信念を貫く
青木崇高(俳優)×白央篤司(フードライター)
2023
03.03
種を蒔いておくことの大切さ
- 白央
- お酒はなんでも飲む?
- 青木
- なんでも飲みますね。
- 白央
- 一時、日本酒にもはまっていたよね?
- 青木
- はい。一応、利き酒師は取りました。形だけになってしまっているんですけど。
- 白央
- 俳優がもし駄目だったらそっちに行こうっていう?
- 青木
- そんな甘い世界ではないと思うんですけども、利き酒師の資格を取った話をすると、お酒の味の違いがわからないという声を耳にするんです。僕からしたら、あれだけの銘柄が世の中にあって、違うに決まっているやんと、思うんですけど。
- 白央
- お店によっては、ビール、ワイン、日本酒としか書いてないところもいっぱいあるからね。
- 青木
- 作り手一人一人が時間かけて、酵母や掛け合わせをいろいろとやって、大変な手間も時間もかけて、あの手この手でできた1本。その奥に見える作り手の姿勢に感銘を受けるんです。俺もまだまだだけど、こういう仕事観の姿勢は見習いたいと思いますね。
- 白央
- クラフトマンシップみたいなところに惹かれる?
- 青木
- 例えば、ウイスキーは、樽で熟成させて、試行錯誤を経て、結果が出るまでにすごい時間がかかるわけで、そこに本当に今、すべきことはなんだろうとか考えたり。
- 白央
- 役者さんもそうじゃない? 10何年前の作品だけどずっと覚えていてくれた人がその後に、またお願いしますってこともあるでしょう。
- 青木
- そんなことあったら嬉しいですね。
- 白央
- 自分も、最初に連載を出してもらった雑誌の巻頭特集が好きで、デビューどころかまだ自分でライターと名乗りたての頃に、ダメもとで持ち込みさせてもらったの。そしたら、「いきなり巻頭はお願いできないです」と言われ、「ありがとうございます」と言って帰ってきたんだけど、その人が3年後にブログを読んでくれていて、「ファンになっていたんですよ」と言われて、連載をくれたの。
- 青木
- 嬉しい。
- 白央
- そういうこともあるから種を蒔くのは必要だよね。
俳優としての原点
- 青木
- オーディションでどうしてもやりたい役があったんですよ。絶対に取りたい思いが強すぎて、緊張して、気合いが入りすぎて、芝居をやった後に、ちょっとモヤモヤして、「すいません、もう1回いいですか」と言って、もう1回やらせてもらったんですが、やっぱり、緊張をして、セリフを噛んだり、思ったようにできなくて、でも、またもう1回と言うのもさすがにないなと思って、「ありがとうございました」と言って、渋谷駅まで歩いて向かって、切符を買って、電車を待ってたんすよ。でも、いやあかんやろと思って、その場で切符を破って、会場に戻ったんです。「すいません、もう1回やらせて欲しいです」と言って、その時はもう既に女性のオーディションをやっていたので、1〜2時間ぐらいどっかで待っていて、また行ったところ、「なんで来たの?」と聞かれ「納得がいかないというか、もう1回やりたくて」と言って、やったんですよ。そしたら、「前の方が良かった。でもそれはすごくいいことだよ」と言ってくれて。
- 白央
- 結果はどうなったの?
- 青木
- 落ちました。
- 白央
- でも絶対に印象には残ったのでは?
- 青木
- そうですね。その後、別の作品で声をかけてくださったんです。
- 白央
- オーディションは否定じゃないもんね。その役に合う人を探す。でも若い時はそう思えないよね。
- 青木
- 思えないですね。本当に悔しかったですけど、やれることはやったし、自分はまだまだなんだ、集中できるようにやっていかないといけないと課題が見えたりはしましたね。
- 白央
- 出会った最初の頃に仕事なのか、うまくいかなくて、悔しいとか悲しいことをうまく崇高が言葉にできなくて、泣いているのを見たことがある。ボロボロじゃないけど、悔し涙みたいな。
- 青木
- 悔しいことは、相当あったと思いますね。
- 白央
- うまく言語化できないじゃない。段々とできるようになってくるんだけどさ。
- 青木
- なんであいつなんだみたいな。オーディションで選んでくれよとか、そういうのはあったと思います。
- 白央
- 考えてもしょうがないことを考えないようにする力は増してきた?
- 青木
- 得意ではないですね。でもやっぱり全部はできないですね。
- 白央
- でも損なことはしないっていう風に考えては生きていけないからね。そんなことができたら楽だけど、そういうところは絶対にないというチョイスでしょ。だから長いこと一緒にいるんじゃないの。自分もそういうとこあるし。
- 青木
- なかなか感動しますね。嬉しいです、本当に。
※白央さんは大和書房より「料理はきらいでもないけど、しんどくてムリな日もよくある」人に向けたエッセイ&レシピ集「台所をひらく」を3月下旬に発売する予定です。