このタイミングでの出会い
吉本ばなな(作家)×猫沢エミ(ミュージシャン、文筆家)
2023
12.22
吉本さんは、大学卒業直後に『キッチン』で鮮烈なデビューを果たして以来、数々のベストセラーを生み出し、その著書は、世界30カ国以上で翻訳・出版されています。一方、猫沢さんは、90年代にミュージシャンとしてデビュー。30代で一度パリに移住した後、2022年に50歳で2度目のパリ移住を決行。現在、パリでの暮らしや、家族、愛猫のことをつづったエッセイや料理レシピエッセイなどを発表しています。
作品から“夜”を感じる
- 猫沢
- こんにちは。
- 吉本
- こんにちは。お久しぶりです。
- 猫沢
- お久しぶりです。今年の2月、日本に来たときに初めてお会いしたんですよね。
- 吉本
- そうですね。
- 猫沢
- 私は、福島県の田舎で普通の女子高生をしているときに『キッチン』を読み、そして、その後『うたかた/サンクチュアリ』と『白河夜船』とか、一連の作品を読んだんですけど、当時すごい記憶にあるのが、私が、高校生のまだちょっと言葉にならないような気持ちを感覚的に代弁してくれる作家さんに出会えたこと、そして、仲の良かった親友の女の子に、『キッチン』を勧めたんですよ。そして、彼女も読んで、「言っていたことがわかる」と言って、それからずっと2人で読んでいました。
- 吉本
- ちゃんと貢献できていてよかったです。
- 猫沢
- それまでは、夏休みに作文を書くために、漱石を読んだり、一般的に勧められて、読むことが多かった中で、初めて本当に心にぱっとコンタクトした作家さんが吉本ばななさんでした。あの時代の小説を読むと昼間よりかは夜をすごく感じるものが多い印象があったんですけど、最近のばななさんのエッセイ『私と街たち(ほぼ自伝)』を読んで、やっぱり何となく夜を感じるというか。
- 吉本
- 早起きじゃないからかな。
- 猫沢
- そういうこと?!
- 吉本
- 私の人生には朝のシーンが少ないですよ。
- 猫沢
- この世とあの世の境目的な感覚であるとか、そういったスピリットは昔から一読者として読んでいると、バックの風景は変わっていない感じがしますね。
- 吉本
- そうですね。これは、文芸誌で連載したから、ちょっと文体が小説よりなんですよね。それもまた関係があるかもしれない。
- 猫沢
- エッセイだけれど出てくる方は、いろいろですよね。
- 吉本
- そうなんだけど、同窓会に行ったら初恋の人がそれを読んでいて、絶対にわかりはしないと思っていたのに!
- 猫沢
- ちょっと小っ恥ずかしかったんですか。
- 吉本
- 小っ恥ずかしいを超えていましたよね。奴らは全員、読まないんですよ。だって、つい最近「吉本って吉本ばななだったんだ」と知った人が結構大勢いて、
- 猫沢
- 意外とそういうものかも。私がデビューしたときに、うちのおばあちゃんが安室奈美恵さんのCDを買ってきて、「安室奈美恵と猫沢エミは、違うから」と言ったら「へえ」と言っていたので、
- 吉本
- でも大体同じですよ。
- 猫沢
- あんな可愛くて大スターの人とどこをどうしたら間違えるのか。
- 吉本
- そのままでいてもらった方がいいこともあったんじゃないですか。
出会いは、自然とやってくる
- 吉本
- 私、猫沢さんの本を前から持っていて、私のまわりの人がみんな猫沢さんの話をするから、元々友達だったんじゃないかぐらいの気持ちになっていました。
- 猫沢
- 共通の友達は本当に多くて、だけどなぜか会うことが今までなく、そして今年初めて会ったとき、やっぱりもう会っている感がちょっとあったりして、でも縁のある人は、そんなところがあったりしますよね。
- 吉本
- 私、友達が長くパリに住んでいたからその関連も絶対にあるだろうな。あと80年代業界の繋がり、音楽もあるだろうなと思いながら、暮らしてきました。
- 猫沢
- 私がデビューしたのは、1996年で渋谷系の後期な感じだったんですけど、あの時代に出たいろんなジャンルの人たちは、そのジャンルを超えて同じような繋がりができていたような気がするんですよね。その感覚ゆえに今回、私とばななさんが今年の頭に会ったように、このタイミングで会えたみたいな人が何人かいて面白いなと思います。
- 吉本
- 私もちょっとアングラ寄りの世界にいたから。
- 猫沢
- アバンギャルドな?
- 吉本
- 演劇寄りって言うのかな?
- 猫沢
- 昭和的な?寺山修司さんとかそこまでじゃない?
- 吉本
- でも若干寄っている。小沢健二くんとは会っていたけど。
- 猫沢
- でもアングラじゃないところもさりげなく繋がっていると思います。
- 吉本
- その辺の人間関係は繋がってそうだなというのは本を読みながらも思っていました。
- 猫沢
- その時代から、チャンスがあったら会えたのかもしれないけど、人との出会いは、早く会えばいいというものでもないような気がしていて、必ず何か自然な今だっていうタイミングって、どの出会いにもある気がするんです。
- 吉本
- そうですね。そういう意味では今だったのかもしれないですね。
- 猫沢
- 今年の頭にお会いしたときに、高校生のときにすごく好きだった作家さんにその数年後に会ったらめちゃくちゃ嬉しかったかもしれないけど、お友達にはなれてないかも。ちゃんと2人が同じ目線になるときに出会いって自然にやってくるのかなみたいな。だから私、すごく紹介されるのが苦手なんですね。よく「エミちゃんに合うと思うから紹介するよ」と言われるけど。
- 吉本
- 90%外れますよね。
- 猫沢
- その「合うと思うから」という感覚は、その方が私を見て判断するんだけど、出会いは、動物的なもので、遠くにいても呼び合うじゃないですけど、自然に出会った人たちは、ちゃんといい距離感があって、お膳立てされて人に会ったりすると、1回で終わることがとても多い。
- 吉本
- 終わればいいんだけどそうじゃないときもあるしね。ものすごく面倒くさいことになるときもあるし。なかなか人間関係は難しいですよね。
*猫沢さんの著書「猫沢家の一族」は、集英社から発売されています。