井浦新と今泉力哉の映画論
井浦新(俳優)×今泉力哉(映画監督)
2021
10.01
映画「かそけきサンカヨウ」撮影秘話
10月15日より公開になる映画『かそけきサンカヨウ』で初めてタッグを組んだお二人。今回は井浦さんが、今泉組の現場の様子を教えてくれました。
- 今泉
- この間、原作を手掛けた小説家の窪美澄さんとお話しして、映画を見た感想を聞いた時に、窪さんが何度も「違和感がない」とおっしゃっていて、それが一番、作品に対して嬉しいことだし、俳優さんに対しても、褒め言葉というか、みんなが温度をすごく理解してくれたり、作品の方を向いてくれて、ありがたい現場だったと改めて感じました。
- 井浦
- 本当に嬉しいお言葉ですけど、娘とお父さんの二人のシーンは、見終わった後、すごい異質だったと思いました。キャスティングや世界観の違和感のなさは嬉しいですけど・・・。
- 今泉
- それは良し悪しどっちもですか?
- 井浦
- 良い方で、やっていることは静かな父と娘のシーンですけど、不思議なシーンだなと思って。
- 今泉
- 映画はどのシーンもですけど、表情を撮ることを含め、編集で作られる時間もあるので、ワンカットで現場で流れている時間とお客さんが見る、映画に残ってる時間が一緒、全部がそれで構成すべきだとは思わないんですけど、あのシーンも表情を見たい人もいるかもしれないですけど、それよりも同じ時間を経験して欲しかったり、あの時間をお客さんが見られるのはすごい幸せだと感じます。「愛がなんだ」を撮ったぐらいから、山場のシーンをずっと割らなくなってきて、映画に一箇所くらい長回しシーンを入れていますね。毎回作品に合ったこと考えながらですけど、編集は、間も調整できたり、いろんなことをより良くするためにするんですけど、なるべく料理でいう素材そのままを差し出せないかと、どんどん思うようになって、俳優さんはもちろん、カメラマンさん、照明、録音、みんなより大変だと思うんですけど、それに自分は惹かれている部分がありますね。最近、撮った映画も山場がなぜか、12分間ワンカットになってるらしく、ちょっとヤバイんじゃないみたいな(笑)。 現場でチェックした時、あれ?こんなに長かったっけ、みたいな。みんなの緊張感が伝わってきて、やっぱりワンカットでないと成り立たない時間になっていました。
ワンカットとカットバック
志田彩良さん演じる、高校生の陽と井浦さん演じる父親の直。陽が幼いころ、母親が出て行ってしまい、父と子の二人暮らしをしていたんですが、ある時そんな生活に変化が訪れます。4歳の連れ子、ひなたとともに菊池亜希子さん演じる、父の再婚相手が現れ、4人の新しい暮らしがはじまります。
- 井浦
- ワンカットは、俳優にとってもその瞬間に全部を閉じ込めさせてもらえるので、だいぶ挑戦にもなりますし、監督の「OK」が出た時、現場の一体感が生まれたり、マイナスよりも本当にプラスになることが多いけれども、ワンカットばっかりをやっていればいいというわけでもないし、毎回ワンカットでやるのもだいぶ魂も使うし、俳優がちょっと違う動きをし始めたら、照明部も撮影部もみんながドタバタとなるし、でもその緊張感含めて、そこでしかないものを確かに閉じ込められるから僕は好きなんですけども、対比するものとして、今泉監督はどういう時にカットバックを使いますか?
- 今泉
- この映画でも座って喋っている時間がたくさんあるし、カットバックも多いんですけど、二人で喋ってる時のそれぞれの寄りの表情だったりを取って切り替えしてお互いが喋ってるところを写すのをカットバックというんですけど、編集点では逆に1ショットだからこそ、喋ってない人の表情を撮ったりすることができるのがカットバックの一つの魅力だと思うんです。本当に聞く人の表情を見せたい時の方がカットバックを使うかもしれません。だから、今回もカットバックもシーンは凄い時間かけて編集していて、普通にしゃべってる人を見せるというシンプルな詰め方ではなくて、特に大人と話している表情を見たいけどやっぱり聞いている子供の表情が見たいシーンがすごい多かったので、喋り終わって切り返すちょっとした間すらも全部時間になっていくのでそこは編集さんと時間をかけました。現場で長回しの芝居を先に決めたわけではなく、段取りやお芝居を見て、これはワンカットだと現場で決めたりしてました。カットバックに関しても基本的には現場で決めたり、基本はツーショットも寄りも全部一連の方が、役者さんは気持ちが繋がったり、お芝居もしやすい、もちろん何度もやる大変さはあるけど、その方が気持ちが作りやすいと思っているので、プロの俳優さんはみんなどこからやってもできると思うんですけど、基本的には通して撮る。みんなである種、気持ちを作りやすくするのは現場でやってますかね。
- 井浦
- 監督が全てを料理するからこそ、編集でカットバックが随所に散りばめられるから、例えば、陽が帰って来て、ひなたを突き飛ばすとシーンの前、映ってはないけれど、菊池さんの「アイスコーヒー飲む?」がすごい効いてたりして、すごい残るんですよね。現場では菊池さんは全部撮ってて、声だけが来るから、ちゃんと居るんだな、その抜き差しではないですけれども、一連のカットバックと、でも撮っても敢えて使わない、その引き算の妙は、随所に効いている箇所がたくさんありました。
- 今泉
- 本当にずっと編集は迷いますね。編集さんがOKテイクだけではなくて、NG テイクも見てくれる方なので、同じセリフでも最後まではいけてなくても前半のここは良い芝居してる可能性もあるので、それは確認しながらやってますね。
- 井浦
- そうなんですね。
映画『かそけきサンカヨウ』は、10月15日よりテアトル新宿ほか全国ロードショーになります。