- 2014.10.12
クニ子おばばの焼畑 2
今週 は、先週に引き続き九州・宮崎県 椎葉村から、伝統的な農法「焼き畑」のレポートです。
5500年前から脈々と受け継がれてきたという、この村の焼き畑。古代からの知恵が、少しずつ積み重ねられたその技術には、まだまだ目からウロコが落ちるお話がたくさんあるんです。


山の中腹に小さな集落が点在する、本当に森の中にある村。椎葉村。
ここに嫁ぎ、「焼き畑」の伝統を引き継いだのが椎葉クニ子さん。通称「クニ子おばば」。
そしてそのクニ子おばばから、バトンを渡されたのが、息子の勝さんです。
取材した日は残念ながら雨に見まわれ、延期となってしまったのですが、勝さんは、今年焼き畑が行われる予定の山の斜面で、焼き畑の準備について教えてくれました。
焼畑はおいしいものを食べるためであるし、種子の保存というためでもあります。灰にするために、基本的に一年前からとにかく切って枯らす。焼き畑というのは灰をたくさん作るのが目的です。燃やすためにどうするかなんで、枯らして、あとは何もしない。大径木はその場から出しますが、小径木は残して枯らしておく。一年前からする仕事はそれだけ。杉は間伐しながら、光を入れて雑草を生やさないといけない。雑木がないところは燃えないし、杉の葉だけでは栄養がないんです。だから3~4年かけて、間引きをして、光を入れて雑木を増やす。それで4年目くらいにやっと雑木や草とかが生えてきて、それが1~2mくらいになりますね。またそれを切る。切って枯らす、それで杉を倒す。だから手がいるというか、そうしないと新しい芽が出てこない場合もあるし、作物がおいしくなかったり、生育が悪かったりするんです。やっぱり栄養がないと生育が悪いんです。

椎葉家が所有する土地の多くは、現在「杉の木」が占めています。かつては雑木林だったのですが、国の方針で、建築材むけの杉・ヒノキを育てることが推奨されたからなんです。椎葉家もその頃は、焼き畑のあと、杉の植林に力を入れていたと言います。
その杉の林を、いちど雑木林に戻してから焼き畑にするという、とても手間のかかる作業なんですね。
さて、先週もご紹介しましたが、焼き畑では種まきに順番があります。1年目はソバ。2年目はヒエ・アワ。3年目が小豆で、4年目が大豆。
この「1年目のソバ」にも、ちゃんとした理由があるんです。
8月に焼くのは、ソバの収穫のためです。ソバは75日で食べられるんですね。11月になると霜がおりるので、霜がおりる前に刈り取りするためには8月の上旬から中旬にまかないと間に合わない。それで8月に焼くんです。8月はまだ青葉がある時期で、それで延焼が防げる場合もあるしね。暑くないと燃えないというのもあるじゃないですか。完璧に乾燥しないというのが。気温が30度とか、35度だから体感温度は50度くらいになります。キツイ作業ですね。ただ、終わった後のビールは旨い!
