人付き合いの極意

吉本ばなな(作家)×猫沢エミ(ミュージシャン、文筆家)

2024

01.12

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小説『はーばーらいと』に込めた思い



吉本さんは、エッセイや対談集なども多数発表していますが完全書き下ろし小説としての最新刊『はーばーらいと』は、近年、ニュースなどでも取り上げられている「宗教2世」がテーマとなっています。

猫沢
ばななさんの最新の『はーばーらいと』を拝見させていただきました。これを読んだときも私の知っているばななさんだとすごく思ったんですよね。そして、やっぱりすごい瑞々しい。言葉と言葉の間に水とか空気とかそういうものがいっぱい含まれていて、読んでいるとそこの世界にふっと行く感じがあるんですけど、ばななさんのいいところは、読者を無理矢理そこに連れて行く感じはないんですよね。ふっとそこにあって、ふっと別の世界に行っていた感じがあって、今回は宗教2世というテーマとしてはかなり重いものですよね。

吉本
取材は重かったですね。

猫沢
実際に宗教2世として生きてらっしゃる方にお話を聞いたのですか?

吉本
そうですね。本も資料もたくさん読んだし、大変なことだなと思いました。

猫沢
うちの親たちは自分たちがやっていることが1個も悪くないと思っていたんですよね。その1個も悪くない貫きが、すごかったからこそ、こちらも本気で、欠片も悪いと思ってないんだったら、こっちも退治するしかないみたいな、腹が据わったところがあったんですけど、同じく『はーばーらいと』に出てくる宗教にはまったご両親はそれが1個も悪いと思ってなくて、むしろ、子供にそういうことだよって、よかれのエネルギーに対抗するのはやっぱりすごく大変なことだろうなと感じました。

吉本
私も書いていてそう思いましたね。

猫沢
この小説でばななさんは、どんなことが一番言いたかったんですか?

吉本
何か思想が一つであれば、赤の他人でも救うことができる。この状況が起きたら初恋の子に連絡して「助けて」とか言われたものの、その子にはもう彼女がいて、田舎町のヤンキーで、そんなもう知らないよって終わってしまうというのが一般的な状況だけど何か思想的なものが一つあれば、恋愛でなかろうが、人が人を助けるのもあるというのが一番言いたかったことです。

猫沢
主人公が2人、つばさくんと、ひばりちゃんで、そのひばりちゃんの両親が新興宗教に入って、でも結局、血の繋がりが全くないけど、すごく縁が強いつばさくんの一家が、ひばりちゃんを最終的には、脱会させるという。

吉本
引き取るというか、またこの宗教が黎明期だからね、安定して、組織として決まり事もあって、今盛り上がっていくときだから、2代目3代目ができるといいね、みたいな時代だから、ますますややこしいんですよね。

猫沢
もちろん信じている方には、その宗教が必要だったり

吉本
もっと大きくなっていくだろうと信じているわけだから、そのエネルギーは強いですよね。

猫沢
純粋がゆえに、そこにはまらない人を深く傷つけるというのかな。そういう世界があるんだなということと、これを読んですごく良かったのはみかん様という教祖様が出てくるんだけれど、その人は普通のすごくいいおじさん。

吉本
そんなに悪気はない。

猫沢
ただその周りの人たちが何か違う形にしてしまって、もしかしたらそれは本当に、新興宗教に共通したような…。

吉本
何でもグループはそうじゃないですか。

猫沢
集団化したときにおかしくなる。

吉本
多少、暗黙のルールが出てきたあたりでそういう、取り巻きができた途端に、何かが起こりますよね。排除もするし、傷も付け合うし。


人数の知恵



50代を迎え、友人との会合や集まり方のスタイルにも変化が生まれてきたそうです。

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猫沢
特に「個」が、元々はっきりしていない日本においては、一つの理想を掲げて、そこに集団化したときに、ピュアで真面目が故にちょっと行き過ぎる傾向であると思います。

吉本
あると思います。小さいグループでも思いますね。日本人の作っているグループは本当に風通しが悪くなることが多いな。

猫沢
ありますね。一対一で会っているときはすごく好きだけど、集団で会うと違うと感じることがあるので、私は、一対一で会うのがすごく好きだったんですね。日本にいるときも基本サシ飲みが好き。この人1人だったらすごくいいんだけど、私がよく知らない周りの人たちとみんなで会ったりすると、明らかにそうでない人になって、来ている人たちに合わせて、スライムのように形を変えるっていうのかな。

吉本
そういうのはありますよね。私もそういうのはあんまりできないから。でも最近、還暦に近づいて、ますます思うんだけど、本当に困った人に関してはみんなで分け持つのがいいの。人数の知恵はある。何でもかんでも大変な人のことはみんなで面倒見た方がいい。1人が引き受けるべきではないな。結構1人で抱える人が多いから、サシ飲みの発展系がそこになる可能性がゼロではない。だからそこは、散らした方がいいなと最近、思うようになって、私も会話としてはサシ飲みが一番好きだけど、あと5人以上いるとよく耳が聞こえないというか、何を言っているのかわかんなくなっちゃって。だからなるべく5人以上の宴会に行かないようにしているんだけど。

猫沢
なるほど新しい人との付き合い方だな。

吉本
サシ飲みの方が、確かに、その人の考えを聞きやすいんだけど、よく考えてみたらそんなことで変わるぐらいの話をサシで聞いでもしょうがないね。そんなことを私も最近、悟った。

猫沢
エネルギーいるしね。

吉本
みんなでいるときは言えないけどあなたには言える系の話になっていって、どんどん重みが増していくから。

猫沢
だんだんそういうふうになってくのか。


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*吉本さんの小説『はーばーらいと』は、晶文社より発売中です。


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