食から広がるクリエイション
藤原ヒロシ(音楽プロデューサー)×庄司夏子(シェフ)
2020
07.31
1980年代からDJとして活動し、音楽プロデューサー、ファッションデザイナーとして活躍されている藤原さん。一方、料理界に新風を吹き込む気鋭のシェフとして注目を集める庄司さん。彼女がオーナーシェフを務めるフレンチレストラン〈été〉は、一日一組限定で、世界の名だたる著名人たちも訪れています。
「食」の繋がり
- 藤原
- こんにちは。
- 庄司
- こんにちは。
- 藤原
- まず、初めての出会いは、全然覚えていないんですけど…。
- 庄司
- 私もさっき考えていたんですけど、おそらく私のお店が移転する前に来て頂いて。
- 藤原
- 代々木八幡にあったとき?
- 庄司
- だと思うんですけど。
- 藤原
- 思い出した。共通の友達に「すごい美味しいパンがあるよ」って誘われたんですよ。〈été〉は、デザートのイメージが強かったので、実はお料理がしっかりしているイメージはもってなかったんですよ。それで行ってみたら、何だったらお料理のほうが美味しいなと思ってたんです。両方おいしいですけど。
- 庄司
- ありがとうございます。その時、「脳みそみたいなパン」と言われました。
- 藤原
- 丸いパンで、それを半分に切るとパンの層が見えるっていうか、鱈の白子っぽいというか脳みそっぽい感じなんですよ。〈été〉は、ちょっと嫌な感じの言葉で言うと隠れ家レストランみたいな感じですか。
- 庄司
- 恥ずかしいですね。
- 藤原
- 最初、1席しかないと言われたので、どんな感じかなと思ったんですけど、すごい心地が良い感じのレストランでした。今年「アジアのベストペストリーシェフ賞」に輝いたんですよ。その大会に僕も行こうと思ってたんですけど、コロナの影響で、なくなってしまって。だから、ちょうどその日に仲良い3人でご飯を食べて、お祝いしたんですよ。
- 庄司
- おいしかったです。ありがとうございます。
“幻のケーキ”誕生秘話
庄司さんは今年、「レストラン界のアカデミー賞」ともいわれる「世界のベストレストラン50」のアジア版で、最高峰のパティシエを決める「アジアのベストペストリーシェフ賞」を受賞しました。彼女の名を一躍有名にしたのが、代表作「フルール・ド・エテ」。上質な紙を使った黒い箱の中に、バラの花びらをかたどったマンゴーのスライスをギュッと詰めた、まるでジュエリーのようなケーキ。入手困難な“幻のケーキ”と言われているのですが、そんな彼女の原点は、やはりスイーツにありました。
- 藤原
- なんで食の世界に飛び込もうと思ったんですか?
- 庄司
- 今、言うのは恥ずかしいんですけど、中学生の時に家庭科の授業が一番好きで、その時にシュークリームを作って、シュークリームがオーブンの中で膨らむ様子を見ていたく感動して、それを家でも作って、たくさんのお友達に配ったんですよ。それでお友達に「なっちゃんは、シュークリーム屋さんになるために生まれたんだからシュークリーム屋さんなった方がいい」って言われて、「わかった」と言って、そしたら、もう高校からは、食を学べる学校に行かないとまずいなと思って、それがきっかけで志しました。
- 藤原
- でも残念ながらシュークリームは、一回も食べたことないですけどね。今度、シュークリームを作ってください。
- 庄司
- 是非。
- 藤原
- 僕、シュークリーム好きですよ。
- 庄司
- そうなんですね。ではとっておきのを。
- 藤原
- その後はレストランに修行に出て。
- 庄司
- そうですね。高校に入学した時に、シュークリーム屋さんの自分が想像つかなくなってしまって。シュークリームは単価が100円だったりするので、それでどうやってランニングしていくんだと、ちょっと大人の脳みそじゃないですけども、大変だなっていうのはなんとなくあって。それで一旦シュークリームの夢は置いておいてフレンチのほうに進もうと思ったんですね。
- 藤原
- 料理をやって、でも結果的に最初に有名になったのはケーキですよね。
- 庄司
- 元々、23歳の時にお店をやろうとして、お金を借りないとお店をオープンできない。その時、受けられる融資が1000万だったんですよ。経歴もまだ全然なくて、どうやって集客するのか全く先が見えなかったんですよ。その時、レストランの目標はちょっと一旦置いといて、3秒で自分の物と分かる作品を世に発表しようと思ったんですよ。それがあのケーキだったんですね。「幻のケーキ」って呼ばれるまで頑張ろうと思って
- 藤原
- 23歳でお店をやるまでに、修行はあったんでしょ?
- 庄司
- もちろんありました。「フロリレージュ」と、今はもうないんですけど、代官山の「ル・ジュー・ドゥ・ラシエット」というお店で死ぬ思いで仕込みを終わらせて、その余った時間で魚をおろさせてもらったりとか、ソースの仕込みとかをやらせてもらったりしてたので、なんとなくオールマイティにやらせて頂いてて。
- 藤原
- そこで学んだものもあるという感じ。
- 庄司
- そうですね。
- 藤原
- あのタルトケーキはどうやってできたんですか?
- 庄司
- 元々、レストランにいた時に、お客様がアニバーサリーでいらっしゃってくださる方が多くて、デザートでお出しするプレートを私が作らせてもらっていて、その時にフルーツをカットして飾ったりしていると、お客様が喜んでいたので、こういうサプライズのものをレストランに来ただけじゃなくて、表現できたらと思ったのがきっかけです。
- 藤原
- それが、お花のタルト。
- 庄司
- そうですね。マンゴーの。
- 藤原
- そもそもあのタルトは見た目ファッションっぽいですよね?
- 庄司
- わたしのケーキの全てのインスピレーションがファッションとアートから来ていて、例えば、シャネルのマトラッセというクラシックなカバンがあるんですけど、そのカバンのキルティングの柄からインスピレーションを受けて桃のケーキができたりとか。ちょっと前にルイヴィトンのバージルがオフホワイトの透明のスーツケースを発表して、あれを見た時に、ケーキの世界にもこういう袋があって中を見せるものを作りたいと思って、それにインスピレーションを受けて透明なバッグを作ったりとか。料理でも、アートとかファッションとかに影響されて表現してるのが多いので、私にとってすごい密接なんですよね。
- 藤原
- ケーキは、特にやっぱりファンシーのものだから、お花だったり、フルーツだったりすぐ女性っぽくなってしまう。だから、そこを乗り越えたシンプルで美味しいものができたらいいですね。
- 庄司
- そうですね。