サイクル的に良くできていて、感心するところはあります。やはり先人たちに知恵が長い間積み重なってきた農法かなと思います。ソバを植えるというのも、ソバは早く食べられるし、栄養も豊富。鉄分とか。ルチンとかいろいろたくさん栄養が含まれている。カルシウムも多いから、そういうことを考えるとソバの力もすごいよね。
夏の終わりに焼き畑をして、すぐにソバをまく。そうすれば、育ちの早いソバは2ヶ月ちょっとで実り、すぐにおなかを満たしてくれる・・・。結果、冬を越すことができるわけです。
勝さんによれば、8月に焼き畑をしないと、ソバ畑に霜が降ってしまうそう。ソバの実は霜に弱くダメになってしまうので、焼き畑のタイミングは、どうしても8月の上旬から中旬じゃないとダメなんだとか。これも、長年培われた知恵なんですよね。
自然のサイクルに忠実に従えば、ちゃんと山は恵みを与えてくれる。だから昔の人は、山や自然の中に、神様の存在を感じてきました。その考え方は今を生きるクニ子おばばや、息子、勝さんにもしっかりと受け継がれているようです。
みんなで集まって安全祈願をするんです。御幣とか神様を立てて、山の神とか火の神とかあるんだけど、それをちゃんとお祀りして、御幣を切って、みんなで安全作業を祈願する。それはずっと昔からのしきたりです。そんな中で言う文句もあるんです。「このやぼに火を入れもうす。 へび、わくど、虫けらども、早々に立ち退きたまえ。山の神様、火の神様、どうぞ火の余らぬよう、また焼け残りのないよう、お守りあってたもりもうせ」。やぼっていうのは焼畑のことですね。わくどというのはカエルのこと、虫けら、アリであろうとなんだろうと、焼くから早く出て行け。山の神、火の神に、できるだけ燃えるように、火事がないようにという文句なんです。ずっと伝統でやっています。神と一緒になってすべてを大事にするというか、その中でものをつくって食べていくということなんです。
焼くときは上から燃やします。上から燃やすと炎は弱い。下から燃やせば上昇気流でよく燃えます。でも上から燃やすのは、少しずつ燃やして完璧に燃焼させて灰を作るためです。下からつけると炎だけが速く上がっていって、灰にならないんです。山には元々栄養はない。まあ窒素くらいはあるんだけど、リンとかカリとかはないんで、どうしても灰を焼いてつくる必要があります。灰は窒素も多く含まれているし、窒素リン酸カリすべてが揃います。だから、燃えて灰ができなければ焼畑はできない。それがすべてです。
~ソバの種はどういうタイミングでまくんですか?
焼くのは午前中、12時前に終わるんだけど、まだ煙はくすぶっています。で、その間にご飯を食べて、それからまくんです。結構まだ熱いうち、その日のうちに。ソバの殻は厚いので、温度によって発芽を促すという説もあります。だから、本当に先人たちの生活の知恵はそれは大したもんだと思います。こういうものはやっぱり残していかないとね。
今回お届けしたお話はポッドキャストでも詳しくご紹介しています。
こちらもぜひお聞きください!
【今週の番組内でのオンエア曲】
・Flowers In The Window / Travis
・タユタウタ / MONGOL800
5500年前から脈々と受け継がれてきたという、この村の焼き畑。古代からの知恵が、少しずつ積み重ねられたその技術には、まだまだ目からウロコが落ちるお話がたくさんあるんです。


山の中腹に小さな集落が点在する、本当に森の中にある村。椎葉村。
ここに嫁ぎ、「焼き畑」の伝統を引き継いだのが椎葉クニ子さん。通称「クニ子おばば」。
そしてそのクニ子おばばから、バトンを渡されたのが、息子の勝さんです。
取材した日は残念ながら雨に見まわれ、延期となってしまったのですが、勝さんは、今年焼き畑が行われる予定の山の斜面で、焼き畑の準備について教えてくれました。
焼畑はおいしいものを食べるためであるし、種子の保存というためでもあります。灰にするために、基本的に一年前からとにかく切って枯らす。焼き畑というのは灰をたくさん作るのが目的です。燃やすためにどうするかなんで、枯らして、あとは何もしない。大径木はその場から出しますが、小径木は残して枯らしておく。一年前からする仕事はそれだけ。杉は間伐しながら、光を入れて雑草を生やさないといけない。雑木がないところは燃えないし、杉の葉だけでは栄養がないんです。だから3~4年かけて、間引きをして、光を入れて雑木を増やす。それで4年目くらいにやっと雑木や草とかが生えてきて、それが1~2mくらいになりますね。またそれを切る。切って枯らす、それで杉を倒す。だから手がいるというか、そうしないと新しい芽が出てこない場合もあるし、作物がおいしくなかったり、生育が悪かったりするんです。やっぱり栄養がないと生育が悪いんです。

椎葉家が所有する土地の多くは、現在「杉の木」が占めています。かつては雑木林だったのですが、国の方針で、建築材むけの杉・ヒノキを育てることが推奨されたからなんです。椎葉家もその頃は、焼き畑のあと、杉の植林に力を入れていたと言います。
その杉の林を、いちど雑木林に戻してから焼き畑にするという、とても手間のかかる作業なんですね。
さて、先週もご紹介しましたが、焼き畑では種まきに順番があります。1年目はソバ。2年目はヒエ・アワ。3年目が小豆で、4年目が大豆。
この「1年目のソバ」にも、ちゃんとした理由があるんです。
8月に焼くのは、ソバの収穫のためです。ソバは75日で食べられるんですね。11月になると霜がおりるので、霜がおりる前に刈り取りするためには8月の上旬から中旬にまかないと間に合わない。それで8月に焼くんです。8月はまだ青葉がある時期で、それで延焼が防げる場合もあるしね。暑くないと燃えないというのもあるじゃないですか。完璧に乾燥しないというのが。気温が30度とか、35度だから体感温度は50度くらいになります。キツイ作業ですね。ただ、終わった後のビールは旨い!
