今週は、『森林ジャーナリスト』の田中淳夫さんをお招きしました。田中さんに日本の森をめぐるお話から、世界中を旅されて見聞きした世界の森の「不思議な話」まで色々伺おうと思います。


〜田中さんは学生時代、探検部だったそうで、その後新聞社や出版社を経て、フリーの森林ジャーナリストになられた方です。森をテーマにした本も多数出版されていますが、森林ジャーナリストってどんなお仕事なんですか?
基本的には森林にまつわる、森と人に関係あるものをなんでも扱っていこうという気持ちで付けた肩書なんですが、この肩書を使っているのは日本で私だけです。ですから、日本一の森林ジャーナリストと名乗っているわけです(笑)。

〜森林ジャーナリストを名乗ろうと持ったきっかけは何だったんですか?
じつは私が「森林ジャーナリスト」という肩書を考えたわけではないんです。最初に森に関する本を出版したときに、書評などに森林ジャーナリストの本ということで紹介されて、このフレーズはいいな、ということでそのまま使わせていただいているんです。

〜最近、「街路樹サミット」の取材をしたと伺いましたが、街路樹サミットってなんですか?
これは街路樹の現状を憂いている人たちの集まりです。造園家の人が多いのですが、林業家ですとか、一般市民の方もいらっしゃいます。いま、街路樹はいろんな問題を抱えていて、皆さんよく見かけると思うのですが、電信柱みたいに枝を全部切ってしまうような剪定をしている木があったり、大木になりすぎて歩道から根がはみ出ているような木があったり、車道に枝がはみ出ていて見にくいという問題があったりします。また、病んでいる木も多く、内部で腐って、急に倒れたりすることもあって、それも問題になっているんですね。それはやはり管理、世話の仕方がおかしいんじゃないかということで集まって、それを訴えていこうというサミットが開かれたんです。1月に開かれたのですが、全国サミットとしてはそれが2度めだということでした。

〜街を歩いていると街路樹はたくさん見ますし、有名なイチョウ並木なんかもあったりしますが、じつはそこには問題があるんですね。
そうなんですね。健全に育っているとは限らない木が多く、また剪定の仕方があまりにも酷くて、見栄えも悪いし木のためにもよくないということがあります。ではなぜそういうことが起きるのかというと、担当者にあまり植物の知識を持つ人がいないんですね。道路の付属物としてつくられるので、土木関係者が思いつきで植えてしまったりするケースもありますし、剪定も、邪魔だったらどんどん枝を落としてしまうというような、あまり植物の生態を考えて管理していないので、それでそういうことが起きてしまいます。ですので、もっと造園とか林業とか、そういう植物に詳しい人が手をかけるべきじゃないかという趣旨でサミットが開かれて、そのことをみんなに呼びかけていこうという動きでしたね。

〜その街路樹の問題を解決するにはどうすればいいんでしょうか?
たとえば剪定の仕方も工夫をして、木を元気にすることも考えないといけませんし、あまりに大きくなった木は植え替えないといけません。でも切ろうとするとたいてい地元で反対運動が起きるんです。放っておくと枯れて倒れてしまうおそれもあって危険なのですが、大木を切ることに抵抗のある人が多いです。でもそれでいいのかどうかということです。木のためにも、地元の景観を考えるときにも、やっぱり知識を持って管理しないといけません。
多くの街路樹は戦後、ニュータウンなどが広がっていく過程で植えられる事が多かったので、植えてから50年くらい経っています。ですので、そこそこの大きさになっているのですが、街路樹の下の土の部分は極めて狭いので、それ以上根が広がりません。そうすると樹木にとってはおかしな成長になって、病気になるものも出てきます。たとえばきのこが生えて、中から腐ってしまっているような木も増えているんですね。


〜植えたときは見た目を気にして、その後のことはあまり考えられていなかったんですね。
そのときに細い低木を植えて、ちょっとした緑という気だったんでしょうが、50年後の姿を考えていなかったんだろうと思いますね。

〜そういった街路樹にも生態系があるんですか?
普通に考えれば、街路樹というのは、数m間隔で一本一本植えるので、そこにはあまり森林のような生態系は無いわけですが、そういう木でも上に枝葉が広がっていると、そこには虫がつくし、虫がいればそれを食べに鳥が寄ってきます。鳥はあちこちの街路樹や公園を順番に回っていくので、街路樹だけを見ると大した生態系ではないのですが、もっと大きい視点で、公園と公園が街路樹で結ばれていると見ると、そういう意味では大きな生態系があります。コリドーという言い方もするのですが、ある公園に住んでいる鳥や昆虫は、街路樹をつたって別の公園の方にも移動できるという効果もあるので、街路樹があることによって、その地域の生物多様性が増すということが最近の研究でわかってきています。
ですから、そこも考えて管理しないといけません。いきなり全部丸坊主に剪定してしまっては、いままでその木にとまっていた鳥はとまるところが無くなってしまうわけですね。


〜ネットにも興味深い田中さんのコラムがありますが、そのなかのひとつ、「360度カメラで森林情報」というのはなんですか?
これは国有林の話なのですが、国有林でもそこの木を売ったりしているわけです。でもその情報が全然世間に伝わっていないんですね。どんな森で、どういう生態系なのかということがわからないのに、利用してくれと言ってもできないので、そこに360度カメラを設置して、それをインターネットで常時見られるようにしようということなんです。まだこれからなので、成果はわからないのですが、色々工夫をして広めていこうということです。林野庁としては、その木を買いたいという人が現れるのを待っているらしいんですけどね。

〜なるほど、そういう使われ方なのですね。「大木の尊厳死を考える」というのはどういことですか?
大木が天然記念物に指定されていたりすることがあって、それはいいことなのですが、大木というのはつまり老木ですよね。樹齢何百年経っていたりして、かなり弱っている木もあるのですが、それを地元の方が熱心に、なんとか枯れないようにしているということがあります。それは結構なことなのですが、あまりにも無理をして、痛々しいような世話をしているのを見ると、そこまでして大木を守らないといけないのかなと思うんです。もっと自然のままにしておいて、寿命が来たらそれはそれでいいんじゃないかということをコラムとして書いたんです。でもかなり反発もありました。なにもいきなり切ってしまえという事を言っているのではなくて、自然に枯れるのを待ってもいいのではないかという提案なんですけどね。

田中淳夫さんのお話、いかがだったでしょうか。来週も引き続き田中さんのインタビューをお届けします。


「森は怪しいワンダーランド」新泉社 田中淳夫著

【今週の番組内でのオンエア曲】
・Everlasting Love / Jamie Cullum
・All You Had To Do Was Stay / Taylor Swift

パーソナリティ

高橋万里恵
高橋万里恵

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