ありのままでいいわけがない!

林真理子(作家)×柴田陽子(ブランドプロデューサー)

2021

09.03

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仕事の流儀



柴田さんは仕事に対して、絶対に妥協しないし、女性社員の方とも何がいけないのか、もっと改善できるかを話し合っていますよね。バブルの頃、空間プロデューサーといえば、ちょっとコンセプトを言って、「いいね」みたいになり、やりっ放しみたいな雰囲気もあって、お金は稼いだけど、そのまま風と共に消えたみたいな感じ。でも、柴田さんは、ちゃんと実績もあって、この若さであれだけビッグな仕事をしていると、帽子をかぶったおじさんとか、一癖ありそうなデザイナーの方とは、どうやって仕事を進めていくんですか?

柴田
建築家の図面に赤を入れて直すと、プライドが傷つくから、「ここで目を閉じれば、鳥の音が聞こえるような開口ですか?」という一番崇高な言葉でみんなをまとめるって言うか、

素晴らしい。柴田さんがブランディングを手掛けた「パレスホテル東京」、昔は、よく賞の選考会で使ったりして、今は見違えるようになりましたよね。あそこが大好きで、相撲やお芝居を見た後、コーヒーハウスに入って、サラダを食べて、シャンパンを飲むのに、ぴったりのお店。上のお店も全部手掛けているのですか?

柴田
全部です。私にホテルの実績がなく、今の小林会長からも「大丈夫か?」と心配されたんですが、3年ぐらいかけて、皆さんと一緒にやりました。開業からもうすぐ10周年ですけれど、私が社員に言っているのは、1回仕事を頼まれても絶対に喜んではいけない。同じ人と仕事をした後にもう1回頼まれた時に自分たちは良い仕事ができたと思ってもいいと言ってるんですけど、パレスさんは、ドメスティックのブランドの中で一人勝ちで、総支配人含め社員の皆さん、「どんな夫婦ケンカをしようが裸足で家を飛び出してこようが温かいスープとお部屋は用意するからね」と言ってくださっていて、そういうクライアントがいっぱいあちこちにできることが本当に嬉しいです。

今は、パーティーでも、みんな「パレスホテル東京」に行くよね。外資よりパレスって感じ。

柴田
本当に外資に負けない空間と小林会長が皆さんを社員にしているところもあり、閉館している間も一人も解雇せずに全員を雇い続けたり、石の床の目地を掃除する人も社員だとか、日本人ならではの温かい気持ちが合致して、お客様がリピートする、パレスホテルが好きと言ってくださります。

この前、泊まったけど、真っ白いリネンは、すごく良かった。テラスで美味しいパンとジュースで最高の朝ごはんでした。


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頑張れば頑張るほど、素敵な人に会える



共に第一線で活躍を続け、新しいチャレンジにも取り組むおふたり。林真理子さんは著書「野心のすすめ」、そして柴田陽子さんは「勝者の思考回路」で、ともにたゆまぬ努力の大切さを語っています。

柴田さんの本を読ませていただいて素晴らしいと思ったのは、私の「野心のすすめ」が発売されたのが、8年くらい前で、結構売れたんですよ。今はまた時代が変わって、コロナがあると凄く慰撫されることを望んで、あなたはあなたのままでいい、生きているだけで素晴らしい、ありのままでいいという歌も流行ったけど、私は母親が90歳代の終わりに「そんなの嘘だ。こんなことを思ったらいけない」と言われたんですよ。そしたら、柴田さんが本の中で「ありのあまでいいはずがない」と同じ事を言っていて、ありのままでいいのは、耳にはいいけど、そんなはずないもんね。

柴田
そんなはずないですよ。人間だから自分の頑張れる成長の角度を測って、その角度の少し先に目標をおいて、一個ずつできるようになって、人にできることが増えると本当に楽しいとみんなにも言っています。

風景も違ってくるしね。ありのままでいいと言うけど、やっぱり、ありのままでいいと思っている人は必ずこのままの私でいいのか中年ぐらいになると、自問自答を始めて、それが残念だと思うんですけど。

柴田
そういうメッセージを私が発すると、「でも柴田さんだから」と言われるんですけど、もっと頑張らないと駄目ですね。

私、ネットの人から負けず嫌いとか言われ、すごい嫌われているんだけど、ネットで人の悪口書き込む時間あったら、なんかしたらいいと思うんです。でもあれで自己達成しているのかもしれない。

柴田
人の事を言っている暇は全くないですよね。頑張れがば頑張るほど、素敵な人に会えるし。

本当にそれはありますよね。

柴田
そうすると、まだまだだなと思うし、やっぱり頑張ると周りの景色が違って、

そうなんですよね。すごく知的な人たちに会うと、知性と教養が本当にないと思ってすごく落ち込むの。今更どうやったらいいのだろうかと思うと、せめて本を読んでとか、いろんなことは思いますよね。付け焼き刃でもいいからこうしなきゃとか。

柴田
でも林さんは、何であんなにいろんなバリエーションの本が書けるのかびっくりします。

ありがとうございます。書くのが好きだと思います。私がデビューした頃は、例えば「不機嫌な果実」を書くと、不倫小説が上手いとか言われ、私はこれだけではないと反発しますよね。あなたが思っている私ではありません!みたいな。とにかく次に自分に何ができるだろうかいつも考えているかもしれない。

柴田
期待にも答えて、お題に果敢にチャレンジして、気がつくと引き出しがいっぱいになった感じですか?

まだまだいっぱいにはなっていないけれども、今日もちょっと別の小説のゲラ読みをしてたんですよね。大正時代の皇族の話ですけど、面白いなと思って。ネタがいっぱいだからこれでしばら3、4作書いて、一冊の本にしましょうかとか話がまとまっていくのがすごく楽しいですね。


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