プロデューサーのお仕事
亀田誠治(音楽プロデューサー、ベーシスト)×Shingo Suzuki(ミュージシャン)
2023
05.19
まずは、デモ!
- 亀田
- アーティストさんと会話をする時は、どういう形で進めるのですか?例えば、楽器を持ちながら、ご飯やお茶をしながらとか。
- Shingo
- 最近だと画面越しが多いですね。ここ数年、リモートで出来ているんですけど、その後、携帯でアドレス交換をして、そこで話ができると、一番ですね。対面で話したいんですけど時間や場所が限られてくる昨今、距離を縮めるのは携帯の文字が割と多いかな。
- 亀田
- これはすごくいい話を聞いた!決定的にShingoさんとの世代差というか、僕もリモート大好きですけど、細かいニュアンスは、リモートやテキストではすくい取ることができないような気がして、僕のLINEは1本指でしか打てないんですけど、これだと通じるかな?誤解されるかもしれないなと思って、ちょっと寝かしたりして、そこら辺の勢いが、リアルだとできることが、慎重になって、コミュニケーションブレークダウンが起こるのがとても怖いですね。でも57歳のおっさんがそれで良いんでしょうか?
- Shingo
- 僕も一番したいことはそれですけど、逆に言うと、僕はスーパーマンではないから曲を作るとか、自分を出していくのに時間がかかるタイプで、相手の話すことをいろいろ聞いて間違っているかもしれないけど、すくい取ったことをまずは、デモ音源として形にしてみるんです。長文の「いや違いますね」というメールを恐れながらも。そこで話を具体的に話し始めるのが自分の作る方法になってきていて、10の言葉よりも1つの音の方が通じることがあるんじゃないかなと思っています。そのために、誰の音楽が好きなのか、今どんなのを聞いているのか、楽器をどうやって演奏するのかなど、歌詞や本をとにかく客観的にブレストみたいな感じで、たくさんシャワーのように浴びたいんですよね。その時、直接話すと流れていきそうで、逆にテキストだと相手もちょっと時間をおいて、伝えたいことを書いてくれている気がして、そこからたくさんの言葉とフィーリングと、一緒に動いてくれているスタッフの方の意見やアドバイスを一度ごちゃっともらう。今は半分職人みたいなところもあって、何でも屋ではないからやっぱり作れる得意分野があるので、相手の希望とミックスする、そんなところです。
- 亀田
- でもね、一つだけ共通しているのは僕もいつも「百聞は一見に如かず」の反対で「一聴に如かず」みたいなことを言って、打ち合わせをすると、もしかしたら、福笑の絵みたく、目と鼻と口がずれる形になるかもしれないけど、まずは僕にデモを作らせてくれと言って、デモ。その時のリアクションは怖いっすよ!
- Shingo
- 亀田さんでも怖いんですか!
- 亀田
- 怖い、怖い。自分でこれしかないと思ったものを出すんだけど、いろいろリアクションが来るわけです。「とてもいいと思います。」から始まって、だんだん「ここはこうならないでしょうか。キーを高くしていただくことは可能でしょうか。」と、極めつけはストリングスのアレンジもしたのに、「ストリングスがないという形はあり得ますかね」とか。
- Shingo
- それを聞いてちょっと安心と言ったらおかしいですけど。
- 亀田
- めちゃめちゃやり取りします。
それぞれの音の作り方
Shingo Suzukiさんによるバンドプロジェクト「Ovall」のメンバーは、それぞれソロ活動やサポートミュージシャンとしても活動し、他のアーティストへのプロデュース業も盛んに行っています。そんな各々でも活躍しているメンバーが、「Ovall」として集まる時には、どうやって音楽を作り上げていくのでしょうか。
- 亀田
- 「Ovall」の話聞いていいですかね?Suzikiさんと関口さんとmabanuaさん、この奇才3人が自分たちをどうプロデュースするのですか?
- Shingo
- 今、デモを作っているんですけど、できなくて。基本的にスタジオに入って、ゼロから作るスタイルではなくて、
- 亀田
- それぞれがモチーフを持っている、もしくは、それぞれがイニシアチブを持った作品になる?
