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Dream HEART vol.616 映画監督 吉田大八さん 映画「敵」

2025年01月18日

今夜ゲストにお迎えしたのは、映画『桐島、部活やめるってよ』の監督を務められました、映画監督の吉田大八さんです。

吉田監督は、1963年、鹿児島県のご出身です。

早稲田大学第一文学部をご卒業後、CMディレクターとして活動。
そして2007年に、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』で長編映画デビューし、第60回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待されました。

その後、実在の日本人結婚詐欺師を題材にした『クヒオ大佐』や、西原理恵子原作の『パーマネント野ばら』を監督され、2012年、4作目である『桐島、部活やめるってよ』で、第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞と、最優秀監督賞を受賞されていらっしゃいます。


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──読後感を頼りに書く

茂木:昨日から、テアトル新宿を始め全国で公開されています映画『敵』なんですけど、これはまず原作が、日本文学の巨匠、筒井康隆さんということで。こちらは構想何年ということになるんですか?

吉田:正直に言うと、読んだのは、自分が30代の頃なんです。30代の頃に読んで「あ、面白かったな」で1回終わってたんですけど、3〜4年前に読み直したんです。その時はもう自分も50代の終わりぐらいの年齢になっていて、全然違う読後感だったんですね。

茂木:改めて、今回の映画『敵』がどういうストーリーか、ちょっとご紹介します。
「穏やかな生活を送っていた、主人公である元大学教授が、『敵がやって来る』というメッセージをある日パソコンで受け取ったことで、ストーリーが展開していく…はたして“敵”とは一体なんなのか…。」ということなんですが。
僕がいつも吉田監督をすごいなと思うのは、『美しい星』もそうですけど、監督の脚本は、原作があってもある意味ではちょっと独自の構成になっていると言うか…今回の『敵』もそうだと思うんですけども。

吉田:自分の読後感というものがあるじゃないですか。だから原作というよりは、まず読後感を頼りに書くということが多いんですよね。読後感を頼りに、実際スクリーンに映される映画をイメージしつつ、両方を視界に入れながら書くので、もしかしたら、形としては原作と少し形が変わるところもあるんですけれども。
でもやっぱり、自分の読後感とそのフィニッシュの形をイメージできていれば、原作のスピリットみたいなものはそう大きくは外さないという根拠不明の自信みたいなものがあって。今のところそれでやってきていますね。

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茂木:今回の筒井康隆さんの『敵』では、読後感にあたるものというのは、どういうことだったんでしょうか?

吉田:最初に30代で読んだ時は、「『敵』という正体不明のものが突然現れて、生活を変えていく」という、ある種不条理なものとして楽しんだんですけど、今回はちょうどコロナ禍の状況で読んだということもあって、「まさにこれは、世界中の人が今主人公みたいだ」と。家から出れない、会いたい人に会えない、という状況の中で、あとはニュースで日々“死”というものが多く取り上げられるような状況で読んだこともあって、「まさに自分たちの物語だな」と言うか、「『敵』で書かれていたことに、不幸にして現実の方が追いついちゃったな」というような状況に感じました。もちろん結果的には映画自体とコロナとは無関係なんですけど、自分の中でそういうような響き方をしたんですよ。
もちろん自分自身が年を取って、「この先どうやって老いていくか」、「死というものに対して心の準備をしていくか」という段階に差し掛かったということもあり、そういう色んな自分のこと、社会のことを含めて、原作を読み直せたというのは、幸運なタイミングだったと思うんですよね。

茂木:そして今回、主人公の元大学教授を演じられたのが、俳優歴50年を迎えている長塚京三さんだったということで。素晴らしかったですね。

吉田:ありがとうございます。長塚さんは素晴らしかったですね。

茂木:この元大学教授は、フランス文学を専攻されているという設定なんですけど、振り返れば、長塚さんも俳優の人生をフランスで始められていた、と。そこの不思議な符合も、映画の魅力に何かを付け加えているのかな、と思いますが。

