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Dream HEART vol.606 小説家 松永K三蔵さん 著書「バリ山行」

2024年11月09日

今週ゲストにお迎えしたのは、講談社より発売中の小説『バリ山行』で第171回芥川賞を受賞されました、松永K三蔵さんです。


松永さんは、1980年、茨城県のお生まれです。

関西学院大学文学部卒業後、2021年、第64回群像新人文学賞優秀作『カメオ』で、作家デビュー。

そして、2024年には『バリ山行』で、第171回芥川龍之介賞受賞されました。


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──登山以外にもバリエーションルートはある

茂木:この芥川賞受賞作『バリ山行』なんですけども、主人公が山登りを通じて人生を見つめ直すという山岳小説で、この「『バリ山行』の『バリ』とは?」というのを勘違いしている人が多いみたいですね。実は僕もそうでした。「バリバリ」の『バリ』なのかなと思ったんですが(笑)、ちょっと違うんですよね?

松永:そうですね。「バリ島」と思われたりする方もおられましたけれども。
山岳用語で「バリエーションルート」という言い方があるんですけれども、通常のよく使われるルート以外の道であったり、ほとんど道がないようなルートのことだったりするんです。中にはそういったバリエーションのことを『バリ』と言う方もいるので、それとこの「山を行く」という(「登山」を意味する)『山行』を組み合わせたタイトルになります。

茂木:へえ〜。
松永さんは現在、兵庫県西宮市にお住まいということで、今回の作品は、神戸の六甲山が舞台になっているということなんですね。普段から山に登ってらっしゃるんですか?

松永:そうですね。私が住んでいる場所も登山口が近くて、普段も犬の散歩でも登ったりしますし、日頃から登っています。

茂木:一方で登山のことを描きつつ、もう一方で高く評価されたのが、会社員生活を非常にリアルに書いている、と。このバランス、両方ある小説というのがなかなか魅力なんですよね。

松永:ありがとうございます。「山岳小説」という言い方もして頂けるんですけれども、一方で、山に登っていてもやっぱり仕事をしている方がほとんどだと思うんです。となると、本当に山に登っている時も山のことだけ考えていられるわけじゃない。やっぱり仕事のこと、生活のことが追いかけてくる、山にも付いてくる、というのは実際にあることだと思いますので、そういった意味で、そういうリアルを書きたいなと思いました。

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茂木:改めて、この『バリ山行』の『バリ』というのが「バリエーションルート」。これは、普通の人が行かないような道を行かれる、と。

松永:はい。よくメインで使う登山道の他に、「破線ルート」と呼ばれたりする難易度の高いルートであったり、場合によってはもう廃道になって使われなくなっているルートであったり。もっと言うと、もう道がないルートで行けそうなところを無理やり歩いていくようなことをする方もおられますので、そういったものを含めて、「バリエーション」と言ったりすることがあると思うんですけども。

茂木:これはご自身も仰っていますが、主人公の波多さんは、読者の共感を得るという意味でも「平凡な会社員」という設定なんですけど。バリ山行をやっている、この妻鹿さん、この人は変わっていますよね〜。

松永:(笑)。

茂木:この妻鹿さんが不思議過ぎて。実際にこういう人がいるんですか?

松永:よくモデルを聞かれたりするんですけれども、モデルがいるというわけじゃないんです。
ただ、多分誰しも、会社の中でもよく分からないような人がおられたりすると思うんですけれども、そういったちょっと突き抜けたようなものを持っているような人を考えながら、人物造形しました。

茂木:僕、何年か前に、探検家の方が「現代では探検が不可能になってしまった」と仰っていたのを聞いたんです。つまり、どこに行ってもGPSでルートとか分かってしまうから、というお話をされていて。
対して、今回の松永さんの『バリ山行』は、むしろ登山アプリでルートとかが分かっているんだけど、それでも現代においては、バリエーションルートというある種の冒険が成立する、という。ここがすごく批評的だなと思ったんですが。

松永:ありがとうございます。この舞台となっている六甲山という山も、街から本当にすぐ傍の山なんですよね。ですので、山から街も見えますし、山の上にもレストランがあったり、ホテルがあったり、何だったら、もう街の中なんですけれども。ただ一歩道を踏み外せば、本当に冒険になってしまうような、舞台です。

茂木:だから「登山」という意味でも、本当に行き慣れた道のすぐ横に実は未踏のところがあるし、「会社経営」とか「仕事」という意味でも、そこもまた読みどころなんですけど、会社の経営方針とか仕事のやり方について、やり慣れたやり方のすぐ横に実は荒野が広がっていると言うか。その辺りが非常にメッセージとして感じられました。

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松永:この小説には仕事のことも書いてあるんですけれども、実は会社経営でも正しいやり方というのはないと思うので、王道であったり、その逆を行くやり方であったり、会社の仕事のやり方の中でも色んな道があると思っています。そういった対比にも読めるのかな、とは思います。

茂木:ご自身もバリエーションルートに行くんですか?

松永:私は基本的にはメインの通りを歩くんですけど、たまに迷ってしまったりする時とかに、藪を掻き分けて戻ったりとか、そういうことはあります。

茂木:もし「山を登る」ということが一つのメタファーだとすると、人生でもやっぱりバリエーションルートというのはあるんですかね?

松永:僕はそう思っていますね。 皆さんそれぞれが考えられた、それぞれの正解という道があったり、人から「こうするのがいいんじゃないか」というような正解の道があったりすると思うんですけども。場合によっては、そういうところを外れてみて見えてくるものがあるんじゃないかな、というのは思いますね。

茂木:この小説は、トラブル、リストラなどなど、もう本当に会社員として経験するようなこともあって、そういうリアルなところもある一方で、六甲と言えば、これがエベレストとかではないんですよね。

松永:そうです(笑)。

茂木:本当にすぐ近くの中に、実はこんな不思議な世界がある、という。面白いですね。

松永:ありがとうございます。エベレストは、普通の方はなかなか行けないと思うんですけども、六甲山であったり、東京でしたら高尾山とか、誰しもが行ける、そして誰しも起こり得る物語なのかな、というのは思います。

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松永K三蔵さん 公式サイト


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松永K三蔵さん 公式 note


●「バリ山行」 / 松永K三蔵 (著)
(Amazon)


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