- Shingo
- デモで100%できているんですよね。
- 亀田
- なるほど。
- Shingo
- それをバンドに差し替えていく時に、決めフレーズはあるけど、全部任すんですよ。ドラムもこのパターン打っているけど、もし何かあったらこれでいいよねみたいなのとかあって、曲の骨格を作った後は差し替え。ただその前にデモで隅々まで、音楽的なトーンとかを組み分ける。だから一緒にスタジオに集まって「こういうのいいよね」とかはないし、一緒に3人で集まってドカンと演奏することもほぼないんですよね。
- 亀田
- みんなが集まるのはライブの時とか?
- Shingo
- レコーディングの時も1人がブースに入って、2人が勝手に本を読んだり携帯見たりが多いですけど、ただ近くにいるから、このフレーズいいよねとかそういう、何となくの共有はするんですけど。
- 亀田
- 今の音楽シーンを作り上げている3人が集まって、これ有識者会議というか、もう音楽のダボス会議みたいなところまでいっていると思っていて、でも、今お話を聞いて、やっぱり作り方は僕も想像していた感じでした。これ多分60年代70年代のコンピュータがなかったバンドだったら絶対に解散するパターンだと思うんです。
- Shingo
- そうですね。でも逆に亀田さんがされているスタイルに憧れているところもあって、ミュージシャンが一緒にワイワイやっているんだろうな、楽しそうだな。ここは別で精密にエディットしているんだろうな、ミックス加減が一緒にまとめあげているなみたいなところまであって、僕もオールドスクールな、ミュージシャンがギターならギターを抱えてベーシストはベースを抱えてアンプを持ってきて、やるのが基本というかやっぱりそこが僕の原点にはあるから、今いろんな事情でなかなかできないことが増えてきて、それがメインになってきているところがあるから、一度、原点に立ち返りたいと常日頃思っているんですけどね。
- 亀田
- さっき、まずデモを作ると言ったじゃないですか。それの延長上で、スタジオに入る時に、ファーストコールミュージシャンとしかやらないんですよ、代わりがいないの。この曲にはこの人でと。その人が叩くフレーズとか弾くフレーズまでイメージしてアレンジするので、みんなめちゃくちゃハラハラするわけ。これスケジュール合わなかったらどうするんだろう、でも僕、待つからと言って。
- Shingo
- もう皆さんもう第一線で活躍していらっしゃる方だから、スケジュールがパズルのようですね!
- 亀田
- 針の糸みたいなポイントで、スポットを見つけて3時間ぐらいで録る。
- Shingo
- それなら、もう準備も万端にしないと。
- 亀田
- そういう意味で本当に僕の作るデモも「Ovall」さんのクオリティまでいっているかどうかわからないけれども、ベースは最終的に自分で弾くけど、ギターもピアノも弾いてそれプラスそのプレイヤーの持ち味が加わってくれて、大丈夫という許容範囲を作っておく。よく、例えるんですけど、恐竜博物館に行って、何とかザウルスの骨があるけれども、これに肉をつけて生き返らせると今でも動き出しそうだぐらいのところまでデモに注ぎ込んでいる。
- Shingo
- メンバーとデモはいいんだけど骨がない、側ばっかり作っても進まないよねと議論になったんですよ。まさにそのことだと思って、その側というのは雰囲気やテイストだったり、ジャンルっぽい何かだったりするんだけれども、その奥にいる骨がないと、いくらやったところで曲として完成しないみたいな議論になっていて、まさに亀田さんがおっしゃっていたのはそこな気がするんですよね。
*亀田さんが実行委員長を務める「日比谷音楽祭」が6月3日、4日に東京・日比谷公園と周辺エリアで開催されます。
世代やジャンルを超えた音楽が無料で楽しめます。
出演者は、桜井和寿さん、石川さゆり、木村カエラ、KREVAなど数多くのアーティスト、そして、Shigo Suzukiさん率いる「Ovall」も登場します。