2024年12月07日
今週ゲストにお迎えしたのは、作家の朝井リョウさんです。
朝井さんは、1989年、岐阜県のお生まれです。
早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で、第22回小説すばる新人賞を受賞しデビューされました。
2013年には『何者』で第148回直木賞を、2014年には『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を、2021年には『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞されていらっしゃいます。
──自分の中のルールを撤廃した小説
茂木:今回、小学館から発売中の新作『生殖記』なんですけれども、実はこちら、ネタバレ禁止でございます。
朝井:すみません。
茂木:ただですね、小学館の方から公表されているプロフィールがあるんですね。ちょっとその全文を読ませて頂きます。
『とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と二個体で新宿の量販店に来ています。体組成計を買うため――ではなく、寿命を効率よく消費するために。この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です。』と。
朝井:このあらすじにはほとんど何の情報もないですよね。
茂木:僕、冒頭のこの入りから、連れていかれる世界が凄すぎて…。
朝井:嬉しいです!
あらすじに内容の情報はないんですけど、「ヒトのオス個体に宿る」であったり、人に対してどういう呼称で表現しているか、というところで、読者の方々には何か違和感を持って頂けるといいな、と思っています。
茂木:そして、前から使っているモチーフだと思うんですけど、世の中で「上手くいっている」とされている価値観に対する距離感と言うか、それが非常に心に響いていて。
朝井:ありがとうございます。
今回は特に、どういうことに対するどんな距離感なのかということを本の外側には出さないように気をつけています。というのも、どういうトピックスを扱っているのかと隠して「物語だよ」という状態で世の中に差し出せるのが、小説の持つ1つの力だと感じているからです。「このトピックスについて書いてますよ」と明かすと、元々そのトピックスに興味があった方や、その情報を知りたかった方は手に取ってくださるかもしれないですが、そうじゃない方々にとっては「自分とは関係ないな」とか「じゃあ今自分は読まなくていいかな」というふうに簡単に避けられてしまうかな、とも思っていて。だけど、そういう人にこそ届くというのが私の理想なんですよね。
なので今回は、どんな人が中心人物なのかとか、どういう物差しが語りの基準になっているかということは明かさずに、「物語を書きました」というだけでどこまで遠くに伝えられるかな、と思っています。
茂木:目指されているところが非常にストイックと言うか、文学におけるアスリートと言うか…。これも小学館のホームページにある、朝井リョウさんご自身の言葉なんですが、『自分の中にあるルールを全て撤廃して書きました。』と。
朝井:そうですね。
茂木:これはどういうことですか?
朝井:まず、私はいわゆるエンターテイメントの小説の賞でデビューしたんですね。
茂木:小説すばる新人賞ですもんね。
朝井:そうなんです。エンタメ小説の賞でデビューしたということもあって、割とずっと「エンターテイメントをきちんと書ける人になろう」という気持ちが強かったんです。
茂木:そうだったんですね。
朝井:はい。勝手に、「どこでデビューしたか」を考えすぎてしまって。特に、2013年に直木賞を頂いたこともあって、「エンタメをちゃんと書ける人にならないと」と気負っていました。
その状態で10年以上書いていたのですが、今回の『生殖記』を連載するにあたって、そういう縛りを全部なくしてみたくなったんです。連載だと「続きが気になる」とか「色んな展開が巻き起こって、あっという間に読めてしまう」というものが適していると思います。ただ今回は、物語としては読みづらい形式でも、定めた語り手の設定で湧き出てくる言葉をひたすら詰め込むという方針でやってみたかった。自分で勝手に構築しまくっていたルールを全部破らないと次にいけないというか、そういう時期だったんだと思います。それが『自分の中にあるルールを全て撤廃して書きました。』に繋がっています。
茂木:朝井さんがあるインタビューの中で、「『ボタンが取れちゃった』みたいな小さなことから書く小説」ということを仰っていたんですが、今回、僕が細部ですごく好きなのが、牛タンなんです(笑)。
朝井:意外です! 出てきますね。
茂木:あの牛タン、美味しそうですよね(笑)。
朝井:(笑)。牛タンの描写に注目いただいてすごく嬉しいです。
茂木:ね。あの牛タンは何なんですかね?
朝井:「牛タン」って、ただの食べ物というよりは、その単語から連想されるものがある程度共通して存在するというか、現代日本人にとってある種の共通言語みたいなものだと思うんです。私自身も楽しみながら書いたシーンだったので、今言及して頂いてすごく嬉しいですね。
茂木:この『生殖記』をこれから読むという読者の方に、是非メッセージをお願いできますでしょうか?
朝井:きっと、この本がすごくしっくりくるという方も、実は少なからずいらっしゃるのではないかと思っています。読んでくださった方は、「自分にとってどうだったか」ということを、是非何かしらの形で私に伝えて頂けたら嬉しいです。
●朝井リョウ(@asai__ryo)さん / X(旧Twitter)公式アカウント
●「生殖記」 / 朝井リョウ(著)
(Amazon)
●小学館『生殖記』特設サイト
↑特設サイトでは、冒頭の試し読みが出来ます!
気になった方は、是非、チェックしてください!
