「ボレロ」を舞う、その思いとは?

芦田多恵(ファッションデザイナー)×柄本弾(バレエダンサー)

2021

06.18

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ファッションと、バレエ、それぞれの分野で、第一線で活躍をされているお二人にこれまで続けてこられたモチベーション、原動力についてうかがいます。

完成されてないからこそ頑張れる



芦田
今年、私、30周年です。

柄本
おめでとうございます。

芦田
5歳からファッションデザイナーとしてやっていますから(笑)。

柄本
どういう状況ですか!

芦田
びっくりの30周年ですよ。時が経つのはあっという間ですよね。

柄本
僕は、30周年の足元にも及ばないですけど。

芦田
まだ生まれて30周年プラスアルファくらいでしょ?

柄本
そうですね。 31周年くらい(笑)。僕、東京バレエ団に入って13年になるんですけど、そう考えると、まだ僕は、13年ですがあっという間だとすごく思いますね。

芦田
弾さんのモチベーションはどこにありますか?

柄本
自分に自信がないからこそ続けていけますね。絶対にここは負けたくないとか負けてないと思うところもあるんですけど、バレエは芸術なので自分が完成されてないと思えるからこそ次のために頑張れる。

芦田
わかります。私もコレクション毎に完成されてないんですよ。ああしておけばよかったとか、あれが足りなかったとか、すごい反省点が多いから、絶対に次はこれよりもいいものを作らないといけないというのが原動力になっているかもしれない。確かに同じかな、全然分野は違うけれど。でもやっぱり公演が終わった後の達成感はあるんですよね?

柄本
達成感とちょっと悔しい思いは絶対に両方ありますが、達成感を完全に食いつぶされるぐらい悔しい思いしかなかった時はありましたね。僕が初めて「ボレロ」を踊らせてもらった時が2015年の夏、その時が野外で、ちょっと小雨が降っているような状況で、憧れの「ボレロ」のデビューの時に自分が思ったように動けなかったんですよ。「ボレロ」は赤い円卓の上で裸足で踊るんですけど、水が溜まって滑らないように踊るのが必死で、開始30秒くらいで心が折れて、最後まで踊りきれるかなと自分の中でも心がボロボロの状態で、悔しくて、その時は本当に達成感は、何ひとつなかったですね。

芦田
私の友人がその公演を見ていたのですよ。そして「もう完璧だった」と、彼女はそれを見て弾さんの大ファンになったんです。

柄本
「ボレロ」はなかなか踊れるものでもないので、舞台が終わって、袖にはけた瞬間にその場で泣き崩れました。悔しかったですね。


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『ボレロ』を踊ることを許されているただひとりの日本人男性ダンサー



「ボレロ」といえば、「バレエ界の革命児」や、「20世紀最大の巨匠」など讃えられるモーリス・ベジャールの不朽の名作。柄本さんは、この「ボレロ」を踊ることを許されているただひとりの日本人男性ダンサーです。東日本大震災時には、「100年にひとりの天才プリマ」といわれるバレエ界のスーパースター、シルヴィ・ギエムが、「日本を応援し元気づけたい」という呼びかけに応えて、〈HOPE JAPAN〉と題した「ボレロ」を含むツアーで、全国各地を巡演しました。あれから10年。東京バレエ団は再び立ち上がり、全国ツアーを展開します。

柄本
僕、「ボレロ」を踊らせてもらうのが、すごい久々で、多恵さんもよく、弾さんの「ボレロ」を観たいと言ってくださっていたんですけど、

芦田
「ボレロ」いつ?とずっと言っていましたよね(笑)。

柄本
今回、やっと、その夢が叶って。

芦田
楽しみです。

柄本
「ボレロ」を踊らせてもらうのは3年ぶりぐらいですかね。そこから「HOPE JAPAN」のツアーがスタートして、東京から愛知県と山口県、群馬県に、京都府、最後は福島で、ギエムさんが東日本大震災の時に「HOPE JAPAN」のツアーをしてくださって、その時も福島があったんですけど、そのギエムさんが踊られた「ボレロ」と思うとプレッシャーですが、ちょうど東日本大震災から10年で、僕自身も久々の日本ツアーでもありますし、何より「ボレロ」は、皆さんに力を与えられます。

芦田
「ボレロ」は、特別ですよね。本当に感動的だし、私も昔、ギエムさんのを観たことがあるんですけど、どんどん盛り上がっていくじゃないですか、やっぱりエネルギーが湧いてくるような特別なバレエですよね。

柄本
そうですね。本当にすごい特別で、東京バレエ団は昔からベジャールさんの「ボレロ」をやらせていただいていますが、基本的に男性は全員出るんです。メロディーが円卓の上で踊る一人の人で、周りがリズムと言って、リズムも、1から6までの順番があって、ちょっとだけ本当に立っているだけのような人がいるんですけど、東京バレエ団に入ったら、その立っているだけのエキストラみたいなところから、踊れるところがどんどん上がっていくんです。

芦田
一人になれるのは、もう氷山の一角なわけですもんね。

柄本
その一人にすごい憧れて、他のダンサーもみんなそうだと思うんですけど、いつかあそこで踊りたいと思ってた場所を本当に踊らせてもらえてるので。

芦田
しかも弾さんが、ベジャールの「ボレロ」を踊ることを許可されている唯一の日本の男性バレエダンサーなんですもんね。

柄本
そうなんです。「踊らせようと思っている」という話をちらっと頂いた時に、信じられなさすぎて3回くらい聞き直しましたね。本当に世界のスーパースターダンサーたちと同じ演目を踊れるというのは、

芦田
スーパースターの一人ってことですよ。

柄本
そんなことないんですけど、

芦田
本当に楽しみです。

柄本
ありがとうございます。


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東京バレエ団全国ツアー HOPE JAPAN 2021 -東日本大震災10年 コロナ禍復興プロジェクト東京公演は、7月3日(土)と 7月4日(日)に上野にある東京文化会館で開催されます。

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