- 2015.12.27
「屋敷林」のひみつ 1
今週は、帰省される方や、どこか田園風景のあるところへお出かけになる方が、見かけるかも知れない、ある風景に関するお話。
「屋敷林」です。

みなさんも、意識せずにきっと見たことがあると思います。田舎の、田んぼが広がる風景の中に、民家がぽつんぽつんとあって、その民家の背後に、まるでお家を守るように、こんもりした森があったりします。ちょっと、海に浮かぶ小さな島みたいにも見えますが、あれが、屋敷林です。
今回お話を伺ったのは、その屋敷林を研究している方。東北工業大学の講師で、工学博士の不破正仁さん。
不破さんの研究分野は、難しい言葉でいうと「農村の景観史」。農村の今の風景・景観が、かつてはどういう姿をしていたのか、それがどう変化していったのかを追いかける研究だそうです。
その研究の対象として、不破さんがずっと見続けているのが屋敷林なんです。
◆屋敷林とは
屋敷林というのは屋敷の敷地内にある樹木のことをいいます。私の研究の中で使っている定義としては、屋敷およびその周辺において、特定の機能を担うべく植えられた樹木とその集合体という風にしています。つまり屋敷林は敷地の中に勝手に生えてきたものではないということです。人が利用するために、利用したい場所に植えたということがあります。屋敷の中にある樹木で当時の生活や生業に密着した樹木資源であったということがいえると思います。
日本で最も有名な地域でいくと、島根県の斐川平野、富山県の砺波平野、そして宮城県の仙台平野。特にこの三地域は、平野部で、なおかつ農家がそれぞれ各々離れて立地しているので、一軒一軒が持っている屋敷林が比較的発達しています。それに残存度が高いので、その特徴が見えやすいということがあって、その三地域で調査を試みたんです。
仙台周辺では「いぐね」という呼び方をしていますが、その特徴はコの字型に樹木を配すことです。岩手や宮城の北西にある山から吹きおろしてくる季節風を防ぐために北西側に樹林帯を設けるということは各地で報告されていますけれども、東側にもあります。東側のものは、広葉樹のけやきなんかが多いということもわかってきました。これは、朝日を遮り過ぎない為にけやきが設けられるんですね。けやきは冬に葉が落ちますよね。ですので東から光が入ってきたときに邪魔をしない。冬の暖をとるための工夫だということがいえます。
屋敷林の機能の中で果樹採取、柿や栗なんかもありますし、大きな樹木は建材になってきました。また、杉や松なんかは落ち葉が良く燃えるので、薪として用いられたということがあります。あとは目隠しですね。生垣なんかもそのひとつに入ると思います。
あともう一つ屋敷の中で設けられる樹木は、杉などの針葉樹のほかに、クスノキや、地域によってはシイノキがあるんですけれども、これらの大きくなった樹木のそばには、祠(ほこら)が置いてあることがあるんですね。氏神様といったり、お稲荷さんといったりして、屋敷の神様「屋敷神」というものが置かれることがあります。私は大木と祠のセットと言ってるんですけども、そういったものも重要な機能で、そこにセットになった樹木は、いわゆるご神木として屋敷の中に存在している。
研究の中で、例えば仙台市では、伊達政宗が条例を出していて、その時に記録が残っているものとして「家に植えられている樹木をむやみに切ってはいけない。」というような条例がだされていたり、逆にそれを利用しなさいという推奨が出されていたして、江戸時代にはすでに屋敷林の存在が認められるような記述があったということがわかっています。山形県の米沢なんかにも同じような条例があって、各地にそういう条例があるというのはおもしろいなと思ってるんですが、そういったことから推定して、1600年代から屋敷林が家の中に設けられていたんじゃないかということが論じられています。
ということで、仙台平野の屋敷林、イグネ(居久根)は、民家の北側・西側・東側に植えられています。つまり門は南を向いています。
一方、富山の砺波平野の屋敷林は「かいにょ」と呼ばれるものです。垣根がなまって「かいにょ」といいますが、この地域は南側の山から吹き下ろす風と、西からの雨と雪を防ぐために、南側・西側に屋敷林があり、家は東向きになっています。
「屋敷神」というのもおもしろいですね。祠には、お稲荷さんがまつられることが多いのだそう。お稲荷さんは稲という字があるだけに、豊作や商売繁盛を願っているわけです。
さらに屋敷林には、こんな力もあることが分かってきています。
◆屋敷林は火事も防ぐ?
火事や火災を防ぐための樹木というのがあったと聞いています。特に埼玉県と茨城県に多いです。モチノキという樹木が火事を防ぐという言い伝えがある樹木で、これが実際に蔵のそばに設けられていたりするんです。蔵に入りやすいように、蔵の一階部分だけは葉っぱがないような状態で剪定されています。言い伝えでは、その樹木があったことによって延焼が防げたとか、樹木は燃えたけど蔵は助かったというような話を聞いています。
モチノキは常緑樹で、樹木内に水を多く含むっていうことがいわれています。モチノキの耐火性能なんかを調べてる研究者もいて、実際に他の樹木よりも燃えづらいという結果が出ているということもあります。
ちなみに屋敷林から採れる食べ物は、柿など実のなる木だけではありません。下草から、フキ・ミョウガ・三つ葉なども採れて、それをおひたしにするとか。
食べ物・燃料・冷暖房・家を建て直す木材。さらに季節を感じる役割。森自体が、生活に必要なモノ・エネルギーそのものになっているんですね。
この年末年始、地方へ出かける方は屋敷林、ぜひ観察してみてください。
年をまたいで来週も屋敷林のお話をお届けします!