朝井さんは、1989年、岐阜県のお生まれです。
早稲田大学在学中の2009年、『桐島、部活やめるってよ』で、第22回小説すばる新人賞を受賞しデビューされました。
2013年には『何者』で第148回直木賞を、2014年には『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を、2021年には『正欲』で第34回柴田錬三郎賞を受賞されていらっしゃいます。
──自分の中のルールを撤廃した小説
茂木:今回、小学館から発売中の新作『生殖記』なんですけれども、実はこちら、ネタバレ禁止でございます。
朝井:すみません。
茂木:ただですね、小学館の方から公表されているプロフィールがあるんですね。ちょっとその全文を読ませて頂きます。
『とある家電メーカー総務部勤務の尚成は、同僚と二個体で新宿の量販店に来ています。体組成計を買うため――ではなく、寿命を効率よく消費するために。この本は、そんなヒトのオス個体に宿る◯◯目線の、おそらく誰も読んだことのない文字列の集積です。』と。
朝井:このあらすじにはほとんど何の情報もないですよね。
茂木:僕、冒頭のこの入りから、連れていかれる世界が凄すぎて…。
朝井:嬉しいです!
あらすじに内容の情報はないんですけど、「ヒトのオス個体に宿る」であったり、人に対してどういう呼称で表現しているか、というところで、読者の方々には何か違和感を持って頂けるといいな、と思っています。
茂木:そして、前から使っているモチーフだと思うんですけど、世の中で「上手くいっている」とされている価値観に対する距離感と言うか、それが非常に心に響いていて。
朝井:ありがとうございます。
今回は特に、どういうことに対するどんな距離感なのかということを本の外側には出さないように気をつけています。というのも、どういうトピックスを扱っているのかと隠して「物語だよ」という状態で世の中に差し出せるのが、小説の持つ1つの力だと感じているからです。「このトピックスについて書いてますよ」と明かすと、元々そのトピックスに興味があった方や、その情報を知りたかった方は手に取ってくださるかもしれないですが、そうじゃない方々にとっては「自分とは関係ないな」とか「じゃあ今自分は読まなくていいかな」というふうに簡単に避けられてしまうかな、とも思っていて。だけど、そういう人にこそ届くというのが私の理想なんですよね。
なので今回は、どんな人が中心人物なのかとか、どういう物差しが語りの基準になっているかということは明かさずに、「物語を書きました」というだけでどこまで遠くに伝えられるかな、と思っています。
茂木:目指されているところが非常にストイックと言うか、文学におけるアスリートと言うか…。これも小学館のホームページにある、朝井リョウさんご自身の言葉なんですが、『自分の中にあるルールを全て撤廃して書きました。』と。
朝井:そうですね。
茂木:これはどういうことですか?
朝井:まず、私はいわゆるエンターテイメントの小説の賞でデビューしたんですね。
茂木:小説すばる新人賞ですもんね。
朝井:そうなんです。エンタメ小説の賞でデビューしたということもあって、割とずっと「エンターテイメントをきちんと書ける人になろう」という気持ちが強かったんです。
茂木:そうだったんですね。
朝井:はい。勝手に、「どこでデビューしたか」を考えすぎてしまって。特に、2013年に直木賞を頂いたこともあって、「エンタメをちゃんと書ける人にならないと」と気負っていました。
その状態で10年以上書いていたのですが、今回の『生殖記』を連載するにあたって、そういう縛りを全部なくしてみたくなったんです。連載だと「続きが気になる」とか「色んな展開が巻き起こって、あっという間に読めてしまう」というものが適していると思います。ただ今回は、物語としては読みづらい形式でも、定めた語り手の設定で湧き出てくる言葉をひたすら詰め込むという方針でやってみたかった。自分で勝手に構築しまくっていたルールを全部破らないと次にいけないというか、そういう時期だったんだと思います。それが『自分の中にあるルールを全て撤廃して書きました。』に繋がっています。
茂木:朝井さんがあるインタビューの中で、「『ボタンが取れちゃった』みたいな小さなことから書く小説」ということを仰っていたんですが、今回、僕が細部ですごく好きなのが、牛タンなんです(笑)。
朝井:意外です! 出てきますね。
茂木:あの牛タン、美味しそうですよね(笑)。
朝井:(笑)。牛タンの描写に注目いただいてすごく嬉しいです。
茂木:ね。あの牛タンは何なんですかね?
朝井:「牛タン」って、ただの食べ物というよりは、その単語から連想されるものがある程度共通して存在するというか、現代日本人にとってある種の共通言語みたいなものだと思うんです。私自身も楽しみながら書いたシーンだったので、今言及して頂いてすごく嬉しいですね。
茂木:この『生殖記』をこれから読むという読者の方に、是非メッセージをお願いできますでしょうか?
朝井:きっと、この本がすごくしっくりくるという方も、実は少なからずいらっしゃるのではないかと思っています。読んでくださった方は、「自分にとってどうだったか」ということを、是非何かしらの形で私に伝えて頂けたら嬉しいです。
●朝井リョウ(@asai__ryo)さん / X(旧Twitter)公式アカウント
●「生殖記」 / 朝井リョウ(著)
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●小学館『生殖記』特設サイト
↑特設サイトでは、冒頭の試し読みが出来ます!
気になった方は、是非、チェックしてください!