- 2018.12.02
「わたしの森に」アーサー・ビナードさんインタビュー1
今週は、スタジオにアメリカ・ミシガン州出身で広島在住の詩人、アーサー・ビナードさんをお迎えします。
ビナードさん、新潟県のとある集落に通い続けていまして、雪国の「森」を題材に、一冊の絵本「わたしの森に」を発表されています。きょうはこの絵本に出てくる森と、その森の「ちょっと怖い生き物」のお話、いろいろ伺います!

~「わたしの森に」ではずっと主語が「私」でページが進んでいきますが、私って蛇だったんですね。
バラしちゃったね(笑)絵本の真ん中あたりで人間が森に入ってくるんだよね。人間て本当に鈍くて、いろんなものを踏んづけてから、「あ、山菜があった。キノコがあった」って気づくんだけど、マムシの場合は踏んづけるとかまれる可能性があって、痛い目にあう。でも踏まれたマムシも痛い目に合ってるんだね。幸いなことにこの絵本では踏んづける前に子供が気がつくんだよね。そこで初めて、この主人公はマムシだったって気づくんですね。それまではずっと「私」、「私」。
ストーリーとしては、1匹のメスのマムシが新潟の雪深い十日町鉢集落あたりの森にいる。豪雪地帯ですから、雪の下の土の中にいる。動物たちは眠りながら感じるんだね。杉の木に雪がいっぱい積もって、それが温まるとズルズルとずり落ちる。そのドスンと落ちて、その響きを敏感に森を感じながら、その下にいる存在が語っている。雪の下には動物だけではなくて植物もすごい生命力を持ったふきのとうとかコゴミとかいて、それも感じながら語っていくんだよね。そして、雪が溶けて今度はいろんな冬眠していた生き物が出てくる。
マムシって、僕らがちょっと想像が及ばないような才能を持っているんですよね。マムシの顔をよく見ると、目と鼻の穴の間に不思議な凹みがある。それを英語でピットというんです。僕の故郷にいるガラガラヘビといとこ同士みたいな親戚の関係なんだけど、そのガラガラヘビはピットヴァイパーといいます。顔にきれいにくぼんでいるところが左右の頬に目と鼻の穴の間にあるんです。昔の1950年代の百科事典があるんだけど、ピットの意味は凹み。でもそれが何のためにあるのかわかりませんと書いてあるんです。半世紀前は誰もその凹みの意味がわからなかった。でもその後いろいろ研究が進んで、わかってきたんです。今回の絵本にはそれをこの絵本の絵をかいた田島征三さんと議論しながら、可視化したんです。この凹みはもう一つの目なんです。僕らは光を感知できる目を持っていますが、マムシも光で見る目があるんだけど、目と鼻の穴の間の凹みは赤外線を見る目なんです。彼らは熱を全部ビジュアル的にとらえる。よく米軍の夜の作戦の映像なんかでも出てきますよね、ナイトビジョン。要はこれを体に備えているわけなんです。ちょっとした温度差は全部映像としてビットでわかるんです。
森の中ではこれがものすごく大事です。特にマムシはネズミとかウサギとかを捕るわけ。このストーリーでは冬眠から目覚めてお腹がすいたところにトガリネズミが来て、「いただきましょう」とあります。そうなると、ピット器官の映像とかが見えてきます。マムシのピット器官は感覚的には何なのか。雪の下ではズシンシンズシンシン、シンシンと感じる。暖かいものが見えると「むんむんむん」が見える。たとえば僕らの体は暖かいから「むんむんむん」が見えてくる。そして、マムシは交尾して妊娠するんだけど、その膨らんでいくのを「まんまんまん」という擬態語のような言葉を繰り返し出て表現しています。「まんまんまん」「むんむんむん」「しんしんしん」という3つの擬態語が中心になっていて、ある時はっと気づいたんです。「マ ム シ」。全然そんなこと意図せずにやったんだけど、はっと気づいて田島さんに「マムシの頭文字になってるけど、これわざとらしい」と言うと、「誰も気づかないからいいんだよ」って。でも今までで小学生で気づいた人がいましたね。大人は絶対に気づかないですね。
~でも絶妙な表現だと思ってました。「むんむんむん」はなんか熱を感じる音に聞こえますし。
読者がマムシの気持ちになってをれを感じたら、それが本当にいちばんこの絵本で伝えたかったことなんです。
アーサー・ビナードさんのお話、いかがだったでしょうか。来週もインタビューの続きをお届けします!

『わたしの森に』くもん出版
(文:アーサー・ビナード、絵:田島征三)
高橋万里恵さんがオープニングで話していた宮城県南三陸町「鮭・いくらまつり福興市」の様子です!



