決断の流儀
黒沢清(映画監督)×蒼井優(女優)
2020
10.09
10月16日から公開になる映画「スパイの妻」でタッグを組んだおふたり。太平洋戦争開戦直前の日本。満州で偶然、恐ろしい国家機密を知ってしまった高橋一生さん演じる優作。彼は正義のため、事の顛末を世に知らしめようとします。一方、蒼井さん演じる妻の聡子は、反逆者と疑われる夫を信じ、スパイの妻と罵られようとも驚くべき決断をするというストーリーです。出演者、スタッフなど、膨大な人数が関わる映画の現場。監督としては作品の内容だけではなく、予算や撮影環境など様々なシーンで決断が迫られます。
人の意見も聞く
- 黒沢
- 仕事は長年やっていますので自分が決めなければいけないことと人の意見を聞くべきこと、はっきりした基準はないんですけどもその場その場でなんとなく経験上それが分かって、それに沿って仕事はやってみますね。僕が決めることは決めて、分からないことは「ごめん、分からないからそっちでやって」と言うと、実にうまくやってくれたりするんです。難しいのは撮影が終わって、例えば、取材された時に全部僕がしゃべらないといけなくて「なんで、俳優はあそこであんな風な芝居をするんでしょ」と言われても、僕知らないんだけど答えなきゃいけないのみたいな、自分が全責任を負ったかのように作品にはこういう意図があってとか見所はここでとかね、これ一番辛い時なんです。この間、脚本を書いた、濱口という男と喋っていたんですけど、彼が書いた蒼井さんの最後の方のセリフで「あの女がその胸に住み着いたんです」というセリフがあるんですけど、書いた濱口が「これを書いたはいいけど、絶対言えないだろう。どう言うんだろうと思ってたら、あんな風に蒼井さんが言ったんで、物凄くいい意味で驚いて、なるほどと思った」と言ってました。
- 蒼井
- どう言うのが正解だったのか。
- 黒沢
- あれが、正解だったようですよね。
- 蒼井
- でも今回、それがけっこう多くて、一生さんのセリフでも、 これ自分だったら言えないな。どうやって成立させるんだろうというセリフがたくさんあるので、結果それを毎回他の役者さんでもそうですけど、正解を知りに現場に行くところもあったんです。一生さんの答えを聞いて、なるほどと、思いながら現場を過ごしていました。
蒼井優が決断をする時
- 蒼井
- 前までは、誰かの期待に応えたいとかがすごくあったんですけども、ここ10年ぐらいは、もう自分が楽しいと思うことの質さえ上がっていけば、人の迷惑にもならないですし、楽しいかどうか、かなと思ってます。子供の時は自分だけおやつをもらえたら、それは嬉しかった、けど、大人になってくると、みんなが食べてないのに一人食べるのは、全然楽しいと思わなくなる。そんな単純なことだけでなくて、自分が楽しいと思えることを豊かにしていけば、自分本位でいいのかなって思ってて、自分が楽しいと思う方を選んでいます。それ以外を考え始めると、元々すごく優柔不断なので、決められなくなるんですよね。あの人はこう思うんじゃないか、こっちから見たらこんなんじゃないかとかとなると何も決められなくなるし。
映画「スパイの妻」は、10月16日より 新宿ピカデリーほか全国ロードショーになります。