井浦新の思春期の恋
井浦新(俳優)×今泉力哉(映画監督)
2021
10.08
共に日本映画界で、引っ張りだこのお二人。10月15日に公開になる映画『かそけきサンカヨウ』で初めてタッグを組みました。幼い頃に母が家を出て、父とふたり暮らしをしている高校生の少女が主人公。現代の「父と娘」、そして「家族」の姿を描いた作品です。今泉監督は、この原作を読んで、自ら映画化を希望しました。
役者の佇まいが問われる作品
- 今泉
- 今回、原作の窪美澄さんの『かそけきサンカヨウ』は、一つの小説の中にある短編ですけど、父子家庭、お父さんと娘がいて、お母さんが小さい頃に離婚していなくなり、父親の再婚を機に家に新しいお母さんと連れ子が来て、新しい家族ができていく話で、よくある話だったら、やっぱりそこに確執があったり、嫌悪感を抱いたり、葛藤したりと、それだけになりがちだったり、そこで衝突があると思うんですけど、この話は、最初に会った時から、妹になる子に対して何かしらの愛情をもっていたりとか、小さい時に家を出たお母さんに対してもどうしてだよって気持ちもあるけど、今、画家をしているお母さんの画集を持っていたり、画家としての憧れを持っていたりとか本当に一つの関係性の中、人間と人間の関係に葛藤もあれば愛情もあって、すごくその辺が簡単なわかりやすい衝突ではなくできていて、優しさだったり、正直さみたいなのも凄い大事にしている話な気がして、そこに惹かれました。大人、子どもみたいに上下ではなく、同じ目線で話してる場面がたくさんあって、それは原作でも惹かれていたけど、映画になったらこんなに本当に同じ目線で話してるだとより気づかされたような気がしました。
- 井浦
- この原作も脚本も僕が感じたのは、自分にも起こり得ていることであって、隣の家でもそうかもしれない。だから、何かすごい特別なことが起きているわけではなく、どの家でもどんな人でも起こり得ている環境の中の物語だなと思ったんです。特別でないからこそ大きなことは起きていないんですね。でも起きてないけど親子であり、親友たちであり、人と人との関わり合いだからこそ、間違いなくたくさんの事は起きていて、それを文字で読むのと撮影中、現場で言葉を交わし合っていくことで、静かだけれども心はものすごいざわついたりとか、実際に仕上がった作品を見た時は静かな静かなシーンだけど、見てるほうも緊張したりして、大きなドラマティックなことは起きないけれどでも小さな人と人との出来事がたくさんあるからこそ役者の佇まいがすごい問われる作品だなと最初に感じました。結果、見た時に一人一人の登場人物にしっかり目がいくのは、出番の回数ではなくて、一人一人が抱えているものが浮き立ってくるので、それが重なり合ってちゃんと物語になっていると思って、そこをちゃんと感じることができました。
両思いのはずなのに
映画『かそけきサンカヨウ』では、現代の家族の形以外にも思春期の若者たちの揺れ動く恋愛感情も描かれています。恋愛映画の名手とも言われている今泉監督がズバッと、井浦さんの思春期の淡い恋のお話を引き出してくれました。
- 今泉
- 新さんの恋についても聞きたいですよね。
- 井浦
- 僕、全然ですよ。映画のような思春期もなく・・・
- 今泉
- 若い時から芸能の仕事をしていたのもあるんじゃないですか?
- 井浦
- そうではなくて、僕は思春期に芸能への憧れを全くもってなかったら、僕の育った環境は、東京の郊外の中でもさらに山側で、昭和の大きなニュータウン、巨大な住宅地をどんどん作っている場所。坂のある環境で、家がたくさんもあって、それ以外はたまに東京でも鹿が出たり、カブトムシもクワガタもいる自然豊かな場所だったので、僕の思春期はただの猿でした。
- 今泉
- (笑)。
- 井浦
- 外でとにかく遊んだり、部活だけとか、
- 今泉
- 部活は何をしていたのですか?
- 井浦
- 小学校から中学校の9年間サッカーでした。性格なんでしょうね、いろんなポジションではなくて、9年間ゴールキーパーだけをやり続け、結構ガチでやったので、高校の時にちょっとはじけてしまい全く違う世界を見たいと思って、ヒーローものへの憧れがあり、突然、体操部に入りました。人間があんな風にくるくるまわれるなんて夢みたいだ!みたいな。高校の3年間はとにかく部活しかしていなかったです。部活か自転車で通っているかの記憶しかないですね。
- 今泉
- 恋愛はなく?
- 井浦
- 恋愛は下手で、なかなか映画のような感じではなくて中学校の3年間も好きになった女性を両思いだとわかったんですけど、6年間サッカーしかしていなかったので、両想いでちょっと満足してしまったから、一緒に帰るとか発想になくて、両思いだと分かった時点で終わってしまって、そしたら、もちろん、進展がないですし、経験も想像力もなかったので、思い続けることしかできないから、3年間一度好きになった人をずっと好きなままでいるしかできなかった。
- 今泉
- 片思いと思ってた人と両思いになった時に嬉しいよりも、それを求めてた、それがもう手に入ったみたいな。その先がわからないのもすごく想像はできますね。
- 井浦
- 猿でした。ゴールキーパの山猿でした(笑)。
映画『かそけきサンカヨウ』は、10月15日よりテアトル新宿ほか全国ロードショーになります。