「美しさ」とは?

Ryuji(ヘア&メイクアップアーティスト)×下村一喜(写真家)

2022

04.01

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帰国後に待ち受けていたカルチャーショック



下村
フランスから帰って来た時には、フランスモード、ヨーロッパモードになっていたので難しかったです。

Ryuji
よく分かります。帰国後、3年くらいはすごく大変でした。

下村
聞いてる方、海外風を吹かしている訳ではないんですよ!

Ryuji
海外にいる時は、日本人の良さを海外でどうやって生かしていこうか思うけど、日本に帰ってくると、外国人と同じ扱い。主張も強いし、思っていることを口に出すのが習慣になっているし。

下村
それをしなければいけなかったですしね。特に私たちの仕事は主張しなければいけない、どうして赤い口紅を塗らないといけないのかには理由があり、それを言わなければいけない、勝手に独創をするわけにはいかないので、主張しながらも和やかにしなくてはいけない、難しいせめぎ合いがありました。外国では喋らない人は意見のない人という感じですよ。

Ryuji
そうですね。戦えないですよ。ちょっと戦い癖も問題ですけど。

下村
戦い癖がついてしまって。

Ryuji
フランスとアメリカでは、考え方や表現も違うと思うんですけど、面白いと思うのは、言葉を駆使する文化とあって、巧みですよね。でも海外の方が憧れるのは、アジアの言葉でない文化、感性に凄く興味を持ってくださっていて、

下村
それは日本人が持つ素晴らしい高度なコミュニケーションでもありますしね。

Ryuji
TVコマーシャルとか見ているとよくわかるんですよね。アメリカのTVコマーシャルは、すごく商品をそのまま出すんですよ、分かりやすく明確に。日本だとストーリーがあったり、想像させる余地を残したクリエイティブで、北ヨーロッパだとちょっと違うんでしょうけれど、その辺の感覚が、暮らしていて面白いなと思いました。


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美の配合成分



下村
おじいさまが畳屋さんだったそうですね。

Ryuji
お寺に100畳とか敷く時に、畳を端から置いていくんですけど、スペースに普通には、ピタッとハマっていかないんですよね。端から真ん中に向かって、小高い丘みたいに盛り上がっていて、それを祖父が真ん中まで歩いて行って、最後、足でパっと踏むとピタピタピタとハマる、それが子供心に感動しました。サイズを測っても、気候で縮んだりするし、多分緩々になるんですよ。だからもう技ですよね。

下村
そのお話の原風景とRyujiさんがアイラインをバシッと入れた時のハマったというカタルシス、快感と言うか、そこの音が私に聞こえてくるような・・・。Ryujiさんがすごいウキウキになさっている時を何度も見ていますので、

Ryuji
ありがとうございます。

下村
女性の肌は、月の周期によっても違うし、それによってRyujiさんが使うファンデーションも違うと思いますし、

Ryuji
難しいですよね、僕らも生ものなので、ステキにしようという思いだけでは実はステキにならないんですよね。思いが一番なんです。この人をどうやってきれいにしようという思いがあればメイクアップアーティストは誰でもなれるというか、そこが一番重要だと思うんですよね。パーソナルなメイクに関して言うと可愛くなりたいと思っている人が一番可愛くなる。その思いが弱い人ほど可愛くなれない。

下村
同意見です。美の中の配合成分は成功することもそうだと思うんですけど、ある種のハッタリみたいな事も大切。”私、綺麗よ”と思ってる人は、それなりのオーラが出ますから。

Ryuji
そうですよね。そういう思いは大事ですよね。思いだけでは届かないところが技術や経験値、勘だったりするんですけど、そういうのが降りてくるとピタッとハマった感じはしますよね。写真も一緒ですよね。

下村
そうですね。

Ryuji
下村さんが素敵だと思うのは、撮りながら、”撮れた!”という瞬間があるじゃないですか、昔のフィルムの時代と違って、みんなで撮って、みんなでモニターを見て、シェアする時代になると、撮ってる本人よりも僕らみたいな外野の声が大きいことがあったりしても、写真家が被写体に向かって最大限の想いと技術を駆使して、この人を綺麗に撮ろうと思って「撮れた!」と叫ぶ時、あの瞬間はものすごいエクスタシーですよね。

下村
私、いつも思っていることは、撮影中はライブだから、ずっと放置していると、ぬるいお刺身とか、冷めたラーメンみたいになり、やっぱりイキがいいうちにお刺身を切って欲しい、もちろん時間をかける良さもあります。ただ私自身が長距離走の人間ではないし、方法論の話ですけど、なるべくイキのいいうちにコミュニケーションして、すっと表情をいただきます。


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