料理は無理するものではない
青木崇高(俳優)×白央篤司(フードライター)
2023
03.10
数々の料理本や料理指南が溢れる中で、白央さんが提案するのは、現代人にピッタリな「自炊力」。これまでに、「自炊力 料理以前の食生活改善スキル」や「たまごかけご飯だって、立派な自炊です。」といった本も発表されています。
『自炊力』が生まれた背景
- 白央
- 崇高は、家事はしているの?お手伝いさんが50人ぐらいいる?
- 青木
- 67人ぐらいですけど。
- 白央
- 大変!
- 青木
- どんな家に住んでいるんですか!
- 白央
- マラカニアン宮殿みたいな。
- 青木
- 全然いないです(笑)。1人でやっています。
- 白央
- もう別居!問題発言!
- 青木
- いや、いや、2人で普通に家事をやっています。
- 白央
- 分担は決めているの?
- 青木
- 特に決まってはいないですけど、メインは妻で、僕も掃除機はかけますし、ご飯も作りますし、洗濯物もやっています。
- 白央
- 自分はご飯作り担当で、向こうが掃除担当。書く仕事だから調子が出てきて、このままやりたいなと思うと、大体ご飯の支度タイムなるんだよね。そういう時だけは、今はやりたいとは思うけど、それもリズムになった。
- 青木
- 共同生活はそこのスイッチのオンオフが嫌でもしないといけない時があるじゃないですか。それが最初、結構しんどかったりしましたけど、慣れてもきて、慣れることで鍛えられるというか、脳のスイッチの入れ方とか、洗い物をしながらセリフをやるとか、洗濯物を畳みながら、なになにしながらみたいなことが脳の中で合理的に組み立てて、やれるようになってきたのは、共同生活をやってからです。
- 白央
- 『自炊力』を書いた時に大事にしたのは、インスタ映えするような、おかずもしっかりとか、美味しそうな料理をよしと考える人が世の中に一定数いるけど、そうではなくて自分はそもそも料理が好きではないとか、別にあんま興味がない人はそれでいいんですよと言いたかったんだよね。みんな料理するとなると、なぜかちゃんと作るとか副菜もしっかりとか、栄養バランスもとか、いきなりそこを考える人が多いわけ。料理をしてこなかったのにそれを目指すのは小学校に入ろうとしているのに、東大を目指すようなもので、いきなりやっても辛いでしょという話をしたかったんだよね。そもそもあんま作りたくないとか、作る時間がない人は作らない方向で買ってくるにシフトする。だけど、栄養を考えるならこういう買い方をした方がいいとか、ちょっとは作りたいのだったら一品何か作ろうかとか、買ってきたものにちょっと足すやり方もあるよとかそういう中で、こうやると栄養のバランスを良くしやすいとかいろいろと書いて、ゴール地点は自分にとって何だろうかってことを書いたんだよね。料理が好きな人は、時間とやる気さえ出れば、勝手にどんどんうまくなっていく。でもそうじゃない人の方が世の中多いわけ。食べることイコール楽しいではない人がいくらでも世の中にいるし、そういう人もいて不思議ではないし、OK。だから、そういう人は人生における楽しみを別のことに求めているわけだから、なるべく食には時間も省略して、かけるお金やコストを抑えて、例えば、旅とかスポーツが好きとか、ひたすら寝ていたいとかいくらだっていいわけじゃない。だから、わかりましょうよとか、私が食べる楽しさを教えてみせますみたいな本が多いわけ。それはいいと言っているのに、無理やり押し付けてどうすんの?ということを言えるフードライターはあんまりいないんだよね。みんな基本的に”食is Wonderful”。そうりゃそう思っているけど、そうじゃない人のためのヒント集も必要だよなと思って、新刊もそんな感じの本なんだけど。
旅の醍醐味
青木さんは、バックパーカーで旅好き!これまでに、5大陸制覇されています。また、世界を舞台に、ご自身で撮影し、編集している映像作品「会いに行く」シリーズも制作されています。一方、白央さんは、郷土料理をテーマに執筆されているとあって美味しいものを求めて各地を訪れています。
- 白央
- 誰か知らない人がいる土地とか、郷土料理のことを調べに行ったりもするけど、そんな目的が明確にない旅をしても、お店やお土産物屋さんに入るとか、いろんな農家さんのところに行くと、この人に出会うために今回来たんだなと思える時があったり、それは必ずしも人でなくても、食べ物とか、このお酒に出会うために今回来たんだなと思う瞬間があるのよ。それが旅かなと自分は思う。
- 青木
- 僕も思います。あんまり細かくは立てず、アンテナというか心を開いた状態でいるとふとした弾みで何かと出会うのがやっぱり一番楽しいですね。
- 白央
- 街の飲み屋さんとかご飯屋さんで何かを食べていて、これすごく面白いなという食べ物があった時にお店の人が話しかけてくれて、これはどこそこの人が作っているよ、売っているところは、近いとか教えてくれたり、そういうので広がっていくことで取材とか仕事になったりすることもよくあって、それは会いに行っているんだなという気がするんだよね。そんな確実に良い形にならなくても、ホテルでボーとしてもそこから入る光とか風は絶対その土地のものじゃない。なんか今いい時間だなと思えたらもうそれでいいやと思って。世界各地を旅していて、何か気に入った食べ物とかありますか?
- 青木
- アフリカに行った時に自転車でキリマンジャロを1周するっていう、
- 白央
- そんなことできるの?
- 青木
- しましたね。途中の村に寄ると「こっち来い」と言って、バナナの密造酒みたいのを飲まされたことがありましたが、結構忘れられなくて。もう絶対にあたるやろうと思ったんですけども、あたらなくて本当に美味しかったんですよ。
- 白央
- 1周は何日間ぐらいでできるの?
- 青木
- 10日ぐらいかけて。頑張って漕いだら最後の日が1日余って、3,400mまでチャリでアタックしましたね。
- 白央
- 嘘でしょう。
- 青木
- 走っていたあたりが1,300〜1,400mくらい。
- 白央
- 高山病にはならないの?
- 青木
- 途中でなりかけましたよ。
- 白央
- シャレになんないよ。
- 青木
- 思考はやっぱり酸素を奪うんですよね。2,500mが大体高山病になるラインなんですよ、あれこれ考えると、酸素が身体中から抜けていくのをすごく感じるんですね。結構な斜面もずっとチャリを漕いでいますから。とにかく深呼吸をすること、ゆっくりでもちゃんと漕ぎ続けること。この2点だけを脳に残しておいて、ひたすら漕いでいました。3,400mのポイントがちょうどこれから山にアタックする人たちとシェルパの荷物を車で運ぶ一番の高いところのエリアで、そこまでチャリで行ったんです。これから何日もかけて、キリマンジャロを登っていくヨーロピアンの人らがチャリで現れた俺を見てもう本当に目がすごかったです。俺の顔を指さしてチャリを指さして俺の顔を指さしてチャリを指差して上下上下で、「お前、それで来たの!お前、それで来たの!みたいな」
- 白央
- その顔は撮った?
- 青木
- いや、俺はハンドルを握っていましたけど、携帯で撮られていました。
- 白央
- どっかのTik Tokに上がっているね。
- 青木
- 大昔ですから(笑)。
白央さんは大和書房より「料理はきらいでもないけど、しんどくてムリな日もよくある」人に向けたエッセイ&レシピ集「台所をひらく」を3月下旬に発売する予定です。