【今週の番組内でのオンエア曲】
・BUILT TO LAST / Melee
・WANT YOU BACK / HAIM
ビナードさん、新潟県のとある集落に通い続けていまして、雪国の「森」を題材に、一冊の絵本「わたしの森に」を発表されています。きょうはこの絵本に出てくる森と、その森の「ちょっと怖い生き物」のお話、いろいろ伺います!

~「わたしの森に」ではずっと主語が「私」でページが進んでいきますが、私って蛇だったんですね。
バラしちゃったね(笑)絵本の真ん中あたりで人間が森に入ってくるんだよね。人間て本当に鈍くて、いろんなものを踏んづけてから、「あ、山菜があった。キノコがあった」って気づくんだけど、マムシの場合は踏んづけるとかまれる可能性があって、痛い目にあう。でも踏まれたマムシも痛い目に合ってるんだね。幸いなことにこの絵本では踏んづける前に子供が気がつくんだよね。そこで初めて、この主人公はマムシだったって気づくんですね。それまではずっと「私」、「私」。
ストーリーとしては、1匹のメスのマムシが新潟の雪深い十日町鉢集落あたりの森にいる。豪雪地帯ですから、雪の下の土の中にいる。動物たちは眠りながら感じるんだね。杉の木に雪がいっぱい積もって、それが温まるとズルズルとずり落ちる。そのドスンと落ちて、その響きを敏感に森を感じながら、その下にいる存在が語っている。雪の下には動物だけではなくて植物もすごい生命力を持ったふきのとうとかコゴミとかいて、それも感じながら語っていくんだよね。そして、雪が溶けて今度はいろんな冬眠していた生き物が出てくる。
マムシって、僕らがちょっと想像が及ばないような才能を持っているんですよね。マムシの顔をよく見ると、目と鼻の穴の間に不思議な凹みがある。それを英語でピットというんです。僕の故郷にいるガラガラヘビといとこ同士みたいな親戚の関係なんだけど、そのガラガラヘビはピットヴァイパーといいます。顔にきれいにくぼんでいるところが左右の頬に目と鼻の穴の間にあるんです。昔の1950年代の百科事典があるんだけど、ピットの意味は凹み。でもそれが何のためにあるのかわかりませんと書いてあるんです。半世紀前は誰もその凹みの意味がわからなかった。でもその後いろいろ研究が進んで、わかってきたんです。今回の絵本にはそれをこの絵本の絵をかいた田島征三さんと議論しながら、可視化したんです。この凹みはもう一つの目なんです。僕らは光を感知できる目を持っていますが、マムシも光で見る目があるんだけど、目と鼻の穴の間の凹みは赤外線を見る目なんです。彼らは熱を全部ビジュアル的にとらえる。よく米軍の夜の作戦の映像なんかでも出てきますよね、ナイトビジョン。要はこれを体に備えているわけなんです。ちょっとした温度差は全部映像としてビットでわかるんです。
森の中ではこれがものすごく大事です。特にマムシはネズミとかウサギとかを捕るわけ。このストーリーでは冬眠から目覚めてお腹がすいたところにトガリネズミが来て、「いただきましょう」とあります。そうなると、ピット器官の映像とかが見えてきます。マムシのピット器官は感覚的には何なのか。雪の下ではズシンシンズシンシン、シンシンと感じる。暖かいものが見えると「むんむんむん」が見える。たとえば僕らの体は暖かいから「むんむんむん」が見えてくる。そして、マムシは交尾して妊娠するんだけど、その膨らんでいくのを「まんまんまん」という擬態語のような言葉を繰り返し出て表現しています。「まんまんまん」「むんむんむん」「しんしんしん」という3つの擬態語が中心になっていて、ある時はっと気づいたんです。「マ ム シ」。全然そんなこと意図せずにやったんだけど、はっと気づいて田島さんに「マムシの頭文字になってるけど、これわざとらしい」と言うと、「誰も気づかないからいいんだよ」って。でも今までで小学生で気づいた人がいましたね。大人は絶対に気づかないですね。
~でも絶妙な表現だと思ってました。「むんむんむん」はなんか熱を感じる音に聞こえますし。
読者がマムシの気持ちになってをれを感じたら、それが本当にいちばんこの絵本で伝えたかったことなんです。
アーサー・ビナードさんのお話、いかがだったでしょうか。来週もインタビューの続きをお届けします!

『わたしの森に』くもん出版
(文:アーサー・ビナード、絵:田島征三)
高橋万里恵さんがオープニングで話していた宮城県南三陸町「鮭・いくらまつり福興市」の様子です!



【今週の番組内でのオンエア曲】
・BUILT TO LAST / Melee
・WANT YOU BACK / HAIM