、そして摂氏百数十度や、マイナス百数十度の気温、さらに電子レンジでチンしても水をかけると復活するといいます。
そんなすごい能力をもったクマムシ。私たちの身近だと道端の乾燥したコケの中を好むそう。実はこれ、クマムシさんがこの地球で生き残ってきたしたたかな戦略があるんです。
◆クマムシの生き残り戦略
クマムシを探すとき、カラカラのしょぼいコケを見つけるとクマムシが出てくる確率が高まります。乾燥しているときはずっと眠っているんですが、雨が降ったりすると復活して、活動を始めます。
その逆に、水分を多く含んだコケには意外とクマムシはいないんです。なぜクマムシはカラカラのコケを好んで住むのかというと、水を含んだ環境というのは、住みやすいのでいろいろな生き物が入ってきます。そうすると資源を巡って競争が起きたり、カビやバクテリアのような天敵に攻撃されやすい。
ところがカラカラのコケのように生き物が住みにくい環境ですと競争相手が少ないですし、天敵が住むこともできなくなるということで、そういうニッチな環境、他の生き物が住みづらい場所を選んでいるんです。まあ結果的にそうなっていると思うんですが。
これは我々、人間にもなんらかの示唆を与えている。競争が激しいところでがんばるよりも、周りに他者があまり入ってこれない場所をつくって、そこでがんばると、競争を避けながら、ニッチなところで生きていけるのかもしれません。
クマムシの強さの秘密というのは、乾燥には抵抗せずに受け入れているところです。ストレスに対して抗わず、受け入れる。ですからすごく寛容なんです。ストレスに対していちいち過敏に反応せず、ある程度は受け入れて、「これでいいじゃん」ということをやっていくとだいぶ楽になるのではないかと思います。寛容さと鈍感さというのが強さの秘密ですね。
夏の炎天下、カラカラに乾いたコケの中でクマムシは息をひそめているんですね。
最後に、夏休みにクマムシ観察をしてみたい!というお子さんにアドバイスを頂きました。
◆クマムシ観察のコツ
肉眼ではクマムシは見えませんので、実体顕微鏡を買ってクマムシを見つけようというのが自由研究の定番になったらいいなと思いますね。まず街なかに出てみて、駐車場のようなコンクリートやアスファルトがあるところにカラカラのコケがあったら、それをフードの中に入れて持ち帰ります。持ち帰ったら、シャーレという、ガラスやプラスチックでできた皿に入れて、そこに水をいれてやります。それで一晩くらい置いておくと、なかから乾燥していたクマムシが水を吸って復活して出てきます。それで一晩たったら、コケを取り除いて、シャーレの中の水を実体顕微鏡で観察します。二十倍くらいの倍率があれば観察できます。これでノシノシと歩いているクマムシを見つけられたらすごく感動すると思いますので、ぜひ探してみてください。
もし観察するだけでは飽きたらず、さらに何かしたいという方は、クマムシをろ紙の上に移して乾燥させます。そして水をかけて復活するかどうかということを観察したり、もっと上級者は、寒天培地をつくって飼育にチャレンジしてみましょう。これはちょっとハードルが高いのですが、もしクマムシ飼育キットみたいなものがつくれれば面白いですね。
クマムシのお話しいかがだったでしょうか。堀川さんのお話しにあったクマムシ観察キットですが、学研から発売されていました。
http://kids.gakken.co.jp/kagaku/mag_kagaku/kg_presents/18_zoommicroscope/
あとクマムシさんというぬいぐるみもかわいくてオススメです。

今回のお話はポッドキャストでも詳しくご紹介しています。
こちらもぜひお聞きください!
【今週の番組内でのオンエア曲】
・I Really Like You / Carly Rae Jepsen
・まなざし☆デイドリーム / さかいゆう