不条理な世界
森本千絵(アートディレクター、コミュニケーションディレクター)×近藤良平(振付家、ダンサー)
2022
07.01
五感が刺激される劇場作り
今年、近藤さんが芸術監督として就任され、新体制となった、彩の国さいたま芸術劇場で、近藤さんが掲げたテーマは、「クロッシング」。そのテーマのもとに、7月には、劇作家・演出家の松井周さんが手がける新作も予定されています。
- 森本
- 「彩の国さいたま芸術劇場」のコンドルズは、もともとすごく好きで、コンドルズの中でも特に劇場を楽しんでいる感じがあって、絵を描いたり、空間的な事や音楽とか芸術に触れるのが好きな近藤さんの一面が一番コンドルズを通して表れているのが埼玉の公演。
- 近藤
- そう。それは言えてる。いろんな空間を作ったりして、作っている前からワクワクするんですよ。それを小出しにしながらでも具現化する作業も楽しい。今、劇場で掲げているテーマはクロッシングで、演劇、音楽、ダンスとかジャンルを出来る限り、取っ払ってもらうと言うか、ジャンルを超えて舞台を観て欲しい。もっと言いたいことはもうちょっと視覚、聴覚や匂いも含めて五感や色んなものが刺激されて舞台を観るような取り組みをしたくて。
- 森本
- 料理家とか呼んでね。
- 近藤
- 敷地でもっと野菜を作りたい。
- 森本
- 今度、7月10日から18日まで上演される舞台は?
- 近藤
- 今度はより演劇の世界に近い側で、クロスすることをしていて、完全に脚本があるんですよ。今回は松井周さんにお話をしながら一つ世界を書いてもらって松井さんも身体のことに対して、興味があるので、ダンサーも役者さんもいます。それでいて意外と不条理という世界は、ちょっと興味があって、不条理とか興味ないですか?
- 森本
- どういう不条理ですか?不条理にもいろんな種類があると思うですけど?
- 近藤
- いろんな不条理があるけど、トイレットペーパーがどうしても切れないとか(笑)。僕はこの行動に対して、切れないと永遠とこの行動をし続ける。そのうちに拭くという行為を忘れる。(笑)
- 森本
- (笑)
- 近藤
- そういうのに不条理を感じるんですけど。あまり、いい例じゃないですね。
- 森本
- でも惹かれるところはあります。不条理かどうかは、わからないけどそういうことをずっとしゃべるのは好きです。
- 近藤
- 今ちょっと、めんどくさい時代になって、日常がゴソゴソと変えられているじゃないですか、そこに立つと、人間は、あっけにとられるような不条理に陥るので、そこの部分のお話です。
- 森本
- それを松井さんが書かれているんですね。
- 近藤
- そう。だからドキドキしっぱなしですよ。
社会的摩擦を越えるために
森本さんは、この度、集英社インターナショナルから発売された「ガールズ・ビー・アンビシャス 一歩踏み出したいあなたへ贈る21のコトバ」にメッセージを寄せています。日本は、ジェンダーギャップ指数も低く、まだまだ、平等とはいえない社会的な課題がたくさん残っています。困難な状況にあっても、社会通念を打ち破り、活躍する女性たちの言葉を集めた本。お二人は、こうした、いわば不条理な今の世の中の状況をどう見ているのでしょうか。
- 森本
- 近藤さんの中では犬も猫も女も男も子供も大人もそもそも、境も興味もないですよね。
- 近藤
- そこに何かを押し付ける行動はないよね。
- 森本
- 近藤さんの近くで接したり、一緒に物を作っている人たちも多分意識してなさそうそうで、そういうところにも惹かれたかもしれません。
- 近藤
- 僕は僕で、黒田 征太郎さんみたいな年齢を超えた輝き方をする人がいること、実際そこには男性とか女性とかもなく憧れるし、そういう人に僕もなりたいなと思うし、どっか芯になる部分は嘘をつかない自分に気づくと言うか、そういうことを信じたい。自分は嘘つかないで、そういうことを考えたり、行動することに気づくし、自信を持つ。
- 森本
- 自分はそうであって欲しいと思っても我慢したり、自分自身に嘘をついて同調しないと生きづらい世界だったり環境の人もいますからね。でもそこに自信を持ってほしい。
- 近藤
- その摩擦を含めて。
- 森本
- 全部つるつるで滑らかで摩擦がなくて、ちょっとも嫌なことなく生きていたらつまんなそうじゃないですか。でも私たちの世代かそれより上ほどその悩みを解決しようとしていることが、私たちのエゴというか、もしかしたら、私の娘ぐらいの世代は、もはや女・男とかそこに同調されたり、励ましの言葉があること自体不自然になっているかも。本の存在や私たちが表現してみたものがちゃんと伝わっていく世の中になっているのかなとは思うけどね。
- 近藤
- 今ちょうどそこにいる。だからこういう本が話題になったり、誰かの意見が欲しかったりするかもしれないけど、自分の娘を見ても、変わっていくというより、違う未来が開かれているような気がする。
*ジャンル・クロス供禧疇N品拭濔尚 周>『導かれるように間違う』は、7月10日(日)〜18日(月・祝)まで彩の国さいたま芸術劇場で開催されます。
*また森本さんも参加された「ガールズ・ビー・アンビシャス 一歩踏み出したいあなたへ贈る21のコトバ」は、集英社インターナショナルから発売中です。