女性たちに寄り添う

松本千登世(ビューティエディター、ライター)×高尾美穂(産婦人科医)

2023

08.04

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松本さんは、大学卒業後、航空会社の客室乗務員、広告代理店勤務を経て、出版社に入社。 その後、フリーランスとなり、美容に関する記事を手掛けたり、人物インタビューなどを中心に活動されています。一方、高尾さんは、医師としてだけではなく、日本スポーツ協会公認スポーツドクターや、ヨガ指導者の顔も持ち、女性たちに向けてメッセージを発信しています。

産婦人科を志した理由



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松本
高尾先生、こんにちは。

高尾
こんにちは。

松本
今日はありがとうございます。私が高尾先生にお会いしたい、お話しをしたいということでリクエストをして、今日、来ていただきました。 私たち、2018年にあるブランドさんのイベントでお目にかかったんですよね。あのとき、先生とお話をした瞬間に私の、ちょっとネガティブや緊張しているところをオセロをパーっとひっくり返されるような気持ちになりました。先生が元気をくださって、緊張を和らげてくださって、すごく楽しい時間だったと思っています。

高尾
ありがとうございます。私もお名前をお聞きしたことがあった方だったので、どんな方なのかな、もちろん美容家でプロフェッショナルですから、最初の印象は、やっぱり、きめ細かい肌みたいでした。多分、美容もいろんな方法があるとは思うんですけれども、本当に必要なものを選んでおられる方だと思ったんですよね。

松本
本当ですか!すごい、ドキドキします。先生はお医者様でいらっしゃるので、医療のことを確かなエビデンスのもとにお話になるんですけれど、医療では説明できない何かを言葉にしてくださるというか、そこに私は、勉強になりながら、ちょっと心が温かくなるというか、そこがすごく素敵だなと思って、今日もその続きをお話できたらと思いました。先生は、スポーツドクターでもいらっしゃいますが、なぜ産婦人科医を選んだのですか?

高尾
医者は、医師国家試験を受けて、医師免許を得た後は、何科を選んでもいいんですよね。そういう中で、割と性格がシンプルなので、診断もシンプルなものがいいと思っていたんです。例えば、内視鏡カメラで胃の中を見て、「これは胃炎ですね」とか、「これはもう悪そうですね」とか。目で見てわかるような診療科がいいのかなと当時思っていたんですけれども、実際にそこを経験してみると、何となく自分の目の前を患者さんが通り過ぎていってしまうような、検査で得られた結果によっては内科の先生が担当、消化器内科、ちょっと悪そうだから手術と…何となくちょっと寂しいなと思ったんですよ。そのときに、もっと人を長く診ていたいと思ったんですね。そう考えたとき人の人生をずっと診ていける診療科はそんなに多くはなくて、その一つが産婦人科だったんですよ。赤ちゃんが生まれるところにも出会えるし、年齢が高くなっていって、いろんなことでお困りになっている年齢の女性もご相談に来てくださいますから、そう考えると、女性の人生をずっと診ていける科に行きたかったんだと気づいて、でも最終的にやっぱりいろいろと悩みました。そんなときに私は産婦人科医としてやっていけると思った出来事があって、それがやっぱり私たちの話は、結構いろいろこんがらがっていたり、回りくどかったり長かったりするじゃないですか。私そういう話を聞くのが嫌いではなかったんですよ。逆に結構好きだったんですね。こんがらがってしまっているのを何となく、これとこれは関係ある、これは関係ない、こっちはこっちでひとグループみたいにまとめて、そして、それの原因が何だろう、これとこれは関わり合っているかも、これは関係ないかもみたいに整理整頓すると、ご本人の中でもう何が何だかよくわからなかったような体の不調と、あと環境的ないまいちさ、こういったものがちょっと整理整頓できて、何となく前向きな気持ちでお帰りいただける、そんな経験をして、私はきっと産婦人科医でやっていけると思ったんですよね。医者になって2年目でしたけどね。


女性特有の不調と向き合う



一方、松本さんのお仕事は、最新のトレンドコスメを分析したり、女性誌の美容企画に参加されるなど、まさに「美のプロ」。独自の哲学や美意識から、ビューティエッセイの名手とも言われていますが、そもそもどのようにして美容の世界へと足を踏み入れたのでしょうか。

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松本
出版社に就職して、編集部で編集者として活動していたんですけれども、たまたま美容の担当になって、化粧品は生きてないから、私はちょっとだけ美容が面白くないと感じたときが、実は、生意気にもあったんですね。ある日、大手化粧品会社の研究者の方にお目にかかって、ひとしきり、最先端のテクノロジーやサイエンスのお話を聞いた後に、どうして化粧品の研究者になったんですかと聞いてみたんです。そしたら、その方が、「研究者というのは、大きく医療の分野か、それ以外かに別れるので、医療以外の研究についたものはちょっとだけコンプレックスを感じているんです」とおっしゃったんですね。それは生き死にに関係のない研究だからとその方はおっしゃって、でもご自身がいろいろやっていく中で、女性が生き生きと輝いたり、そういったことを経験する中で女の人の心の生き死にに関係あったんだと思ったと。そのときに私インタビューで初めて泣いたんですけど、なんて素晴らしい職業だろうと思って、もちろん心の生き死にとすごく大げさなことに聞こえるんですけど、そうではなくて、今日が楽しいとか、明日も楽しいかもしれないみたいな、そういう気持ちになれる分野かもと思えて、それから、すごく仕事が楽しくなったというエピソードがあります。

高尾
素敵ですね。医療の生き死にの部分は、すごく早い年代から研究されてきたし、なぜかというと、死ななくて済むように。でも女性にとって、この健康の分野が意外と死なないのに困っている。この表現が適切ではないと正直思うんですけれども、命に関わらないけれども、女性にとっては楽しくないこと。例えば、生理痛や生理前の不調、そして、まさに更年期、これはある意味、もう、後回しにされてやっと今という状況なんです。先ほどの研究者の方がおっしゃってくださった女性のお顔がいい状態であることが、テンションが上がる理由になる。まさに私たちが今取り組んでいる更年期や生理の課題、産後の不調、ここも含めて、本当に同じことだなと今、お聞きしていて思いました。


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