小説を映画化するということ

河瀬直美(映画監督)×辻村深月(小説家)

2020

10.30

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「リアリティ」を追求するスタイルで世界中の映画祭で高い評価を受けている河瀬さん。そして、直木賞・本屋大賞受賞のベストセラー作家、辻村さん。河瀬さんが、辻村さんの小説「朝が来る」を読み、その世界に共感し、映画化を実現。先日から、公開になりました。長く辛い不妊治療の末、自分たちの子を産めずに特別養子縁組という手段を選んだ夫婦と、中学生で妊娠し、断腸の思いで子供を手放すことになった幼い母の2つの人生を描いたストーリー。本来は交わることがなかった、広島で暮らす、産みの親ひかりと、東京のタワーマンションで暮らす、育ての親、佐都子。さらに、「特別養子縁組」で、迎え入れられた息子、朝斗の視点が交錯しながら家族の絆や血のつながりについて、様々な葛藤が描かれていきます。

これまでにない河瀬監督のチャレンジ



河瀬
小説で描かれていたエピソードは、尺の問題もあるし、全部は映画には入れられないので、脚本を読んだ時に小説から外された部分には違和感はなかったですか?

辻村
なかったです。ほぼセリフが違ったり、感情面のことで省かれたシーンがあっても、原作で私が必要だと思って入れていた主人公たちの気持ちの流れとかはほぼ全て脚本の中で採用してくださって、実際、撮影が始まってからもカメラが回っていないところで原作では1行で終わるようなシーンを演じてくださってたのを後からスタッフの方から聞いたりして、原作の全てがその登場人物たちを生きるためのヒントになるぐらいのすごい執念と、何も無駄にしないという感じを受けました。それを皆さんがたどってくださったおかげで、登場人物それぞれを実際に生きている人物として見ることができて小説家としてこんな幸せなことないと思いました。

河瀬
今回、私の映画では珍しいんですが、ロケ地6箇所で撮影をしました。それは今までの作品ではなかったことで、ある種の対比で、ひかりと佐都子の暮らしている場所の対比、そこは明確にビジュアルで見せていくことで、その先の物語、決着ポイントで明らかに出会うはずのない人たちが出会っていく過程において、何が必要だったかみたいなことが見えてくると思って。原作ではないけど、私の故郷の奈良も入れさせていただいたのですが、それは大丈夫でした?

辻村
河瀬さんと最初に会った時から、友達同士みたいにやりとりを重ねさせてもらったり、奈良でのトークショーに呼んでいただいたり、河瀬さんが地元として暮らしている奈良県をちょっと見せていただける機会があったので、ひかりの中学時代を過ごす場所が奈良県になると聞いた時に河瀬さんが見知った景色の中にあの子のことを入れてくれるんだと思ったら、すごく嬉しかったんですよね。知らない景色ではない、河瀬さん自身の場所でひかりを迎えてくれるのは、ひかりを生み出した親としてすごく安心して預けられる気持ちがあって、すごく嬉しかったです。

河瀬
ありがとうございます。


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子どもの感性の育て方



辻村
映画のサイトを見ていて、その時にたまたま小学校3年生の息子のお兄ちゃんが来たので、「これ、お母さんの小説が映画になったんだけど、予告編見る?」と言ったら、小学3年生は、まだ可愛くないことを生意気に言ってみたいのと素直なところの狭間を生きてるので、「見たい」と言ってくれて、黙って90秒の予告編を見終わったら「俺、今泣きそうになったわ。すごい発想だね」と言ってくれて、普段は結構、生意気で、やんちゃな方が上に立つのに、映像の中での自分たちと同じぐらいの朝斗の存在や映像の中でのひかりの美しさを見て、小学3年生でも受け取れるものがあるんだなと思って。

河瀬
子供たちの感性は大人たちが閉じ込めてしまって窮屈になってる部分がすごくあるなと思うけど、彼らの世界はものすごく広くて、信頼をしてあげて良い。

辻村
まだ早いとか、これはきっと難しくてわからないとか、あれだけ自分が子供だった時に大人にやられると見くびるなよって思っていたのに、今やってしまいそうな自分がいて、でも予告編を見ていた時の反応を見ていたらまだ早いではなくて、見た時にどう感じるかは彼の自由だし、彼の感性で大人が窮屈に遮ってしまうことの方が大人の思い込みだったり先入観なんだなと思います。


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映画「朝が来る」は全国ロードショー中です。


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