ファッションが持つパワー
コシノジュンコ(デザイナー)×立川直樹(プロデューサー、ディレクター、音楽評論家)
2021
08.13
日本のファッションの黎明期以前から、洋服に向き合っていたコシノさん。そんなコシノさんに、世界を見てきてからこそわかる日本人のファッション感覚について教えてもらいました。
日本の四季のおかげ
- コシノ
- 立川さんは、いつも自分のスタイルを決めていますね。スーツがちょっと薄いベージュかグレー、それにTシャツ。1年中一緒。
- 立川
- 考えてみたら何十年もそうで。
- コシノ
- 他のプリントは似合うはずもないし、ひとつのスタイルね。そういう人は意外に少ないですよ。自分を知っている、やっぱり服装で人が決まるんですよ。
- 立川
- ファッションはそう考えると、すごい大事ですよね。
- コシノ
- 私はなんでも着てしまうけど、やっぱり居心地が悪いのはあるし、本当にピンとくるというか勘、センス、見えないものですよ。それがピタッとくると、もう何でもできるぐらい自信にもなる。着るものが決まると違いますよ。
- 立川
- 着るものは選ぶ時に合わないものを着たら、嫌な感じはすごくあるじゃないですか。
- コシノ
- ちょっと間違える時、たまにあるよね、居心地が悪いの。
- 立川
- 色、形とかファッションは服だけではなくて、その服を構成する全てが、その服に凝縮された気がする。
- コシノ
- これは着てみないとわかんないんですよ。人のことは言えるけど、自分の事はわかんない。でも鏡は、正直です。鏡を見ると、絶対わかるはずです。だから、自分を客観的に見られるわね。それと、四季があるのが日本の良さです。寒い冬でも必ず春がやってくる、ほっといてもいつの間にか春がやってくるの。コロナで、本当にみんな大変で、家からも出られないし、パニックになっている時に、普通に、にっこりと笑って桜が咲いているのね。四季は気持ちを取り替えるわけだから、そこについていかなきゃいけないでしょ。その対応性が日本人にはあるわけですよ。子供でも誰でも真夏にTシャツを着ていても、だんだん寒くなっていくんだもん。精神的にも肉体的にも取り替えるわけだから、日本の成長率の凄さは四季に感謝だと思う。
表現としてのファッション
- 立川
- ちょうどジュンコさんが60年代にタイガースの衣装を担当しましたよね。僕はその後、タイガースの野外コンサートの舞台美術を手がけていたんですけど、ミュージシャンの衣装は、与える影響力が独特じゃないですか。
- コシノ
- グループサウンズの人たちは、ほとんど私がやったでしょ。他にいなかったというのもあるけど、メンズの服を作っているわけでもなく、レディースを作っているわけでもなく性別を考えたこともなかった。とにかくかっこいい服を作る。
- 立川
- 今、話しを聞いて思ったんですけど、かれこれ10年近くになるけど、二人で仕事の現場で会うようになったのは「DRUM TAO」。その衣装も男とか女とかではなく、カッコ良くて、アバンギャルドでもなく、ファッショナブル。
- コシノ
- 「DRUM TAO」を初めて見た時にそんなに和太鼓が好きじゃなかったんですよ。だけど見てと言われ、仕方なく行ったら、2011年の時で、ちょっと暗い気分の時だったんだけど、この人たち、衣装を変えたらすごいことになると急に目覚めちゃったわけ。
- 立川
- 僕も最初は見てみてと言われて、和太鼓かと思ったからきっかけは同じだったんですね。もっと和太鼓でロックっぽいフィールドに持っていったらどうだろうと考えていたのね。
- コシノ
- あれだけ立体的に表現できるチームは、本当にチームワークがいい。今までヴェルディのユニフォームとかバレーボールユニフォームとか、いっぱい手掛けたけれども、チームの強さはあるんですよ。それは連帯感っていうのかな。心が一つになる、それがユニフォームのユニなんですよ。同じ精神にいることは着るもので一致する。
- 立川
- ユニフォームが大事だと思ったのは、5月の終わりに日本でもデビット・バーンの新しい映画「アメリカン・ユートピア」が公開されたんですよ。それがグレーのユニフォーム。ミュージカルの文脈でロックのコンサートを作ったらどうなるのかと出来上がったブロードウェイのショーをスパイク・リーが撮った映画なの。
- コシノ
- 「DRUM TAO」もやっとブロードウェイに進出した。N.Yの人が言うのに、日本のショーはいろいろくるけど、本当に心からニューヨークに合っているのは少なかったから初めて感動したと。やっぱり、日本にこだわり過ぎてもつまんないし、新しい事に挑戦しないとダメね。
- 立川
- しつらえが大事。見え方も精神性も含めた。
- コシノ
- やっぱり、新しいものに常に挑戦することですよね。だから服装は、ミュージカルだけでなくて、音楽も聞きに行くより見に行く、見栄えがしないと聞きばえがしないですよね。
- 立川
- 見栄えというと、人は見かけですよね。
- コシノ
- そうですよ。言わないけど、感じているもんね(笑)。