落語に救われた

南沢奈央(俳優)×立川談春(落語家)

2023

11.24

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南沢さんは、2006年に俳優活動をスタート。2008年、映画と連続ドラマの連動企画で話題になった「赤い糸」で注目を集め、その後も大河ドラマを始め、数多くのドラマ、映画、舞台に出演。また、執筆や書評などでも活躍されています。

一方、17歳で立川談志さんに入門された談春さん。2008年に発表したエッセイ「赤めだか」が、講談社エッセイ賞を受賞し、ドラマ化もされ話題となりました。「今、最もチケットが取れない落語家」と評されると同時にバラエティーやドラマにも出演され、その演技力で視聴者を魅了しています。

大の落語好きとして知られる南沢さん。この度、初めてのエッセイ集『今日も寄席に行きたくなって』を発売。そのエッセイの中でも談春さんについて触れられているのですが世代も違うお二人、落語を通して、親交を深めていきました。

落語との出会い



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立川
こんにちは、落語家の立川談春でございます。

南沢
俳優をやっております南沢奈央です。

立川
出会ってもう10年。

南沢
私がもともと談春さんのファンで、

立川
生やさしいファンじゃないんだ。初めて会った時は、いくつだっけ?

南沢
21〜22歳ぐらいだったと思うんですよ。

立川
そのときは世渡りの上手な子だなと思って、でも後に考えたら、そんな世渡りをできるような子じゃない。

南沢
おかげさまで仲良くさせていただいて、20歳ぐらいのときかな、談春さんが出された「赤めだか」を拝読しまして、元々、落語自体は高校1年生ぐらいから好きで聴いていたんですけど、談春さんの落語を聴いてみたいと思って、いろいろ調べたけど全然チケットが取れなくて、やっと見に行った独演会でめちゃくちゃ衝撃を受けました。

立川
私『今日も寄席に行きたくなって』を読ましていただきました。

南沢
ありがとうございます。

立川
芸能界にスカウトされる前から落語を聴いていたのね?

南沢
そもそも人見知りで、そんなに人付き合いが得意ではなかった時に、佐藤多佳子さんの「しゃべれどもしゃべれども」を読んで、落語に触れたら自分も変われるかもと思って、すごく共感してそこから聴き始めました。

立川
そしたら当初の自分のコンプレックスを克服しようなんていうのを忘れさせてもらえるぐらい、落語も面白かったけど、あなたからすると落語を喋っている場所、いわゆる寄席の空間が良かったんでしょ?

南沢
そうなんですよ。

立川
不思議だよね、あの怠惰な空間が。

南沢
年齢、性別とか、何も関係なくいろんな人が集まってきて、ただただ、同じものを聴いて笑っている。笑いに来ているなんて幸せな空間だなと思って。

立川
楽なんだね。毎日、生きていたあなたは、いつもちょっとどっか堅苦しいなと思っているんだね。

南沢
そうですね。落語を聴く時間だけは何も力を入れずに、ただ楽しめる場所。

立川
あなたは寄席に行って落語を聴いた方がいい。間違いなく救いになっている。私40年近く、落語家をやっていますけど、そういう人に会うのは稀有です。普通は寄席に行って落語を聴いているうちにみんな無気力、無生産になってくる。生きるってこんな感じでいいんだなっていう意味では救いなんでしょ。でも、実社会に復帰することが難しくなっていく。それを中毒症状と言って、そこにものすごくいい部分があるんですよ。私だってそれで学校を辞めて落語家になっちゃうぐらいだから。


落語の稽古



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落語との運命的な出会いを果たし、落語にハマっていった南沢さん。好きが高じて、実際に高座に上がって、落語を披露されたこともあるんです。

南沢
私が落語を大好きになった大きな要因としては談春さんの落語があったので、

立川
それで落語をやるって言うから。

南沢
2回ほど落語をやらせて頂いたんですけど、2回目の時は、談春師匠に稽古をつけてもらって

立川
じゃあチェックしてやろうなんてね、偉そうなことを言って、キョトンとしていたよね。

南沢
私が思っていた稽古と違って

立川
役者さんだからこういう稽古の方がいいと思ったんだけど、ものすごく真面目な人だから、落語家の稽古だと思ってね。俺、刺されるのかみたいな顔をして、眦を決して、唇をかみしめ、正座をして、3〜4時間正座する覚悟で座っていたよね。僕は緩めようと思って3秒後に「足を崩せ」と言ったけど、

南沢
いや嘘だ、ひっかけだと思って。そこで崩したら、怒られるぞ。そのぐらい本当に緊張していたんですよ。お芝居の世界で1対1で誰かに見てもらうとかないので。

立川
「厩火事」という夫婦の話、20分か25分くらいある話で、「なんでこの話しをやりたいの?」と言ったら、キョトンじゃなくて唖然としたよね。

南沢
本当に面接が始まったと思って。

立川
圧迫面接が始まったぞ。

南沢
私がお崎さんという登場人物が好きで

立川
その話は、『今日も寄席に行きたくなって』に書いてあるんだけど、エッセイの題材が落語だもん。

南沢
何かを伝えるには熱量だと思うので、落語に関しては熱量を込めて書けると思って。

立川
熱量だね、情熱だね、もっというと誠だよね。落語大好きと伝わってくるし、愛しているよね。

南沢
愛していますね。私は、本がきっかけで落語を好きになって16〜17年ですかね。『今日も寄席に行きたくなって』がきっかけで、また、落語に出会う人がいたらいいなと思うんですよね。

立川
心の底からそう思っているという表情で今言っている。きちんとちゃんと心の底から言えるっていうね。俺もそういう青春が送りたかったね。どうひねくれるかが勝負みたいな、そういうことを師匠から教わったと錯覚をしているから。


*南沢さんのエッセイ集『今日も寄席に行きたくなって』は、新潮社より発売中です。


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