決断するとき
雨宮塔子(フリーアナウンサー、エッセイスト)×渡辺有子(料理家)
2023
02.03
渡辺さんは、ご自身の経験を生かして、暮らしをより豊かに、より楽しむためのヒントが詰まった店舗もオープンされました。現在は、東京の代々木上原と西荻窪と千駄ヶ谷の3店舗を展開しています。
料理から広がった挑戦
- 雨宮
- 有子ちゃんのお店にも伺ったけれども、料理教室やテレビでも皆さんに披露したり、そういうベースがありながらも数年前から他のことも始めているもんね。
- 渡辺
- お店を始めたんです。その前に料理教室を始めたのがきっかけで、それまでは、雑誌の料理ページにお料理を作って撮影する仕事だけをしていて、料理教室はすごく自分の中ではドキドキしたことだったけど、料理は食べてくれる人がいて成立するので文章やレシピだけでは伝えられないことも伝えたかったし、食べてくれる人の反応も知りたかったので、料理教室はいいなと思って始めて、少しずつ生徒さんが回を重ねて来てくれるようになって段々お料理だけではなくて、その料理に合った器で提供していたら、「その器の作家さんは誰ですか?」とか、「この器はどこで買えるんですか?」という質問が多くなってきて。
- 雨宮
- 本当にセンスがいいもんね。
- 渡辺
- いやいや。料理教室のアトリエのスタジオにいいなと思うものを並べて、生徒さんに向けて販売を始めた。
- 雨宮
- 本当に自然な流れだね。
- 渡辺
- 料理と器は切っても切れないし、私は料理家だから料理から離れたことはしたくないなと思っているので、器は提案できるなと思って、お料理教室から派生してお店を作って、お店の名前は「FOOD FOR THOUGHT」。
- 雨宮
- どうしてこの名前になったの?
- 渡辺
- 実は私の夫がつけたというか、この考えはいいよと言って決めて。直訳は難しいですけど、”生きるためのヒント”とか、なくてもいいけどあったら人生が豊かになるようなものだったり、そういう意味合いがある言葉で、今、代々木上原に1号店があり、フードと書いてあるから何か食べられると思われて、「ここは何屋さんですか?」と言われたり、「FOOD FOR THOUGHT」と読めなくて、ちょっと難しい店名だったなと思うんですけど、東大が近くて、東大生がお店の前を通りかかった時に、いい名前をつけた、なかなか深いみたいなことを言ってくれた。
- 雨宮
- さすがです。本当に素敵ですよね、お店の雰囲気とか、置いてある商品も。
- 渡辺
- お店をやるとは思ってなかったけど、でも料理から離れていないので、自分の中ではあれもこれもやりたいということで広げたつもりはあまりなくて、私の場合は自分からやるぞというタイプではなくて、夫が「もっとできることがあるよね。もったいないよ」と言ってくれて、できるのにやらないのは嫌とか、できることがまだあるのかと思うと、何か一つでもいいから、この年にひとつ作ろうと思ってやってきて、本当にひとつずつだけど私の中では、頑張ってやっているところはあって、料理だけを提案し続けるよりは、器を売るだけではなくて、そこから持って帰った時にお家で気持ちが前向きになったり、お料理をするのが楽しくなったり、食卓で会話が弾んだり、そういうところに繋がっていけたらいいなと思って、お店で、食のイベントをしてみたり、売るだけではなく人との交流の場になったりしたらいいなと思っています。
日本へ単身赴任した時の思い
一方、雨宮さんも、2016年から3年間、ニュース番組のキャスターを務めるためにお子さんをフランスに残して、日本に単身赴任されました。それは、母親として、そして、ひとりの女性としての人生を考えぬいた上での決断でした。
- 渡辺
- 塔子ちゃんもいろいろ転機があったと思うし、次のステップに行く時が数年前もあったよね。
- 雨宮
- 決意とかそんなにかっこいいものでもなく、自業自得ですけど、流れ的にはそっちに行かざるを得ない状況になってしまったというか、例えば、日本に2016年から3年弱いたんですけれども、それも離婚していなかったらそういう選択肢が取れたのかというとわからないし、離婚して実際に自分で生きていかないといけない時に大きな話であって、すごく震えるし、怖いところもあるんですけど、でも子どものために踏みとどまったってかっこいいですけれども、それを言い訳にしてしまうのではないか、あるいは将来、ちょっと後悔の気持ちが生まれた時に心の中だけでも子どものせいにしたくないのと、そこにいたら景色が変わらない、今いるところと変わらないから、怖いけどちょっと踏み出してみると、違うものを見たり、出会いがあったりするのではというものだけですね。
- 渡辺
- とっても大きな決断だったのではないかな。
- 雨宮
- でも、なんとなくそれに伏線があるというか、20何年前にフランスに来たときと子どもができてフランスでちょっと鍛えられたりして、日常の積み重ねもふてぶてしくなったのもあるのではと思いますね。日々ちょっと戦わないといけないシーンが何かしらあって、合理的や理不尽でないこともしょっちゅうあるので、結果論ですけど、タフにならざるを得ないというか。
- 渡辺
- でもやっぱりやってみてよかった?
- 雨宮
- うん。後悔はないですね。子どもには寂しい思いをさせたと思うし、だけど彼らは彼らですごくたくましくなってくれて、大人にしたのが早くなったのはあるんですけど、あれはあれで、話せないことが話せたようにもなるし、距離がすごく近くさせてくれるものもあって、多分一緒にいたら話してくれないようなこともその距離で話してもらえるのもあって、よく言うとですね。もちろん彼らは布団の中で泣いたりしていたと思うんですけど。