メッセンジャーのような役割
行方ひさこ(ブランディングディレクター)×生江史伸(シェフ)
2023
06.09
行方さんは、アパレルブランドの経営、デザイナーなどの経験を活かして、ストーリーやデザインなどの一貫したコンセプトワークを行い、ブランドの向かうべき方向を示すブランディングディレクター。工芸、スポーツアパレル、フード、ビューティなど幅広い分野で活動中です。
一方、生江さんは、大学卒業後、イタリア料理店で基礎を学び、フランス料理界を代表するといわれているミシェル・ブラス氏に師事されます。さらにイギリスの3ツ星レストランでは、スーシェフおよびペイストリー部門を担当。帰国後、西麻布に”レストラン レフェルヴェソンス”を開店され、3ツ星を獲得するなど、新世代ガストロノミー界を牽引する存在です。
カブが中心にあるお料理
- 行方
- こんにちは。
- 生江
- こんにちは。
- 行方
- ちょっとご無沙汰でしたね。初めて会ったのは、私がお店にお伺いして、お食事させていただいて、その後にテーブルにご挨拶に来てくださった時ですよね。
- 生江
- そうですね。もう何年ぐらい前か。
- 行方
- 10年前ぐらい。
- 生江
- 行方さんの印象は、まず予約帳に、「行方」という名字があった時に、変わった名字の仲間がいた!僕の名字が生江で小さい頃からずっといじられっぱなしで、それを共有できる人はなかなかいないんですよ。そういう意味では、きっと仲間だと感じました。
- 行方
- 「聞いたことはあるんですが、会ったことはないです」と言っていた気がする。
- 生江
- そこが出会いのポイントだったんですね。
- 行方
- 私、野菜の中ですごく好きなのが、セリとカブと、春菊で、
- 生江
- 渋いですね。
- 行方
- お店には、いつもカブの料理があって、定点観測というか、それがかなり楽しみというのは、ちょっと渋いのかな。
- 生江
- 渋い。行方さんが初めてお店に来てくれた時は、まさかカブの料理がずっとロングランのお皿になる予定はなかったんですけれども、お店を開店してから13年、唯一、作り続けているお皿なんです。カブをバターで焼くというすごくシンプルな料理ですけど、それがなぜかいろいろな料理が消えていく中でうちのレストランではずっと同じ調理法、同じプレゼンテーション、同じお皿で盛り付けてお出ししているので、ずっと変わらないものを持っておくことの価値をやっと13年経って、理解できるようになったというか、すごく素朴な味ではあるんですけれども、派手さがない分、逆に周りの料理が引き立つというか、引き立て役になるような料理でもあるんです。そういう存在が実は、長続きするんだなというのを改めて感じた料理ですね。
- 行方
- あと、ちょっと面白い、少し皮肉ったお料理もあったから、カブは、本当に素朴で、ほっとする。
- 生江
- 僕の料理はどちらかというと王道のフランス料理というよりは、その王道に対して、少し斜めに物を見るような料理が多くて、それは多分、自分の名字が変わっていたというのもあって、周りから変とは言わないけれども、そういう風な生まれ方をすると王道のものを堂々とする勇気がなくなるというか、そういうのはあるかもしれないです。
- 行方
- 確かに、私もランドセルの赤が嫌だと言ってネイビーにしたり、赤でなくちゃいけない理由を説明しろと言って、説明がわからなければ私はネイビーか茶色にするって。
- 生江
- 全く同じことを子供の時に、親に対して言っていて、よく親が子供を叱る時に、それは常識でしょうみたいなことを言うと、その常識が常識たる所以を説明してくれと食いついて。
- 行方
- かわいくないね(笑)。私もそうだった。みんなと同じことが何でできないのかと言われるとみんなと違って何が悪いんだって思っていたから。
- 生江
- だからカブをやり続けるところも、そういうことだったのかなと、この出会いのきっかけの話をした時に、ふと思って、セリやカブだとかあまり主人公にはなりにくいと思われがちな料理、あるいは素材だからこそ、自分は大事にしたいし、あるいは、それを積極的に好きだって思っていた。
- 行方
- 普通は、お皿の真ん中にカブがあることなんてありえないから。
- 生江
- 大体お魚に何々ソースとかお肉の何々風とか、そういうのがフランス料理ではやるべきもので、素晴らしいけど、それは自分がやることじゃないかなというのは感じていたところに、触れてくれた、それはありがたいなと思っています。
「ブランディングディレクター」のお仕事
- 行方
- ファッションブランドで言うとファッションの一つのブランドをゼロから作るのがブランディングかな。ブランディングの仕事のきっかけになったところでもあって、コンセプトを考えて、お洋服のデザインやテーマをどうするかとか、デザインはデザイナーさんに振る時もあれば自分でする時もあった。そういうのをパネルにいろいろ作って、みんなにわかりやすく説明ができるようにして、ブランディングディレクターはブランドを作るために旗を振る人かなと。なので、お店をどんな場所で、どんな内装でどういう風に作るかとか、何を一番押して売っていくかとか、そういう細かいことまでやったり、あと、PRする時にどんなモデルさんを使うとか、雑誌に出る時にはどうするか、あとはどんな広告を作るかとか、ショッピングバッグに留める紙のシールに至るまで全部1本横串を刺す人という感じ。でもオーナーシェフとか自分のお店を作るとなると、そういう感じだよね?
- 生江
- そうだね。
- 行方
- 壁紙をどうしたいとか、こういうお客さんに来てもらいたいとかを考えたり。ファッションをやっていたらもっとこれを他のジャンルにもできるんじゃないかなと思って、だんだんと違う業界のお仕事をいただくようになって、それで今に至る感じです。
- 生江
- イメージ的に言うと、物を作る人と物を買う人がいて、物を作る人は、洋服であったり、あるいはもしかすると今すごく積極的に取り組まれている工芸であったり、そういう創造物があって、それを買ってくれる人がいる間に立って、両方を見ながら、こうやったら、作ったものが買う人に伝わるよとか、逆に言うと、こういうものをこの人たちは欲しがっているよと伝えるメッセンジャーみたいな役割をしてるんじゃないかなと思って。
- 行方
- 確かにメッセンジャーみたいな役割もする。
- 生江
- 実は、料理人は、そこの立場にいると思っていて、なぜかというと、僕らは野菜も作れないし、魚も釣れないし、最近は、野菜を作る人や釣る人もいるけれども、作ってくれる人のこういうものを作りたいといういろいろな考えがあって、こっち側には食べたい人がいてその間を僕らは取り持っている役割と位置づけている。
- 行方
- そういうふうに思っているんだ。
- 生江
- この人たちがいなかったら駄目だし、買ってくれる人、食べてくれる人がいなかったら僕らは成り立たないし、この人たちも成り立たないから、そことそこの間を繋ぎ合わせるメッセンジャーで、食べてくれた人がこう思ったみたいなことはもちろん、作ってくれる人たちにも伝えたいし、その役割に、一つの意味があるのかなと思ってやっているつもりだから、ブランディングのディレクションは、そっちの方に向かった方がいいですよと示す人だよね。似ているかな。
- 行方
- そういうふうにまとめてもらうとすごく似ている。