サイクル的に良くできていて、感心するところはあります。やはり先人たちに知恵が長い間積み重なってきた農法かなと思います。ソバを植えるというのも、ソバは早く食べられるし、栄養も豊富。鉄分とか。ルチンとかいろいろたくさん栄養が含まれている。カルシウムも多いから、そういうことを考えるとソバの力もすごいよね。
夏の終わりに焼き畑をして、すぐにソバをまく。そうすれば、育ちの早いソバは2ヶ月ちょっとで実り、すぐにおなかを満たしてくれる・・・。結果、冬を越すことができるわけです。
勝さんによれば、8月に焼き畑をしないと、ソバ畑に霜が降ってしまうそう。ソバの実は霜に弱くダメになってしまうので、焼き畑のタイミングは、どうしても8月の上旬から中旬じゃないとダメなんだとか。これも、長年培われた知恵なんですよね。
自然のサイクルに忠実に従えば、ちゃんと山は恵みを与えてくれる。だから昔の人は、山や自然の中に、神様の存在を感じてきました。その考え方は今を生きるクニ子おばばや、息子、勝さんにもしっかりと受け継がれているようです。
みんなで集まって安全祈願をするんです。御幣とか神様を立てて、山の神とか火の神とかあるんだけど、それをちゃんとお祀りして、御幣を切って、みんなで安全作業を祈願する。それはずっと昔からのしきたりです。そんな中で言う文句もあるんです。「このやぼに火を入れもうす。 へび、わくど、虫けらども、早々に立ち退きたまえ。山の神様、火の神様、どうぞ火の余らぬよう、また焼け残りのないよう、お守りあってたもりもうせ」。やぼっていうのは焼畑のことですね。わくどというのはカエルのこと、虫けら、アリであろうとなんだろうと、焼くから早く出て行け。山の神、火の神に、できるだけ燃えるように、火事がないようにという文句なんです。ずっと伝統でやっています。神と一緒になってすべてを大事にするというか、その中でものをつくって食べていくということなんです。
焼くときは上から燃やします。上から燃やすと炎は弱い。下から燃やせば上昇気流でよく燃えます。でも上から燃やすのは、少しずつ燃やして完璧に燃焼させて灰を作るためです。下からつけると炎だけが速く上がっていって、灰にならないんです。山には元々栄養はない。まあ窒素くらいはあるんだけど、リンとかカリとかはないんで、どうしても灰を焼いてつくる必要があります。灰は窒素も多く含まれているし、窒素リン酸カリすべてが揃います。だから、燃えて灰ができなければ焼畑はできない。それがすべてです。
~ソバの種はどういうタイミングでまくんですか?
焼くのは午前中、12時前に終わるんだけど、まだ煙はくすぶっています。で、その間にご飯を食べて、それからまくんです。結構まだ熱いうち、その日のうちに。ソバの殻は厚いので、温度によって発芽を促すという説もあります。だから、本当に先人たちの生活の知恵はそれは大したもんだと思います。こういうものはやっぱり残していかないとね。
今回お届けしたお話はポッドキャストでも詳しくご紹介しています。
こちらもぜひお聞きください!
【今週の番組内でのオンエア曲】
・Flowers In The Window / Travis
・タユタウタ / MONGOL800