暮らしの中でやめてみて、見えたこと

山脇りこ(料理家・文筆家)×わたなべぽん(漫画家)

2023

10.06

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コミックエッセイに行き着いた理由



山脇
難しいとは思いますが、コミックエッセイとは何ですか?

わたなべ
自分の身の回りのことをそのまま漫画にするような感じですけど、私の場合、これまで描いてきたのは、ダイエットや片付けとテーマを持たせています。デビュー当時から一緒に仕事をさせてもらっている編集担当さんがいるんですけど、その方と、私の描く漫画のシリーズの呼び名があって、「人生やり直しシリーズ」と呼んでいます。自分が苦手意識を持っていることとか、自分の人生の中でちょっと不安に思っていることをやっつけていこう、やり直してみようということが多いので、これが不便だとか私のこういうところが駄目だなというのがテーマになっていることが多いと思います。

山脇
実際に描きながら克服をしている感じですか?

わたなべ
ある程度、自分の中で終わったことでないと描きづらいので、過去に頑張って部屋を片付けたり、どういう手順でやってきたのかを遡って描いていますね。

山脇
克服した後にどうやって克服したかのような。

わたなべ
そうです。

山脇
この歳になってもまだまだ克服したいことは、いっぱいありますよね。だんだんどうでもよくなってはきましたけど。

わたなべ
ちょっと楽になってきました。若いときほど、私のここ駄目だみたいなのはだいぶ薄れてきてはいるんですけど、代わりにちょっと切実に、貯金や家のことだったり、もう年なんだからこれはやっておかないとみたいなのも出てきて、あとやっぱ体のこととか。

山脇
鈍感力もつけたいとか、ちょっと若いときとは違う思いは出てきますよね。

わたなべ
ありますね。


思い込みもやめてみる



山脇
私も「やめてみた。」シリーズを読みました。

わたなべ
ありがとうございます。

山脇
やめてみたのは、炊飯器からですか?

わたなべ
そうなんですよ。独身時代から使っていた3合炊きぐらいしかできないような簡単な炊飯器があったんですけど、それがある日、いくら押してもスイッチが入らなくなってしまって、寿命がきたんだなと思って。ただ、その日に研いだお米をどうしようと思い、そういえば、以前、ご飯屋さんで土鍋ご飯が出てきたことがあって、うちでも真似してできるんじゃないかと思って見よう見まねでやってみたら、とにかく美味しく出来上がってしまって、なんでこんなに美味しいんだろうと思って、もう炊飯器がいらないねとテンションが上がって、そのときは言っていたんですけど、改めて考えてみると、タイマーもないし、保温もないし・・・。

山脇
後始末がね。

わたなべ
ズボラだから、果たして続くんだろうかとか思いながら。でも、ちょっと気楽に構えて、本当にもし炊飯器がないと、もう立ち行かないとなったときに買えばいいやと思って、しばらくは土鍋を続けたら、土鍋で大丈夫だったんですよね。2合炊いて、夜ご飯を食べて、ちょっと残ったのは次の日の私のお昼ご飯になる感じで、まるっと洗えるし、土鍋が自分たちに合っているのがわかって、そこからもう10年ぐらい経ち、今も土鍋で暮らしています。

山脇
あっという間に炊けますよね。

わたなべ
意外とそんなに時間もかからないし、苦もなくっていう感じでしたね。それから生活必需品、これは絶対に必要だと言われて買ったものだけけど、自分にはなくてもよかったということがわかって、もしかしたら自分の生活の中で他にも何か見直してみてもいいものがあるかもしれないと思って探し始めました。

山脇
炊飯器の次は?

わたなべ
大きな掃除機は引っ張るのも鬱陶しいので思い切ってやめてみたらどうだろうと思ってフロアワイパーにしたら、すごくそれが楽チンで、掃除機と違って、夜中でもスイスイできるし、自分たちに合っているかもしれないと思って。割とそんな感じでぽんぽんと見つかっていって、ファンデーションを塗るのをやめたり、いろいろ探そうと思うと見つかるものだなと思って。

山脇
それぞれのおうちにありそうですよね。絶対に必要なものもあると思うんですけど、規格品みたいな全員これを揃えましょうみたい感じだけどいらないもの。調理器具も、すごいあると思いますね。

わたなべ
そういう物体だけではなくて、自分にはこれが似合わないとずっと思い込んでいたもの、例えば私は赤い服が似合わないと思っていたんです。ちょっと派手に見えるし、あと女性らしい服も自分には似合わないとずっと思い込んでいて、何がきっかけでそう思ったんだろうと振り返ってみると、子供の頃にこういう出来事があったからかとか、昔、付き合っていた人にこんなことを言われたからとか、いろいろ思い当たることがあって、そういう思い込みも1回捨ててみるのもいいかもしれないと思って。寝る前にちょっとモヤモヤすることを繰り返し考えてしまうのもやめてみる。

山脇
リフレインが叫んじゃうんですよね。わかります。

わたなべ
でも、完全にやめたら、また始めてはいけないわけでもなくて、そのとき自分の人生で必要になってくるものは違うと思うので、私は今まだ土鍋ですけど、ご家庭によっては子育てが大変とか、共働きでおうちを留守にしがちだから必要とかあると思うので、その都度に応じて必要、必要でないのを取捨選択できることが大事かなと描いてみて思いました。

山脇
やめてみたをやめてみてもいいわけですね。

わたなべ
そうです。自分で自分の生活にフィットするものを選ぶことで自分に合ったものをチョイスしていくのは、自分を肯定することに繋がったんだなと思うことが結構あって。自分がこれが好き、自分の生活には、これが合っているというのを選んでいく。自分のために整えることなので、自分の暮らしが楽しくなるというか、自己肯定感が上がるというか、そういうところに繋がった気がします。



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