「読むこと」、そして、「書くこと」
南沢奈央(俳優)×立川談春(落語家)
2023
12.15
読み手のテンポを制御する
- 立川
- 書評を頼まれるぐらい本は、読んでたでしょ?
- 南沢
- 本はすごく好きで、
- 立川
- 読むことで何が楽しかったの?
- 南沢
- 読むことは、想像の世界に行って、ちょっと現実から離れることができる、知らない世界を知られる、自分と向き合える時間になっている。
- 立川
- 良かった。最後、南沢奈央はこういう人という一言が出てきましたね。今度、書くことを経験しました。僕がものを書いたときに、とにかく驚いたのは、体力勝負だってこと。書く行為を続ける体力は、喋る体力とは違って、とにかく体力が要ると思ったんですけどどうでしたか?
- 南沢
- いやもちろん体力もいりますし、書き終わるとどっと疲れるんですよね。でも、やっぱり書くこともちょっと自分と向き合うことだなって、書きながら私は思うんですよ。
- 立川
- 成長しているのよ。
- 南沢
- 談春さんは、落語のこと、修行時代のことを書かれて、落語生活の見え方とか変わったりしました?
- 立川
- 書くことも演じることも、結局、何をやっていても落語のこと考えている。僕が打っている句読点は、ここでブレスしてくださいという読み手のテンポの制御。
- 南沢
- なるほどテンポを作りたいということですよね。
- 立川
- 申し訳ないけど指示。そうすると、私が思っている絵らしきものがおそらく伝わりやすくなると思います。
- 南沢
- 書いたときは、声に出したりとかしないんですか?
- 立川
- しない。だって落語の稽古で、声に出せないときあるでしょ、頭の中でできる。
- 南沢
- 談春さんの文章を読んでいると、流れるように読んでいけます。
- 立川
- それはなぜかと言うと、どうしても師匠にものまねでいいから覚えて来いと言われ覚えることはできたんだけど、自分でテープを録って、自分のを聞くと似ていないのよ。本当は似ているんだよ。だけど似ていないというチェックが異常に敏感だった。これは似ていない。似てはいるけどコピーではない。コピーはどうすればいいんだろうって本当に考えたときに、「あ、ブレスを真似しればいいんだ」と思ったの。ブレスを真似すると似てくるの。
- 南沢
- すごく演劇的な感じしますけどね。
- 立川
- それをあの本に取り入れた。どこでお客さんにブレスしてもらおうか。だから読みやすくなったのかどうかわからないけど、ちょっと矛盾しているけど、俺の本は俺が喋っていると想像してくれると聞きやすい。本当に傲慢ですが、指揮して、棒を振っているのは私です。だからスコア通りにブレスして、スコア通りに休符して、みたいなところまでいってくれたら嬉しいなと思ったけど、そのときにはもう書かなくなっていたね(笑)
舞台とは
- 立川
- 私、毎年恒例で、12月28日に大阪フェスティバルホールで独演会をします。大きいですし、あまりにも素晴らしいホールなので、落語ではやらなかったんですけど、私が14、15年前に貸してもらってから年に、1日、12月28日に恒例で「芝浜」という古典落語をやる会を開催してきましたが、去年からその「芝浜」が変わって。
- 南沢
- そうでしたね。
- 立川
- びっくりするぐらい変えちゃってさ。
- 南沢
- 何があったんですか?
- 立川
- 観客は判断できないぐらい唖然としていた。俺もあの日に良いとか悪いとか言われても受け止める心の強さはなかったけど、そんな「芝浜」を今年もお届けします。
そして、私は、芸歴40周年なので来年は、東京で、1月から、月2回、第2第4土曜日に3席やるんだけど、そのうち1席は数のうちに入れず、2席ずつで10月までやるから20回で40席。40周年で40席。臆面もなく言えばベスト盤を行います。
- 南沢
- チェックします。行かせていただきます。私は2024年3月に世田谷パブリックシアターで『メディア/イアソン』というギリシャ悲劇をやります。井上芳雄さんとダブル主演でギリシャ悲劇のヒロインの代名詞みたいなメディアという役やるんですけど、復讐に燃えて自分の子供を殺してしまうという話が残っていて、それをちょっと新たにその2人のメディアとその相手のイアソンという2人の恋物語や出会いも描いていきます。
- 立川
- 闇ではないんだけど、とても熱いものを持っている女優さんだから、徹底的な悪女とかやったら面白いと思うんだけどね。
- 南沢
- 今回はそういう面も出るのか?
- 立川
- あるのかどうかわからないけど呼び起こせているよね。役者を続けていく中で、だから、本当にみんなに見せてない部分が多いよね。
- 南沢
- めちゃくちゃあると思います。
- 立川
- 1枚1枚、南沢奈央の心のひだをめくるような演出家はいませんかね。
- 南沢
- 次にご一緒する森新太郎さんは、「ハムレット」の演出家さんでもあって、もう、皮むいてくれたというか、多分新しい挑戦になると思うので、見に来ていただきたいです。
- 立川
- 挑戦だよね、いくつになってもね。
*南沢さんのエッセイ集『今日も寄席に行きたくなって』は、新潮社より発売中です。