【番組内でのオンエア曲】
・ADVENTURE OF A LIFETIME / Coldplay
・きらきら武士 feat.Deyonna / レキシ
「屋敷林」です。

みなさんも、意識せずにきっと見たことがあると思います。田舎の、田んぼが広がる風景の中に、民家がぽつんぽつんとあって、その民家の背後に、まるでお家を守るように、こんもりした森があったりします。ちょっと、海に浮かぶ小さな島みたいにも見えますが、あれが、屋敷林です。
今回お話を伺ったのは、その屋敷林を研究している方。東北工業大学の講師で、工学博士の不破正仁さん。
不破さんの研究分野は、難しい言葉でいうと「農村の景観史」。農村の今の風景・景観が、かつてはどういう姿をしていたのか、それがどう変化していったのかを追いかける研究だそうです。
その研究の対象として、不破さんがずっと見続けているのが屋敷林なんです。
◆屋敷林とは
屋敷林というのは屋敷の敷地内にある樹木のことをいいます。私の研究の中で使っている定義としては、屋敷およびその周辺において、特定の機能を担うべく植えられた樹木とその集合体という風にしています。つまり屋敷林は敷地の中に勝手に生えてきたものではないということです。人が利用するために、利用したい場所に植えたということがあります。屋敷の中にある樹木で当時の生活や生業に密着した樹木資源であったということがいえると思います。
日本で最も有名な地域でいくと、島根県の斐川平野、富山県の砺波平野、そして宮城県の仙台平野。特にこの三地域は、平野部で、なおかつ農家がそれぞれ各々離れて立地しているので、一軒一軒が持っている屋敷林が比較的発達しています。それに残存度が高いので、その特徴が見えやすいということがあって、その三地域で調査を試みたんです。
仙台周辺では「いぐね」という呼び方をしていますが、その特徴はコの字型に樹木を配すことです。岩手や宮城の北西にある山から吹きおろしてくる季節風を防ぐために北西側に樹林帯を設けるということは各地で報告されていますけれども、東側にもあります。東側のものは、広葉樹のけやきなんかが多いということもわかってきました。これは、朝日を遮り過ぎない為にけやきが設けられるんですね。けやきは冬に葉が落ちますよね。ですので東から光が入ってきたときに邪魔をしない。冬の暖をとるための工夫だということがいえます。
屋敷林の機能の中で果樹採取、柿や栗なんかもありますし、大きな樹木は建材になってきました。また、杉や松なんかは落ち葉が良く燃えるので、薪として用いられたということがあります。あとは目隠しですね。生垣なんかもそのひとつに入ると思います。
あともう一つ屋敷の中で設けられる樹木は、杉などの針葉樹のほかに、クスノキや、地域によってはシイノキがあるんですけれども、これらの大きくなった樹木のそばには、祠(ほこら)が置いてあることがあるんですね。氏神様といったり、お稲荷さんといったりして、屋敷の神様「屋敷神」というものが置かれることがあります。私は大木と祠のセットと言ってるんですけども、そういったものも重要な機能で、そこにセットになった樹木は、いわゆるご神木として屋敷の中に存在している。
研究の中で、例えば仙台市では、伊達政宗が条例を出していて、その時に記録が残っているものとして「家に植えられている樹木をむやみに切ってはいけない。」というような条例がだされていたり、逆にそれを利用しなさいという推奨が出されていたして、江戸時代にはすでに屋敷林の存在が認められるような記述があったということがわかっています。山形県の米沢なんかにも同じような条例があって、各地にそういう条例があるというのはおもしろいなと思ってるんですが、そういったことから推定して、1600年代から屋敷林が家の中に設けられていたんじゃないかということが論じられています。
ということで、仙台平野の屋敷林、イグネ(居久根)は、民家の北側・西側・東側に植えられています。つまり門は南を向いています。
一方、富山の砺波平野の屋敷林は「かいにょ」と呼ばれるものです。垣根がなまって「かいにょ」といいますが、この地域は南側の山から吹き下ろす風と、西からの雨と雪を防ぐために、南側・西側に屋敷林があり、家は東向きになっています。
「屋敷神」というのもおもしろいですね。祠には、お稲荷さんがまつられることが多いのだそう。お稲荷さんは稲という字があるだけに、豊作や商売繁盛を願っているわけです。
さらに屋敷林には、こんな力もあることが分かってきています。
◆屋敷林は火事も防ぐ?
火事や火災を防ぐための樹木というのがあったと聞いています。特に埼玉県と茨城県に多いです。モチノキという樹木が火事を防ぐという言い伝えがある樹木で、これが実際に蔵のそばに設けられていたりするんです。蔵に入りやすいように、蔵の一階部分だけは葉っぱがないような状態で剪定されています。言い伝えでは、その樹木があったことによって延焼が防げたとか、樹木は燃えたけど蔵は助かったというような話を聞いています。
モチノキは常緑樹で、樹木内に水を多く含むっていうことがいわれています。モチノキの耐火性能なんかを調べてる研究者もいて、実際に他の樹木よりも燃えづらいという結果が出ているということもあります。
ちなみに屋敷林から採れる食べ物は、柿など実のなる木だけではありません。下草から、フキ・ミョウガ・三つ葉なども採れて、それをおひたしにするとか。
食べ物・燃料・冷暖房・家を建て直す木材。さらに季節を感じる役割。森自体が、生活に必要なモノ・エネルギーそのものになっているんですね。
この年末年始、地方へ出かける方は屋敷林、ぜひ観察してみてください。
年をまたいで来週も屋敷林のお話をお届けします!
【番組内でのオンエア曲】
・ADVENTURE OF A LIFETIME / Coldplay
・きらきら武士 feat.Deyonna / レキシ