つらいなら精神科へ行こう

いとうせいこう(作家、クリエーター)×星野概念(精神科医、ミュージシャン)

2020

05.08

null

作家、クリエーターとして、活字・映像・音楽・舞台など、多方面で活躍するいとうさんと総合病院の精神科医として勤務する傍ら、□□□のサポートメンバーなどの音楽活動も行うほか、文筆家としても活躍する星野さん。実はおふたりは、月に一度、ほぼ定期的に顔をあわせる間柄なんです。

患者と主治医という関係性



いとう
こんにちは。いとうせいこうです。

星野
こんにちは。星野概念です。

いとう
星野くんは、実は、僕の主治医なんですよね。しかも、それは精神科。 精神科に通っているというと、おおごとみたいに捉える方もいらっしゃると思うんだけど、例えば、落ち込みやすいとか、人に話にくいことがあるとかそんな時にカウンセリングがありますよと、いう説明でいいのかな?

星野
色々なことで人は悩んだり不安になったりすると思うんですけど、それを誰にも言えないとか言う人がいないことがかなり辛いと思うんですよ。例えば、行きつけのバーとか、仲良い青果店のおばちゃんとか、どこかで話せるだけでも少し楽になると思うんですけど、そういうのと並列で話をしに行くみたいな。

いとう
そうなんですよね。もちろんいろんな精神的な病気で苦しんでる方もたくさんいらっしゃるんだけど、そのレベルから通常どうしてもイライラしちゃうとか、どうしても物事を考えた時に悪い方に考えるとかそういうレベルまで実は精神科の領域だと分かるとすごくみんな楽になるのね。

星野
そうですね。例えば、外来にいらっしゃる人でも恋愛相談や離婚問題を抱えていて、こういう事を弁護士さんに相談しようと思うみたいなことをお話しされに来る人も少なくないんですよ。医療の場所で相談しても別に何も解決するわけじゃないんですよね。でも多分その人の中ではまだまとまってない考えを話して何となく考えをまとめるお手伝いは出来るので、みんなが精神疾患の方というわけでもないと僕は外来をやってて感じてるんですよ。

いとう
僕も過去にパニック障害があったり、うつ病があったりしてるから自分の精神には自覚的なところがあって、自分でも行き詰まってる、どうしても人に怒ってしまうことを誰かに相談したい、でもどこに行ったりのかわかんない時にそうだ、星野くんがいるじゃないかと思って。今は、星野くんにざっくばらんに話して、1ヶ月の憂さを晴らして帰るという感じ。


不安を和らげる"プチ"アドヴァイス



いとう
例えば、一部でいいんだけど、代表的なものだとどういう心理療法があるんですか?

星野
一番ポピュラーなのは認知行動療法。物事の認知、考え方とか再検討したりだとか、行動をまずやってみて気持ちがどう変わるかやってみましょうみたいなのが、認知行動療法 。

いとう
ものすごく、落ち込んでるとして、その中で自分が今困ってることは何ですかと箇条書きにする、そうすると人は実際に起こってもいないことを不安に思ってるのね。

星野
そうそう。不安がどんどん膨らんで、少し妄想みたくなってるパターンもありますし、例えば、僕、今、病院を移ったばっかりなんですけど、周りから歓迎されてないんじゃないかなとか、そういうのが不安だなと思っているとするじゃないですか、そのことをずっと考えてると、そういえば、あの人がしかめっ面をしていたぞ、最終的には歓迎されてないに違いない、新しく来た自分を歓迎してくれないあの人たちは、すごい酷い人みたいな感じでどんどん自分の中で悪循環して架空の物語を進めてる時は、意外と多くて、それを聞きつつ、「現実的なことですか」とか「そういう状況にいるお友達がいたらなんてアドバイスしてあげられますか」という話をしながら、ちょっとずつ状況を客観視していくような方法ですね。

いとう
所謂、認知のゆがみを治していく。

星野
そうですね。偏ってたりとか、悪循環の考えを再検討する。

いとう
箇条書きで実際に起こってることと、自分が思ってることを書き出してみるのは、凄い大事だよね。書き出すのはすごいことだなって。

星野
そうですね。書いてみるのは、やはり頭の中を見える化するみたいなことなんで、外在化とかいますけど、頭ん中でぐるぐる考えてると、水に浮かんでる物体みたいな感じで、掴んでるけどいくつか浮いてる物体がどう並んでるのかが分かんないんです。それを書きながら紙に置いてくと、こういうものがあるからこういう順序で自分は考えてたのかとか。

いとう
俯瞰してみるみたいなこと。

星野
そうですね。


いとうさんと星野さんによるエッセイ「自由というサプリ 続・ラブという薬」はリトル・モアより発売中です。

これまでの記事

その他の記事