経験を重ねて分かったこと
Ryuji(ヘア&メイクアップアーティスト)×下村一喜(写真家)
2022
03.18
Ryujiさんは、2000年に渡米。ニューヨークを拠点に、『VOGUE』などのファッション誌や広告、CMを中心にアメリカ、ヨーロッパ各国で活躍されました。現在は、東京に拠点を移し、ヘアメイクのみならず、コスメブランドの開発アドバイザーやグローバルに展開するヘアサロン・グループのクリエイティブ・ディレクターも務めています。一方、下村さんは、2001年にフランスに渡り、「madame FIGARO」誌と契約。さらに、日本人として初めてイギリスの伝説的カルチャー誌「THE FACE」の表紙を飾るなど、在仏7年の間、ヨーロッパで活躍されました。帰国後は、国内外の広告・雑誌・CDジャケットなどのスチール撮影からCM・MVなどの映像ディレクションも手がけています。
メイクルームでの時間の大切さ
- Ryuji
- こんにちは。
- 下村
- こんにちは。いつもはスタジオでお会いしていますので、ちょっと新鮮な気分です。
- Ryuji
- この位置関係は恥ずかしいですね。知り合ってもう10何年ですが、向かい合ったことは初めてかもしれませんね。いつも隣にいるイメージですよね。モデルさんとか被写体を一緒に同じ角度から見ることが多いから、横に並んで同じ方を向いている印象が強いのかもしれないですね。
- 下村
- そうですよね。知り合ってもう20年近く、まだ、Ryujiさんがニューヨークにお住まいだった時ですよね。
- Ryuji
- あの時、下村さんは、フランスから帰国していらっしゃったんでしたっけ?
- 下村
- 私はもう帰ってきたジャストぐらいの時だと思います。出会いは、ファッション誌でしたね。
- Ryuji
- 冨永愛さんと外国人のモデルさんと一緒で、衝撃的でした。シャープでキーンなフォトグラファーがいる噂は聞いていて、初めてスタジオで一緒になった時、盛り上げ方が凄くて、写真を撮りながら、モデルさんがめちゃめちゃ楽しそう。今やそれが下村さんの代名詞になっているし、僕自身もそれに慣れていますが、やっぱり世界で一番現場を楽しくする人だと思います。
- 下村
- 世界で活躍された方に恐れ多いです。
- Ryuji
- 撮り出すとわっとバネがはねたみたいに盛り上げていくじゃないですか、それがすごいなと思いましたね。
- 下村
- あと、撮る時間も短いですよね。私、憚りながらメイクルームに入らせていただくんですけど、Ryujiさんは、そういう風に色を乗せられるんだとか、こういう口紅を塗るんだとか、その時点でももう出来上がっている。後は私がいかに掴み取るか。
- Ryuji
- あれが助走なんですね。
- 下村
- 私の意見ですけど、日本人のカメラマンの人よりも外国のカメラマンの方は絶対にメイクルームに入ってきますね。
- Ryuji
- 入りますね。そこは大きく違いますね。
- 下村
- どういうメイクをまとっているのか、ちょっと夜を感じる女性なのかミステリアスな女性なのか、ヘルシーなのかはリップの色一つでも変わるので、どういう女性を作ってくださるのかは、とても大切です。
- Ryuji
- 実は、ペラペラとしゃべって大笑いしているとメイクができないのでメイクをちゃんとしていく時は、意外と何も表情もない顔で、それで答えを出すと、実は外れたりするんですよね。笑顔を求めたり、逆にクールな顔を求めた時に自分のイメージと違うメイクになったりするから実はメイクルームでのあの時間が僕らにとっても助走で、下村さんが入って来て、喋ってくださった時の表情を実は、よく見ているんですよ。こういう顔になるんだというのをキャッチしながら、ちょっとアレンジしていく、実は僕らにとっても面白い時間です。
メイクには隙間を残す
この度、Ryujiさんは、メイクに対する思考法と自分の個性を活かすメイクのポイントをまとめた初の著書『嫌いなパーツが武器になる 1万人の顔を変えたプロのメイク術』を発表されました。たくさんのアドヴァイスが載っているのですが、その中でも特に、下村さんが興味を持ったのが、「メイクには隙間を残す」でした。
- 下村
- Ryujiさんがこの度、お出しになった本『嫌いなパーツが武器になる 1万人の顔を変えたプロのメイク術』にもメイクに隙を残すとお書きになっていて、深く納得しました。
- Ryuji
- 僕らの出来る事は、限られていると思っていて、写真に残そうが残さまいが、元々メイクは、パーソナルなもので、その人がいかに素敵に見えるのかを僕たちはメイクという作業に乗せてやるわけで、若い頃は、自分がやりたいことをキャンバスのように表現しようと目指していたのですが、
- 下村
- よくわかります。
- Ryuji
- メイクとは、不思議な仕事で、出来上がった0.1秒後から崩れが始まっていくんです。だからいかにどう綺麗に崩れていくか、そこが面白いところで、僕らが詰めれば詰めるほど表情が消えてくと言うか、今で言うと、加工した顔になってしまうと言うか、その人の表情とかムードを残しながらメイクをしていく。逆に言うと、上手すぎるメイクさんはダメという言い方は変ですけど(笑)。上手すぎない方がいいんじゃないかな。
- 下村
- Ryujiさんは、親密だし、美しいし、モードもナチュラルも全て表現なさるじゃないですか。隙をひとさじ残しておくことは、その人の魅力ということですよね。私が写真というアウトプットの表現をまだ持ってなかった時に絵を描くように写真を撮っていました。モデルさんを固めて自分の理想像のように予定調和で、1ミリも動かないで!というような形で撮っていたんですね。ある日、それが、間違っているよりは、面白くないことに気づいたんです。だったら油絵でいいじゃない、何千分の1秒で撮れる瞬間を切るのに。そこからは相手からも、そして、もちろん全部のスタッフからもいただく形になりました。
- Ryuji
- 全く同じですね。やっぱりインタラクティブでないと僕らの仕事はいけないんだね。
- 下村
- インタラクティブと言いますと?
- Ryuji
- モーションでも何でも相手のものが入ってきて、混ざって初めて形になると言うか、最初のうちは、思いも強いし、なかなか気がつくまでに時間もかかるし、委ねるのは怖いと言うか、自信も必要。
- 下村
- 経験も。
Ryujiさんの著書『嫌いなパーツが武器になる 1万人の顔を変えたプロのメイク術』は徳間書店から発売中です。