言葉と感情の関係
小野リサ(ボサノバシンガー)×渡辺真理(アナウンサー)
2021
07.09
10歳までの幼少時代をブラジルで過ごし、15歳からギターを弾きながら歌い始めた小野さんは、1989年に全曲ポルトガル語のアルバム『カトピリ』でデビュー。「日本人初の本格的ボサノバシンガー」として注目を集めました。そんな小野さんと30年来の友人である渡辺さん。一緒に海外旅行をしたり、家族ぐるみのおつきあいもされている中で、今回は、普段は改めて聞くことはなかった音楽の話となりました。
言葉にのせて伝える
- 渡辺
- 出会いは、「カトピリ」の時だったと思うの。
- 小野
- 「カトピリ」を出したのが89年。だから32年ぐらい経っているみたいよ。
- 渡辺
- 私、「カトピリ」をものすごくヘビーローテーションで聞いていたもの。
- 小野
- ありがとうございます。当時は、ボサノバをポルトガル語で歌うことにすごいこだわっていて、でも今は日本語でも日本の名曲を歌うようになって、少しは大人になったかな。
- 渡辺
- 何か変化があったの?
- 小野
- 海外でアルバムを作るけれども、リリースする場所はいつも日本だったし、私の音楽を聴いてくださるのは日本の方だったり、震災があって、日本の歌も歌っていきたいなと思っていたんだけど、日本語で歌うことがすごく難しくて。
- 渡辺
- そうなの?
- 小野
- ポルトガル語はそんなに感情を込めて歌わないのね。
- 渡辺
- 喋っているみたいに歌うしね、歌うように喋るもんね。
- 小野
- 鼻歌みたいに歌っていたのが日本語だとそういうわけにはいかなくて、言葉一つ一つをすごく大事に歌わないと伝わらないって言うかな。
- 渡辺
- 私も滑舌はすごく苦労するんだけれど、発音や言葉が違うの?
- 小野
- 違うことがわかって、特訓しまして・・・。
- 渡辺
- どうやって特訓するの?
- 小野
- 何回も歌う。一つ一つの言葉とか、いろんな歌を聴く。一番聴いたのは、ちあきなおみさん。ニュアンスとか言葉とか、一つ一つの分け方とかを聴いた。でもアナウンサーは、滑舌や話し方は、どう勉強したんですか?
- 渡辺
- アナウンサーの仕事は、スポーツの実況や報道でニュースを読むこと、情報番組でお伝えすることも違えば、外でレポートを中継することも、同じフィールドでも違うと思うんですね。アナウンサーでも何か伝えることがあって、それを伝えてきているので、私は0から自分でこれが面白いと思うことを伝える、自分の事を伝えるのはものすごく苦手なの。
- 小野
- 例えば、ニュースを読む真里ちゃんはどこか違うなとずっと思っていて。
- 渡辺
- うまくないからだよ(笑)。
- 小野
- パーソナリティーだと思う、プラスアルファ、天然のキャラクター!
- 渡辺
- すごく大雑把にまとめると、変わっているんだよ、私たち。
- 小野
- そうかもしれない。
- 渡辺
- だから合うと思う(笑)。
日本語は難しい?
- 渡辺
- リサが日本語をそんなに特訓したと聞いて、びっくりした。それぐらい努力が見えないのは素晴らしいことだと思うの。
- 小野
- でも難しかった。自分は喋るのに歌う時になると全く日本語は違うから。
- 渡辺
- 私は歌ってないからそこがわかってないかも、何が大変なの?
- 小野
- 例えば、「悲しい」という言葉。音に合わせる時、「悲しい」の「しい」をもう少しソフトに歌うとか、アナウンスする時は、そういうことは考えている?
- 渡辺
- いろんなアナウンサーの方がいらっしゃるので私だけですけど、「悲しい」や「嬉しい」を乗せるということを引いてやっているかも。体温はのせようと思う、機械が話しているんじゃなくて、人がマイクの向こうにいらっしゃる皆さんに向けて、体温はのせようと思うけど、いつ誰がどこでどうしたというニュースの場合、例えば、事故でも事件でも被害者の方も、加害者の方も、そのご家族も、その周辺の方も、第三者の方もいらっしゃるから、私にとっての理想系だけど、できるだけニュートラルに水のようにお伝えしたいと思ってしまう。だから私でなくてもいいのよ、そこに何か悲しみだったり、喜びだったり、感情が乗らない方がいい気がしているの。だから、もしかしたら逆かもね。アーティストの方が何かを表現するのと違い、表現しようとしていないのかも。
- 小野
- 私の場合は、感情を込めているつもりでも、そんな込めた風には見えない。
- 渡辺
- そこが素晴らしい。
- 小野
- いろんな人の気持ちを考えた時に、ボサノバのいいところもそこに似ていると思って、同じ曲をすごいハッピーな人が聴いた時と、すごいアンハッピーな人が聴いた時と、その曲は同じようにその二人を包んであげられる。ハッピー人はもっとハッピーになって、アンハッピーな人は少し気持ちが楽になる。
- 渡辺
- 押し付けがましくならないのがとっても難しいんだろうね。表現しないようにしても、音声を出しているだけでも表現にはなっているからね。これが個性ですと言わなくても、もうそこにいることで、みんなものすごく素敵な個性があるわけだから。
小野リサ "Fly me to Brazil…”は、7月9日から12日まで、場所は、Blue Note Tokyoで開催されます。また、シャンソンの祭典「第59回パリ祭」がBunkamuraオーチャードホールで、7月13日と、14日開催され、小野さんは、14日にゲスト出演されます。