さて今週は、昨年から今年にかけて、海外、日本それぞれで発生した、「森」をめぐる大きな出来事について、考えていきます。
オーストラリアの森林火災、そして房総半島を襲った台風被害です。
スタジオにお越しいただくのは、森林ジャーナリストの田中淳夫さん。日本で唯一、この肩書を名乗り、森と人の関係をテーマに取材を続けている方です。ジャーナリストの視点でこの2つの出来事をどうご覧になったのか、伺っていきます!


~オーストラリアの大規模森林火災について、田中さんはどう見られましたか?
 確かに本当に大規模で大変な災害だと思うんですね。どうしてこれほど大きくなったのかと言えば、よく言われる地球温暖化、気象変化があった、乾燥していたからとかいろいろ言われていますね。それ自体はおそらくそうなんだろうと思うんですが、去年だけではなくて、実は毎年山火事が起こっているんですね。特に去年はアマゾンがなりましたし、他にもシベリアだとかインドネシアとかあちこちで火事が起こっているんですね。去年だけ急に世界中が燃えたというわけではなくて、実はずっと何らかの形で燃えていて、それはあまりニュースにならなかったのが、去年は規模が大きかったからみんなが急に注目したというのがまず第一にあるんじゃないかなと思いますね。

~自然界の森林としては、山火事とか火事も必要なサイクルの1つなのですか?
 もちろん確かに燃えたのは事実で、かなり面積も大きかったんですが、火事というと本当にすべての木が燃え尽くして炭になったと言う印象で見ちゃうんですが、実は炎にあおられても表面だけが燃えていることが多いんですね。要するに外は燃えても芯は生きていたり、土の中はほとんど温度は上がっていないんですね。だから種が落ちていたらその種子は燃えずに残っているもんで、火事があっても新しい芽生えも生まれるということが起きています。研究分野でも、ファイヤーエコロジーという分野がありまして、「火事の生態学」ということなんですが、燃えることによって種が発芽するような種類もあるんですよね。殻が硬くて、そのままだと種子が割れないんですよ。自分では割れないという不思議な種子があるんですね。燃えてくれた方が破れて芽生えができるという。だから初めから火事が定期的に起こることを前提とした植物もあるんですね。もちろん災害は災害なんですが、あまり深刻にせずに、これも長い歴史の一部だと思って、再生するのを待つのがいちばん良いんじゃないかなと思いますね。

~では、植林などせずに焼け跡はそのままにしておいた方が良いということですか?
 私はそう思いますね。特に天然林で自然の森だったら、また自然の森にかえって欲しいですよね。という事は人は手を出さないで、時間をかけて戻ってくるのを待つというのが正解なんじゃないかと思いますね。そこに植樹をしたら天然林が人工林になっちゃいますからね。

~ニュースでよく流れていたのに、ユーカリは燃えやすいというのがあったじゃないですか。燃えやすい木がなぜあんなオーストラリアの暑いところにあるのかなと思ったんですが…
 確かにユーカリは油を含んでいます。ユーカリ油という油が取れるくらいですから燃えやすいのは事実ですが、何も火事を起こすために生えているわけでは無いわけで、植物の生理的に油を持つ方が良いし、生態系も一定時期ごとにユーカリは燃えるという前提で生きてるような自然だったりしますよね。

~そういう風に火災を見るとちょっと冷静に見ることもできるなという感じがしますね。昨年は海外だけではなく日本でも、自然災害がすごくて、千葉県房総半島などは相次ぐ台風に見舞われてしまって、特に台風15号による千葉県全域の大停電については、倒木のことなどがニュースでも流れていました。
 台風の後すぐに千葉に行くことがありましたので、災害現場をみては回ったんですけど、やはりバタバタ木が倒れているんですよね。倒木があったから電線が切れたり電柱が倒れたりして停電になったわけですから、まずなぜ木が倒れたのかを考えていくべきかなと思いますね。風が強ければどこの木でも倒れるのは間違いないんですが、私も見たんですが、例えば街路樹が根っこから倒れているんですね。これは他の地域でもよく見ますし、確かに風が強かったら倒れるんです。千葉の特徴は、途中の部分から折れているんです。幹の高さが4~5メートルの所からぽきっと折れている。それが非常に目立ちましたね。中が腐っているんですよね。主にそれは杉なんですが、病気になった杉だったために、中が腐って、それでぽきっと折れてしまったケースをよく見ましたね。千葉県は山武杉という杉が有名です。非常に優秀で材質が良く、人気の杉だったので千葉県じゅうに植えたということがあるんですが、植えてからわかったんですが実は非常に病気に弱かった。特にみぞくされ病という病気に非常に弱かったんです。それが蔓延してしまったということがありますね。それも本来手入れをちゃんとしていれば救える杉も放置してしまっていた。密生して真っ暗になってしまって、光があまり当たらないとひ弱になりますよね。そうすると病気はすぐ蔓延するんですね。小さな傷から内部に入って病原菌が広がると、杉の中心部が腐っていくんですが、だから近かったら近いほどよくうつりますよね。もともと山武林業といいますが、江戸時代から続いていまして、その時はそんな病気はあまり発生していないんですよね。やっぱりそれは昔から地元の方がその地域の特質を知っていて、もともと房総半島は花崗岩で非常に痩せた土地なんです。だからいきなり杉を植えても育たない。だからまず松を植える。そしてその松の落ち葉が集まって溜まってきて、肥えてきたら杉を植える。杉と松を混植する。そうやってサイクルを作って育ってきたんですね。でも戦後は一気に全部杉を植えるというやり方をしてしまったために、昔の伝統的な林業技術を無視してしまったから余計に弱くなったという面があると思います。
 森林というと普通に、景観が良いとか、木材が生産できるとかいいますが、もう一つ防災の機能があることをやっぱり忘れてはいけない。そのためにもやっぱりちゃんと世話をして、健全に育てなきゃいけないんじゃないかなと思いますね。


森林ジャーナリストの田中敦夫さんのお話、いかがだったでしょうか。
田中さんは、日本の林業に関する新刊『絶望の林業』(新泉社)を出されています。こちらもぜひチェックしてみてください!


【今週の番組内でのオンエア曲】
・言葉はさんかく こころは四角 / くるり
・Head Over Feet / Alanis Morissette

パーソナリティ

高橋万里恵
高橋万里恵

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