吉田:そうですね。長塚さんのことが昔から好きで「いつかご一緒したいな」と思っていたので、オファーした時点では、長塚さんがフランスにご縁がある人だというのはあんまり関係なかったんですけれども、「あ、そういえばフランスにいたんだよ」ということで、だからそれはラッキーでしたね。
やっぱりフランス文学の固有名詞を喋るにしても、フランス語の一節を喋るにしても、下地があるのとないのでは、表現として説得力がちょっと違うじゃないですか。そこは安心して長塚さんに委ねることができたと言うか、何なら脚本を読んでもらって「おかしいところはありませんか?」とチェックまでお願いしたりして(笑)。

茂木:(笑)。
それにしても、例えばリリー・フランキーさんが主演された『美しい星』なんかでは、どちらかと言うと質感的にも煌びやかなテレビの世界などを描かれていましたが、一方で、今回の作品はモノクロームの映像ということで。今回モノクロームを選択したのはどういうことなんでしょうか。

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吉田:主人公が日本家屋に住んでいるという設定だったので、「これまで映画というのは日本家屋をどういうふうに撮ってきたのかな?」というのを勉強しようと思って、脚本を書いた後で色々と観ていたんです。でもそういう映画は当然モノクロが多いんですよね。色んなものを観ているうちに、知らないうちに影響されたんです。影響されて、「でも、モノクロもいいんじゃないかな?」と思い始めたら止まらなくなって。
普通ならプロデューサーが止めるんですよ。 だけどプロデューサーが止めなかったんですよね。

茂木:止めなかったんですか(笑)。
だから、僕は騙されました。最初に始まった時は、小津のような静かな映像なのかなと思ったら…。まぁ吉田監督の映画がそれで済ますはずがないですもんね。途中から、現実と、幻想と、妄想と、不思議な映画になっていきますよね。

吉田:はい。それはもうある意味、原作の世界観なんです。
僕は筒井康隆先生の作品は、中学生の頃から皆さんと同じように愛読してきたので、言ってみれば、自分の体自体が筒井さんに育てられている感じがあったんです。だから思いっきりできましたね。思いっきりやっても、絶対筒井さんの作品の世界を壊すことはない、という。

茂木:確かに、筒井さんも何でもありですもんね。

吉田:そうですね。もう、僕なんかとは比べものにならないぐらい、自由奔放に何でもやってこられた方だから。

茂木:筒井さんはこの映画をご覧になったんですか?

吉田:ええ、観て頂きました。

茂木:何と仰っていましたか?

吉田:「傑作」と仰っていました。もう本当に嬉しかったですね(笑)。

茂木:原作者でもあるので。吉田監督の脚本というのは、ある意味ではそれをちょっと自由にアレンジされますよね。例えば1つだけ言うと、“双眼鏡”というものが非常に重要な役割をしますけど、それも原作とはちょっと違うと言うか。

吉田:ちょっと違う。発展させてはいますね。

茂木:その辺りはどう仰っていたんですか?

吉田:細かいところはあんまり仰っていなかったんです。でも、この間ちょっとお目にかかったんですけど、ずっと筒井先生は「この『敵』という小説は絶対に映像化には向かないと思っていた」と。「こんな日常の細々したことを描写するなんて、そんな映画は見たくないだろう」と思っていたそうなんですけど、映画をご覧になって、「あ、実はすごく映画化に向いていたんだ」と仰って頂いて、すごく嬉しかったですね。

茂木:最高の褒め言葉になりましたね。

吉田:本当にそうです(笑)。

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『敵』
1月17日(金)テアトル新宿ほか全国公開
ⓒ1998 筒井康隆/新潮社 ⓒ2023 TEKINOMIKATA
宣伝・配給:ハピネットファントム・スタジオ/ギークピクチュアズ


映画『敵』公式 (@teki_movie) / (旧Twitter)公式アカウント


映画『敵』オフィシャルサイト


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