これからの生き方
いとうせいこう(作家、クリエーター)×星野概念(精神科医、ミュージシャン)
2020
05.29
価値観や生活のあり方を見つめ直す機会
- 星野
- 僕は、あんまり自炊とかしなかったんですけど、発酵関係のことをやってて一番今可愛がってるのが「ぬか」です。ぬか床始めて、家にいるので混ぜまくれるんですよ。野菜によって漬ける時間とか変えた方が美味しいですし、時々、乳酸菌を入れると、よくなるみたい。それが楽しいですね。
- いとう
- それはもちろん食べるためもあるし、発酵という現象が星野くんの知的な刺激をする現象なんだけど、けっこう集中力と時間が必要なものを観察できるということだよね。
- 星野
- そうですね。
- いとう
- 僕も家で長年、植物を育てているから古い茎をとって新しくしてあげたり、鉢を変えたりとかさ、位置をいろいろ変えたりやってますよ。
- 星野
- 最近、植物もたくさん家に入れたくなってるんですよ。週末は遊びに行ったり、飲みに行ったりしなくなり、家にいる時間が増えたんで、そうするとやっぱり家の中に植物がすご欲しくなってて、色々調べてるとこなんですよ。
- いとう
- この後、社会の哲学が変わっていくと思うけど、人が外に出られるようになってその時もいいような植物を選べるといいね。
- 星野
- そうですね。
- いとう
- 僕はいままで忙しいと、あの鉢を変えたいけどできないというストレスがあったわけ。今は全部自分の思い通りにするという時期。書斎も本の並びを直してみようかなとか忙しくてできなかったなぁ、いやだったなということをできるという。
- 星野
- 僕も引き出しにごちゃごちゃに入っていた漢方薬を整理したりとかしてますけど、こんな薬持ってたかみたいな。
- いとう
- 気休めかもしれないけど、できることも見ないとね。できないことに対する不満も鬱憤もあってもいいけど。あとはテレワーク。僕も配信アプリやたらと落として使ってるし、各々が別々のところにいながらどう共同作業ができるかをいま人類がやっているんですよ。これは新しいライフスタイルになると思うからこの中で何が楽しめるだろうと、発明し放題なんだよ。それは専門家がやることではなくて、配信アプリの人もわかってなくて、それをそんな使い方するかっていうやつが現れれば彼は世界中の人から賞賛されますよ。それはあなたかもしれないと思っています。
- 星野
- 僕、合唱したいと思って、ちょっとやってるコーラスグループの人達とやってみようと思ったんですけど、ちょっとずれるんですよね。
- いとう
- そういうニーズができたのもおもしろいよね。
- 星野
- 開発側もそういう方向にちょっと力を入れてくれたりしそうじゃないですか。
- いとう
- もうすぐなるんじゃないかな。
- 星野
- ですよね。そういうのができると想像力が働きそうですけどね。
- いとう
- 漫才でもコントもできるし、動乱の時期は、発明の時期ですよ。考えましょう。
- 星野
- そうですよね、揺れてるわけですからね。
- いとう
- 家の中にいるからもうすごく本を読む時間が増えて、基本的には電車の中でしか読まなかったけど、外に出られなくなったから。そうするとこの時期に得たものがのちにどういう風に自分に生きてくるのか、未来から自分を考えてみないと。いま資格の勉強してもいいわけよ。そういうことができてた時の自分が違ってくるなという未来を感じるのがすごく大事かなことかもしれない。
- 星野
- そうだと思います。友達は今の期間ずっと家にいて、めちゃくちゃ英会話をやってて、急にLINEが全部英語なんですよ。 そういう楽しみ方というか、転換のさせ方とかもあるなぁとか思って、普段、なかなか仕事とか沢山あったりするとできないですからね。
- いとう
- そういうためにはいい時間かもしれないから正しい情報を得ようとしながら、自分がコロナとまったく関係ないことができる時間を持つことは精神衛生上いいと思うんですよね。
読む薬?悩み相談に一緒に悩む?
- いとう
- 実は、星野くんと僕は対談集『ラブという薬』を出してて、ゆるくていいと評判で、発売記念イベントをやったら人がやたら来て、4回くらい続いて。
- 星野
- 発売記念にもほどがありますよね。
- いとう
- 最後はフェスになって8時間くらいやって、その模様が全部入っているのが『自由というサプリ 続・ラブという薬』。そこには相手との距離感の問題、精神科はどういうところなのかなどをもう一回しゃべり直したりしているので興味があったらめくってみるといいよ。世の中には「これが一番」とかが多すぎるから、「この言葉で治ります」ってそれは嘘だから、そうではなくてもっとゆっくり、自分を癒していきましょうよというのが書かれていると思いますので、僕はこういう本が必要だと思うから出してるんですけどね。
- 星野
- やっぱりすぐに答えを出そうとしないというか、答えを出そうとそもそもしてないじゃないですか、悩み相談を受けてるんですけど、悩み相談に答えるんじゃなくて悩み相談に悩む。そのままグラデーション的に終わっていくとう本ではありますけど。
- いとう
- 大きくいうとその悩みがあるのがあなたなんだから、そのあなたを尊重する時間をより持ってくれると僕らも悩みを共有できる。悩みを解決するのではなくて共有したい本だな。
- 星野
- そうですね。それだけで相談者の方はちょっと孤独ではなくなりますからね。
- いとう
- そこなんですよね。「個」でいることが大事なときだから、癒してもらいたいです。
いとうさんと星野さんによるエッセイ「自由というサプリ 続・ラブという薬」はリトル・モアより発売中です。